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勝手にファンタジー小説。ハロウィン選挙⑦

3人の間に漂う、気まずーい空気。
それを断ち切ったのはカイト君だった。

カイト「トライン兄ちゃん、もうやめてよ。
ルナお姉ちゃん、困ってるから。」

3人の中で一番年小さな手の平が、私の手を握る。

カイト「俺は、お姉ちゃんを信じるよ。
だから、あれを渡したんだ。
選挙って、そういうものなんじゃないの?
自分がいいって思った人に票を入れるんだよね?」


私の手を握る小さな手は震えていて、声も上ずっていた。


トライン「お前、分からないのか?
候補者なんかにいい奴なんているわけないんだ。
いい顔なんていくらでもできるんだぞ、こいつらは。
また騙されて、
利用されて、
あとはゴミみたいに扱われるだけなんだ。」


カイト「そんなことない!!お兄ちゃんのバカ!!!」


なんだか二人のやり取りがヒートアップしていく…これは大人として、
どうにかこの場を納めなければ。


ルナ「ねえ、トライン君?かな?
あなたに何があったのかは私は知らないけどね、
こうやって一方的に人を疑うのはよくないと思う。

昨日カイト君にもらったものは、本当に大事に取ってあるの。
今は持ち歩いてない。
もしどうしても信じてくれないなら、今から持ってくる。
それでいいかしら?」


トライン「へぇ~そうなんだ。
まあ、信じないけどね。
あれは、僕が候補者から奪い取ってやったものだ。
それをカイトがどうしても欲しいというから昨日渡した。

ねえお姉さん、僕はあれ以外にも飴を持ってるよ。
その飴を賭けて、僕と勝負しない?
もしあんたが勝ったら、僕の持ってる飴を全部くれてやるよ。
あんたが負けたら、昨日もらった飴は僕に返してくれる?

ね?悪い条件じゃないでしょ?」


ルナ「…断ったら?」


トライン「そうだね、手始めにあんたの悪い噂を村中に言って回ろうか。
子供を使って飴をもらってるって。
それってなんか卑怯だよね?正当なのかな?

まあ、この選挙は飴の数だけが大切だから、
そういう集め方もありなんだろうけど…
それを聞いた大人達はどう思うかな?
あんまり常識的じゃないよねww
もうあなたなんかに飴を渡さないよね??」


ルナ「な、なにそれ」


カイト「お、おねえちゃん。」

トライン「いいよ。
じゃあ、猶予をあげる。
もしかしたら、今から飴持ってくるってのも嘘かもしれないから、今すぐにとは言わないであげるよ。
僕もさすがに今飴は持ってきてないし、
僕は優しいからね。

明日の夕方。
またここに来るから、
その時飴を1個持ってきてね。
僕はあんたたちみたいに卑怯じゃないから、約束は守るよ。
明日、飴を返してもらいに来るから。

じゃ、またな、カイト。」


トラインという少年は、カイトだけに挨拶をして、そのまま部屋を出ていってしまった。


嵐のような怒涛の展開に、私はついていけなくて、しばらくあっけにとられていた。

カイト「おねえちゃん、ごめんね、俺のせいでなんか変なことに…。」

はっ!いけない、ぼーっとしてた。
私はカイト君の方に向き直り、


ルナ「大丈夫だよ!」


と、力強く私は答えた。


ルナ「でも、
どうしてあの子はあんなに候補者のこと…
てか、私の事??毛嫌いしてるんだろ。

もしかしてここに住んでる人みんな、
あんな感じで候補者の事思ってたりするのかな??」


カイト「トライン兄ちゃんは、こうほしゃの事大っ嫌いなんだ。」


ルナ「カイトくん、何か知ってるの?」


カイト「う、うん。
トライン兄ちゃんの所は今年飴玉たくさん配られたんだって。
最初は兄ちゃん嬉しそうに話してたんだ。

それでね、選挙期間が始まった時期に、こうほしゃの人がたくさんお手伝いとかに来たりしていたよ。
だから、その中でもとても良くしてくれた人に飴を少し渡していたんだって。

でもね、
ある時兄ちゃんのうちに盗みに入った人がいて、
その人はね、とても良くしてくれてた候補者の人で、
家にドロボーに入った時、トライン兄ちゃんのお母さんに怪我をさせたんだって。

今は兄ちゃんの家には飴はもうないって。
みんな知ってるから、候補者の人も誰も入ってこないからもう安心なんだって。

トライン兄ちゃんちの飴は、そのドロボーに入った悪いこうほしゃに全部持っていかれたんだって。
だから、信用しない、許さないって、兄ちゃん言ってた。」


ルナ「そんなことがあったの…。ひどいね。

あの、ひとつ聞いてもいいかな?
配られる飴の数って毎年変動があるってこと?」


カイト「うーん…あんまり分からない。
けど、みんな一緒の数もらうわけじゃなくて、
多かったり、少なかったりするんだよ。

うちは今年はあんまりもらえなかったって、母さんが言ってた。」


ルナ「そうなんだ…。」


カイト「トライン兄ちゃんは、こうほしゃの事が嫌いになってから、
たまにこうほしゃから飴を盗んだりするようになって、
それで俺も一緒に遊んでるうちに…」

ルナ「じゃあ、本当に飴をまだ持ってるってことだね。」

カイト「うん、持ってるよ。見せてもらったから。」

ルナ「危険だよ、そんなこと。
やめさせないと…。」


カイト「お姉ちゃん、トライン兄ちゃんは火の魔法を使えるよ。」

ルナ「え!?」

カイト「多分明日、お姉ちゃんに使って、参ったって言わせるつもりだと思う。」


ルナ「そうなんだ…。
分かった。ありがとね、カイト君。
実はね、カイト君からもらった飴。
あれ、私が初めてもらった飴なんだ!
だから本当にうれしくてね、できたら手放したくないんだ。
だから返さなくてもいいかな?」


カイト「うん。
あれは俺がお姉ちゃんにあげたやつだから、
持っててほしい。」


ルナ「そっか!わかった。
じゃあ明日、負けないようにしないと!」

私は一通り話をして、カイト君の部屋を出た。
もう夕日も傾いて、外は夜に向かってまっしぐらだ。

今日もまた一つ、この村の闇を見た。
昨日のサントの話を思い出す。
やはり、何かがおかしい気がする。

この村の選挙って???

村をよりよくするために選挙をするのではないの??

どんどん、この選挙が何を目指しているのかが分からなくなるのである。


(つづく)

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