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パス成功期待値(xP):成功率ではわからない、パスの「難易度」や「うまさ」をデータで示す

パフォーマンス分析や選手獲得の観点から見て、パス能力は数値化することが最も重要な特性の1つですが、一般的に使用される指標である「パス成功率」は、選手の能力よりも、その役割によって大きく偏っています。例えば、ウインガーが敵陣に向かって上げるクロスよりも、センターバックが出す短い横パスの方が、成功率が高くなるのが普通です。しかし、これだけでは、センターバックの方が優れたパサーだとは言えません。

Stats Performのパス成功期待値(Expected Passes = xP)フレームワークは、それぞれのパスに関する情報を考慮し、それが成功する確率を算出することで、この問題を解決します。この記事では、個々のxPの値がどのようにパスのリスクを反映しているか、また、チームや選手が選択するパスの難易度を示すのに、試合やシーズンを通したxPの集計値が、どのように用いられるかを説明します。さらに、選手のパススキルを評価する指標、期待値と成功数の差Pass Completed Above Expected = PAx)を紹介します。この指標は、選手が試みたパスの難易度を考慮して、どれだけ優れたパスを成功させることができるかを評価するものです。

パス成功期待値(xP)

ゴール期待値(xG)がシュートの決まる可能性を示すように、xPフレームワークは、パスと現在のポゼッションに関する情報を用いて、パスが成功する確率をモデル化します。

まず、パスに関する基本的な幾何学的情報を取得します。

  • パス開始位置のX座標

  • パスの開始位置のY座標をミラーリングしたもの(例えば、ペナルティエリアの左端からプレーしたパスとペナルティエリアの右端からプレーしたパスは、どちらも20.1という値をとる)。

  • 終了位置に基づくパスの角度

  • 終了位置に基づくパスのおおよその距離

次に、パスに関する以下のような文脈的な情報を取得します。

  • 足でのパスか、頭でのパスか

  • クロスか、否か

  • オープンプレーか、セットプレーか

  • グラウンダーか、浮き球か

最後に、パスに至るまでのプレーについて、以下のような文脈的情報を活用します。

  • ポゼッションの中で、そこまで何本のパスが繋がれたか

  • パスの前に、どれだけの距離をドリブルしたか

  • 前の3つのプレーで、どれだけ速く攻撃方向にボールが動かされたか

  • 前のプレーは、味方によるものか、相手によるものか

  • 前のプレーは、どのようなプレーだったか(パス、セットプレー、守備的なプレー、ドリブル突破、ヘディングなど)

  • その前のパスの角度と距離は、どうだったか(前のプレーがパスだった場合)

これらの特徴を用いて、結果を観測し(0=失敗、1=成功)、パスが成功するかどうかの可能性を予測できるモデルに学習させます。0.2 xPはリスクの高いパス(5回に1回しか成功しないと予測されるパス)、0.8 xPは比較的リスクの低いパス(5回に4回が成功すると予測されるパス)を表します。

例えば、2020-21シーズンのリヴァプール対マンチェスター・ユナイテッドの試合を用いた、下のシーケンス(一連のプレー)グラフィックのように、個々のパスのxPを視覚化することができます。チアゴのフリーキックで始まったシーケンスは、すべてが0.85 xP以上の簡単なパスで、右ウイングへ到達した後、3本の速いパスでサイドチェンジしますが、アンドリュー・ロバートソンによる最後のクロスは、難易度が高く(0.41 xP)、失敗に終わりました(記事末の付録でこれらのxPのうち2つを定量的に説明する例を示しています)。

1シーズンあたりの合計xP

xGと同様に、このメトリクスでも個々のパスに対する値は、重要度が下がります。サンプルサイズが小さい過ぎると参考にならないので、各選手のパフォーマンスを表すことはできないためです。その代わりに、xPの集計値を用いて、各選手の1試合平均値や、チームのシーズン平均値を使うのが、好ましいでしょう。

例えば、プレミアリーグ2020-21シーズンでプレー時間2,000分以上の選手たちの、パス1本あたりの平均xPを出すと、ルベン・ディアス(マンチェスター・シティ)が最も成功確率の高いパス(平均0.92 xP)を試行しており、ニック・ポープ(当時、バーンリー)が最も成功確率の低いパス(平均0.45 xP)を出していたことがわかります。これらの値は、選手たちが与えられた役割を数値化するのに役立ちます。例えば、ディアスは、マンチェスター・シティの高いバックラインで、ボールを失ったら大ピンチという状況の中、比較的安全なパスを選択しており、ポープはバーンリーの得意とする空中戦を作り出すため、前線へのロングボールを多用していると読み取れます。

プレミアリーグ2020-21シーズン
平均パス成功期待値(xP)上位5選手 vs 下位5選手

期待値と成功数の差(PAx)

xPでは、試行されたパスの平均的な難易度を示すものですが、その選手がパスを成功させる能力をどれほど持っているかについて表しているとは言えません。観測されたパスの実際の結果(0=失敗、1=成功)から、パス成功期待値(xP)を減算することで、選手のパスを成功させる能力が、期待値と比べてどれだけ高いのか、または、低いのかを知ることができます。この指標をPAx、つまり、「期待値と成功数の差」と呼びます。

例えば、難易度の高いパス(0.2 xP)が成功する(結果 = 1)と、下記のようになります。

[結果 – xP = PAx]
1 – 0.2 = 0.8 PAx

一方で、難易度の低いパス(0.8 xP)が失敗した(結果 = 0)場合、負の値が算出されます。

0 – 0.8 = -0.8 PAx

この数値を用いて、シーズンや試合を通したチームや選手ごとの集計をとるのは容易です。例えば、選手Aが1シーズンに試行した1,000本のパスの合計xPが750で、そのうち800本を成功させたとすると、この選手のスコアは以下のように計算されます。

