アイドル彼女は素っ気なくて甘くて 第11話
夜、
俺と岩本さんは、
2人揃って晩ご飯を食べた。
岩本さんはいつも通り、
俺のご飯を美味しそうに
食べてくれる。
蓮加:ごちそうさまでした。
◯◯:ごちそうさまでした。
蓮加:今日も美味しかったよ、ありがとう。
◯◯:とんでもない。僕も岩本さんが喜んで食べてくれるから、嬉しいよ。
蓮加:じゃあ私、課題やってくるね。
岩本さんが席を立とうとした時、
…
…
俺は声を振り絞って
体を引き留めた。
◯◯:…岩本さん。
蓮加:ん、何?
◯◯:その課題って、後日でも良い?
蓮加:うん、良いけど、簡単だし。
そう言うと、
岩本さんは椅子に座り直す。
◯◯:話したいことがあるんだ。
蓮加:…うん。
俺は、ほんの少し
…決断の間を置いて、
話を切り出す。
◯◯:岩本さん…"無理"してない?
蓮加:えっ…?
岩本さんは驚いたようだったが
すぐにいつもの"笑顔"に戻り、
蓮加:別に、無理なんてしてないよ?
…
…
◯◯:その笑顔、やっぱり"無理"してる。
ーーーーーー
私は、
言葉が出てこなかった。
◯◯:何回も何回も、その"辛い表情"を見たことがあるから、僕には分かる。
蓮加:今…何て…?
◯◯:その笑顔は、自分の感情を無理やり"押し込めてる"時の笑顔。…だよね?
心を見透かされているようだった。
松尾くんの言ってることは
まさに図星だったし、
自然と私の体が
熱くなっていくのが分かる。
◯◯:「彼氏」らしいことなんて何もできてないし、「彼氏」なんかに見られてないことも分かってる。
蓮加:そ、そんなことは…
◯◯:でも、岩本さんになら話せる。
松尾くんはメガネを外し
前髪をかき上げ、
顔を全て曝け出す。
◯◯:初日に見られちゃったかもしれないけど、この"傷"のこと、それに関係する"俺"の過去のこと…隠さず話すよ。
蓮加:…え?
◯◯:岩本さんには、本当の"俺"を知って欲しいと心から思える。
松尾くんは
深く息を吸って背筋を正すと、
◯◯:俺だけじゃなくて、本当の"岩本さん"を…素顔の"岩本さん"を、俺にも見せて欲しいって。
蓮加:松尾くん…
◯◯: 大丈夫、俺も受け止めるし、全部"受け止め合える関係"になりたい…ってことを伝えたい。
…そして、
松尾くんは、
ゆっくりと少しづつ
…過去の事を喋り始めた。
ーーーーーー
〜〜〜〜〜〜
…
…
…俺が中学生の時の話。
今の俺からは想像できないほど、
俺には多くの"友達"が居た。
勉強なんて特にしなくても
そこそこ成績は良かったし、
不自由なんて特に無かった。
そして、"遥香"とは、
2年の冬に知り合った。
その時クラスメイトだったのだが
当時陽キャだった俺と、
人見知りだった遥香が関わる
世界線は存在しなかった。
本当にたまたま
授業の準備に一緒に、
駆り出されたことが
きっかけだった。
その後も、目があったときに
少し会話をする程度で、
特に親しくする仲ではなかった。
…
…
物静かでいつもクラスの隅に
独りぼっちの遥香だが、
女の子らしい雰囲気と顔で、
一部の男子からは人気があった。
それは俺の"友達"の間でも
例外ではなく、
遥香を含め可愛い女子達の話題は
引っ切りなしだった。
そして、俺と遥香は
3年次もクラスが一緒になった。
…しかし、
俺達の人生の歯車が
狂い出したは、
3年に進級して少し経った
ある日からだった。
ーーーーーー
突然、
遥香に対する
"いじめ"が始まった。
遥香が男子の間で人気なことが、
スクールカースト上位の
いわゆる"1軍女子"の耳に伝わり、
その女子達が、徹底的に遥香を
蹴落とそうと仕掛けてきた。
SNS上での遥香に対する誹謗中傷、
遥香の物を隠したり破壊する行動、
座ってる椅子ごと蹴り飛ばす暴力。
…
…
それを外から見ている奴らは、
見て見ぬフリを決め込んだ。
1軍女子の多くは、
サッカー部やバスケ部などの
イジメっ子男子と
付き合ったりしていて、
遥香を庇ってしまったら、
自分がいじめられてしまう
という懸念があった。
ただ、遥香は何を言われても
気持ちを押し込み、
何をされても
誰にも助けを求める事なく、
いじめを無抵抗で受け続けた。
その時の表情こそ、
俺が見た岩本さんの
"笑顔"とそっくりな、
"愛想笑い"のような表情だった。
ーーーーーー
続く。
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