見出し画像

ドラマ『トゥルー・ディテクティブ サード・シーズン』

2019年/製作国:アメリカ/上映時間:約8時間(全8話)
原題
TRUE DETECTIVE
監督
 ジェレミー・ソルニエ(1,2) ニック・ピゾラット(4,5) ダニエル・サックハイム(3,6,7,8)
脚本 ニック・ピゾラット



予告編(日本版)


予告編(海外版)


オープニング



STORY

 アメリカ、アーカンソー州、ウェストフィンガーにて1980年に発生した2人の子どもの失踪事件(通称:パーセル事件)は、未解決のまま35年の月日が流れた。
 関係した人々のその後の人生を大きく変えることとなったその未解決事件に、老齢となり記憶障害を患う身となった(もはや刑事ではなく一般市民である)、当時の事件担当刑事ウェイン・ヘイズ (マハーシャラ・アリ)が、自身の薄れゆく記憶、ジャーナリストによりもたらされた新たな情報、妻のアメリア・リアードン(カルメン・イジョゴ)の残した事件に関するノンフィクション書籍、等の情報を頼りに、成長し刑事となった長男、そして共に捜査を担当した相棒ローランド・ウェスト(スティーヴン・ドーフ)の助力も仰ぎつつ、1980年、1990年、2015年という3つの時間ときの記憶を行き交う、執念の個人捜査を開始する。

 はたしてウェイン・ヘイズは、その記憶と命に夜のとばりりる前に、多くの人々の人生を変えた未解決事件に光をもたらすことは出来るのか・・・
 今、一人の『トゥルー・ディテクティブ』が、人生を賭けて挑む最後の戦いが始まる。
 


レビュー

 ※微妙にネタバレありのため、未見の方はご注意ください。というか、未見の方には「意味不明」のレビューとなっております

 ファーストシーンから最初のセリフまでの約50秒の流れまでで既に、カッコ良過ぎて震えました。
 以下、その50秒についてのレビューとなります。
 
 まず事件の起こる田舎町(ウェストフィンガー)の土地柄を、3つの空撮シーンによりテンポ&リズムよく提示し、その後に(その時点では)誰なのかわからない、しかし子どもの漕いでいる、左方向へと進む自転車の車輪を映すのですけれども、この自転車の車輪の回転が「反時計回り」となっており、それは「過去」の時間(ないし過去に遡っている時間)を示しています(タイヤの回転を用いて時間を表現するのはよく使われる手法ですよね)。
 それからその映像と共に流れる自転車の車輪の発する音(シートステーに白と黒の2本の洗濯バサミにて紙片を固定することにより、タイヤ回転時にスポークとスポークに取り付けてある反射板にその紙片が触れ、音を発する仕組みとなっている)が素晴らしい効果を発揮します。
 
 次のシーンに移ると鏡台に置かれた古い型のテープレコーダー、ファイリングされた古い資料、そして丸形の文字盤を持つ腕時計を順に映してゆくのですけれども、この時、ひとつ前のシーンの音である「子どもの漕ぐ自転車のタイヤの発する音」は切り替わった映像にも継続して被せてゆきます。そしてこの場面ではその音に対して更に、「時計の秒針が刻む音」のような(0.3秒間隔くらいの)音を追加して被せてゆくのですけれども、そうすることにより音によって、前後のシーン(映像)に強い関連性のあることを鑑賞者に示してゆくわけです。また後のシーンにも音は継続し、やがてそれらの音のリズムは、主人公が懸命に記憶を辿ろうとしているその思考のスピードをも反映していることが分かる仕組みとなっています。
 ちなみに腕時計は縦置きではなく横置きとなっており、その針の回転は子どもの自転車のタイヤとは真逆(時計回り)となっていることから、ひとつ前のシーンとは別の時間&時代(現在)であることを示しています。自転車のタイヤと腕時計の円は対を為しており、円は様々な要素を想起させる図形であるため、視覚的にも象徴的にも美しい表現となっています。
 
 次のシーンに移行すると、ストライプのシャツに下からボタンをかけてゆく黒人の男の手のアップが映されますけれども(この時点では誰なのかわからない)、映像のピントはシャツの最後のボタンの穴に合わせてあり、その他は意図的にボケさせています(ということは、最後のボタンの穴を映すことにより何かを表現したいわけです)。
 ※シャツのボタンの形も「円」
 シーンが移り、白髪の男(現在の年老いたウェイン・ヘイズ)が鏡に映った自分を観ながらシャツの最後のボタンをかける手を止め、何かを思い出そうとしているかのような表情をします。
 そこに年老いた男性の声による「あぁ、もちろん覚えている」という本作最初のセリフが挿入されます。しかし画面に映る年老いたウェイン・ヘイズの口は一切動かないため、鑑賞者はその声が、年老いたウェイン・ヘイズの頭の中より発せられている声であることを理解します。
 シーンが移り、今度は年老いたウェイン・ヘイズの戸惑った横顔がアップで映ります。しかし今度はかなり若い男の声にて「かなり前の話だ」とのセリフが発せられ、それと同時に年老いたウェイン・ヘイズが何かを思い出したかのように鑑賞者の方へと顔を向けます。
 すると次のシーンが浮かび上がり比較的若い頃のウェイン・ヘイズが映し出され、先の2つのセリフの声の中間くらいの年齢の声にて「まだ10年だ。全て覚えている」と話します。
 