800 – 750 = 50 PAx

しかし、選手Bが同期間に2,000本のパスを試行し、xPが1,750で、1,800本のパスを成功させたとすると、選手Bは、選手Aより1,000本多くパスを試行していたにも関わらず、全く同じスコア(1800 - 1750 = 50 PAx)が与えられることになります。

そこで、パス1本あたりのPAx(PAx per pass)を用いて計算し、メトリクスを規格化することで、より公平な数値を算出できるようになります。選手Aの規格化されたPAxは、以下のようになります。

(800 – 750) / 1000 = パス1本あたり0.050 PAx

また、選手Bのスコアは、以下のように計算されます。

(1800 – 1750) / 2000 = パス1本あたり0.025 PAx

このように規格化すると、非常に低い数値が算出されてしまうので、パス100本あたりの数値に変換するといいでしょう。つまり、選手Aの100本あたりのPAxは5になります(言い換えると、選手Aは100本のパス試行で、5本分、パス成功期待値を上回ったということです)。

1シーズンあたりの合計PAx

プレミアリーグ2020-21シーズンにおける、プレー時間2000分以上の選手たちを再び見てみると、規格化されたPAxでは、ジャック・グリーリッシュ(当時、アストン・ヴィラ)が、上位に入っている(パス100本あたり7.8 PAx)のに対し、リシャルリソン(当時、エヴァートン)は、下位に沈んでいる(パス100本あたり-2.4 PAx)ことがわかります。言い換えると、昨季、グリーリッシュは100本のパスを試行する度に、平均的な選手が期待されるよりも約8本多く成功させていた一方、リシャルリソンの成功数は期待値よりも2本少なかったということです。

プレミアリーグ2020-21シーズン
期待値と成功数の差(PAx)上位5選手 vs 下位5選手

この2選手の特定のパスを次のような方法で抜き出し、グラフィック化することで、2人の違いを可視化できます。

  • 0.5 PAx以上の技術の高いパス(0.5 xP以下の難しいパスで、成功したもの)を青で表示

  • -0.8 PAx以下の技術の低いパス(0.8 xP以上の簡単なパスで、成功しなかったもの)を赤で表示

分析ツールでの使用例

Stats PerformのProVisionという分析ツールで、xPと、ポゼッションバリューやムーブメントチェーン(※)、プレッシャーなど、他のAIモデルを組み合わせて使用することで、特定のプレーを検出し、その映像を瞬時に見つけることができます。例えば、以下の例では、リヴァプールの2019-20シーズンにおけるムーブメントチェーンの中から、平均値のパス成功率が比較的高く(0.5 xP以上)、比較的脅威となる(xPV=ポゼッションバリュー期待値が中~高)クラスターを示しています。各クラスターを選択し、そこに含まれるムーブメントチェーンを表示することで、例えば、上記のxPやxPVの条件を満たしつつ、リヴァプールのペナルティエリア前から始まり、左サイドを経由して(クロス、シュート、ボールロストなどで)終わった連係を確認することができます。

※ムーブメントチェーンは、については、下記をご確認ください(未翻訳)。
Identifying Patterns with Movement Chains


上2枚のキャプチャは、Edge Analysisというツールのものですが、2023年中にProVisionに統合される予定です。

パスの難易度を数値化できるようになったため、もっと多くの文脈を考慮して、選手のパス能力を評価することが可能になります。例えば、同じパス成功率を持つ2人の選手がいたとすると、xPは両選手が試行したパスの難易度を示し、PAxは、そのパスを成功させるのに、両選手がどれだけの技術を持っていたかを数値化してくれます。xPとPAxを、他の先進的なメトリクスと組み合わせることで、パフォーマンス分析やリクルートメントに役立つ、洗練されたパスについての情報を見つけられます。

付録:xPの説明

xPフレームワークのような複雑なモデルがどのように判断を下すかは、SHAP(SHapley Additive exPlanation)プロットを使って説明することができます。SHAPプロットは、xPにポジティブ(青)またはネガティブ(赤)な影響を与える各モデル機能の重要性を示しています。例えば、先述のシーケンスにおけるナサニエル・フィリップスが出したパス(0.95 xP)のSHAPプロットは、比較的前方への角度(角度=147.5度、180度が前方へのパスで、0度が後方へのパス)のパスが、失敗のリスクをわずかに増加させていることを示しています。しかし、このボールが比較的自陣深くの、中央からプレーされたこと(x = 40、y_abs = 5)、グラウンダーパスであったこと(lofted = 0)、比較的後退したプレーの後に来たこと(vertical_progress_speed = -2.521。つまり、チアゴのフリーキックによってボールが相手ゴールから遠ざかった)などが、成功の可能性を大きく高めています。

『パス成功期待値(xP)』の章で示したグラフィック内の、フィリップスのパス

一方で、SHAPプロットによると、アンドリュー・ロバートソンのパス(0.41 xP)は、クロスであること(cross = 1)とファイナルサードの深い位置でプレーされていること(x = 91)が、パス成功の確率を大きく下げているが、(深い位置である一方で)比較的横方向へのボールであること(角度=99.82)と、その前のパスが比較的長いこと( prev_pass_dist=17.72 )は、成功率を僅かに上昇させている。

『パス成功期待値(xP)』の章で示したグラフィック内の、ロバートソンのパス

この記事は、Opta Analystに掲載されたものの翻訳です。
元記事はこちら:Introducing Expected Pass Completion (xP)

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