そこで画面に
 アーカンソー州警察
 ウェイン・デイビッド・ヘイズ
 証言録取日 1990年5月12日

のテロップが表示されます。
 で、ここまでが本編開始から50秒までの流れです。

 少し説明を補足しておきます。
 まず、年老いたウェイン・ヘイズがストライプのシャツを着ている理由のひとつは、ストライプの直線(縦線)が時間軸のメタファーとして使用出来るからかもしれません。シャツの上方のボタンの穴にわざわざ映像のピントを合わせて強調したのは、いくつか理由が考えられますけれども、その一つは主人公の年齢に関係しているでしょう。端的に記すと「主人公に残された時間は少ない」ということです。要するにシャツのストライプの縦線を時間軸に見立て、年齢の推移と同じく下から上にボタンをはめてゆくことにより、ウェイン・ヘイズの年齢が寿命の限界近くまで上がってきているということを表現しているわけです。
 またシャツのストライプの縦線の連なりは、刑務所の牢屋の鉄格子を連想させることから「主人公がある事件とその記憶に囚われている」ことのメタファーとみて間違いないでしょう。
 シャツの「ボタンを空いた穴にはめてゆく」という行為は、「証拠」「情報」「記憶」等を「空白部分に当てはめてゆく」という行為のメタファーとしても機能するように感じますがいかがでしょう。
 あと例の時を刻む音は45~50秒当たりにて消えてゆきますけれども、なぜそこで消すのかといえば、3つの時間を表現し終わった(繋げた)からです。
 3つの時間というのは「1980年、1990年、2015年」の事です。まず自転車のシーンまでが事件発生時の「1980年」です。そして腕時計~年老いたウェイン・ヘイズが何かを思い出したかのように鑑賞者の方へと顔を向けるまでが「2015年」、そして中年のヘイズがアーカンソー州警察にて事情聴取を受けているのが「1990年」です。
 恐ろしく巧みなのは、「あぁ、もちろん覚えている」という声は「2015年」、「かなり前の話だ」という声は「1980年」、「まだ10年だ。全て覚えてる」という声は「1990年」のヘイズの声であるということ。
 なんと年齢により、声の質を変えているのです・・・(こだわりが凄すぎる)
 もちろん初見時にはそんな仕掛けがあるとは知りませんから、案の定混乱し、再生機器もしくはヘッドフォンの故障(音声不良)かと勘違いしてしまい、思わず巻き戻して音を確認してしまったくらいです(日本語版へと変更して確かめたりもしました)。
 ※ちなみに日本語吹き替え版では声の質は1種類となっており、時代ごとに変わることはありません。ゆえに本作は英語+字幕による鑑賞が(個人的には)おすすめです
 それから「1980年」のヘイズのネクタイの柄は水玉となっており、やはり「円」の形が入っております。
 まだありまして・・・
 男の子の乗っている自転車は「黒」、女の子の乗っている自転車は「白」であるということ(ラストにてその意図が判明します)。
 そして時間等を表現する音を作り出していた子どもの自転車の「シートステーの白と黒の2本の洗濯バサミ」「洗濯バサミで固定されスポークとスポークに取り付けてある反射板がぶつかる紙片」と「それらの映像」については、上手く表現することが出来ないため今は記せずにおきますけれども、「事件担当刑事2人の運命に関する」重要なメタファーを含んでいるような気がしております(まだ一度しか通しで鑑賞していないため、確信がありません・・・)

 
 というわけで、開始50秒にてこの情報量でございます(たぶん見逃しているメタファー有)。
 本レビューにて、本作が途轍もなく素晴らしい作品であることが伝わりましたら、幸いです。


『TRUE DETECTIVE』 シーズン1~3 視聴おすすめ順

 『TRUE DETECTIVE』は、現在シーズン4まで発表されておりますけれども、シーズン4は生みの親であるニック・ピゾラットが一切参加していないため(しかも面白くありません)、個人的には『TRUE DETECTIVE』から除外させていただきます。
 そうなると1、2、3のどれが一番面白いのかということになるのですけれども、どれも最高に面白いため、順位を付けることは出来ません・・・
 それぞれ全く別の面白さを持っているからです。

 ただ、誰にでも安心しておすすめ出来るのは間違いなく「シーズン1」であると言い切れます。シリーズ中最も後味が良く、話も分かり易すくて楽しめる最高のエンターテイメント作品だからです。
 
 「シーズン2」は個人的に一番好きで、既に3回、通しで視聴しております。
 ただし、一般的な評価が低いことからもわかるように、人を選ぶ内容となっております。
 ※勧善懲悪を好む方は「シーズン1」⇒「シーズン3」⇒「シーズン2」の視聴順がおすすめです

 「シーズン3」はまだ一度しか通しで視聴しておりませんけれども、完成度と奥深さにおいては一番かなと感じております(再鑑賞しましたら訂正もしくは追記いたします)。
 表面的なエンターテイメント性は最も低いかもしれませんけれども、兎に角とんでもない密度と精度でもって鑑賞者を魅了します。
「文句のつけようがない」というのは、「シーズン3」のためにあるような言葉ではないかしら・・・、と思う程に。

 これから視聴なさる方の参考となりましたら、幸いです。

 

 
 



 


この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

おすすめ名作ドラマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?