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アイドル彼女は素っ気なくて甘くて 第12話

いじめが続くある日、


体育の授業のために

階段を降りていると、


後ろの方から大きな音がした。


俺が慌てて後ろを振り返ると、

踊り場に遥香が横たわっていた。


◯◯:え…!?賀喜さん!大丈夫!?


俺は階段を昇り

遥香に駆け寄った。


遥香:痛ったぁ…


階段の上を見ると、

1軍女子達の姿があった。


遥香を後ろから

突き落としたのだろうか。


俺の姿を見るや否や、

女子達はどこかへ消えてしまった。




◯◯:賀喜さん、本当に大丈夫?


遥香:怖かった…うぅ…


◯◯:え?


遥香はそのまま俺の腕の中で、

静かに泣き出した。


初めて、遥香の弱い心を

知った気がした。


今まで溜め込んでいたものが、

溢れてしょうがない様子だった。


その後、保健室に連れて行くと、


右足の捻挫程度で済んでいたようで、

遥香はそのまま病院へ向かった。


…この時、俺は、


遥香を絶対に守り抜くと

決心した。




ーーーーーー




この日を境に、


俺は遥香をいじめにくる

女子達を静止し始めた。


すると、効果はあったようで、


1軍女子達のいじめの手は

徐々に引いていった。


その辺りから

俺と遥香の関係は深まり、


お互いの家に遊びに行くような

間柄となった。




ただ、


俺達の関係を良く思わなかった

"友達"の1人が嫉妬し、


収まり出したと思った

女子達のいじめに加担。


それに続く形で、


周りの男子達は俺を嫌いだし

更にいじめに参加。


いじめのベクトルは

次第に"俺"に向き始めた。


俺のノートは破かれ、


俺の物の数々はどっかに

行ったっきりになった。


遥香は俺のことを心配し

何度も助けを差し伸べたが、


俺は「大丈夫だから」の

一点張りだった。


俺が立ち上がらなければ、


遥香はもっと"悲しい思い"を

し続けるだけだ。


引き下がるわけにはいかなかった。




ーーーーーー




そして6月の雨が降るある日、

俺と遥香は一緒に帰っていた。


後ろから音が

近づいてきてると思った瞬間、


背中に衝撃が走り、

俺は前に吹き飛んだ。


痛みに耐えて起き上がり

後ろを見ると、


そこにはかつての"友達"たちが

遥香の腕を掴んでいた。


男1:なぁ賀喜さん、あんないじめられっ子と仲良くすんじゃなくてさぁ、俺たちと仲良くしようよ。


男2:君のためになると思うけどな。


遥香:ちょっ、や…やめて…


◯◯:お前らいい加減にしろよ…


俺はノソノソと奴らに近づき、

やり返そうとしたが…


男3:弱ぇくせに調子乗ってんなよ!?


一回り以上も体格で勝る奴に

呆気なく止められ、


俺は投げ飛ばされた。




投げ飛ばされた場所には

道路の縁石があり、


俺は左のこめかみ付近を強く打った。


◯◯:うぐッっ!??


立ち上がろうとするが、


側頭部から生暖かい血が

大量に流れ頭がグラグラし、


雨に濡れる体は言うことを聞かず、

脳が意識を手放そうとする。


◯◯:お…前ら…


遥香:松尾くんっ!?


遥香は自分の傘を投げ捨て


あの時の俺と同じように、

駆け寄ってくれた。


男1:なぁ、ヤバいよな、あれ…


男2:さっさと逃げるぞ!


…"友達"はその場から、

俺の元から去っていった。




ーーーーーー




俺の意識が戻った時、

俺は病院のベッドに寝ていた。


その周りを両親や担任の先生、

遥香が囲っていた。


◯◯:…ん、


遥香:松尾くん…!?


母:◯◯、大丈夫!?


父:何があった!


担任:誰にやられたんだ?覚えてるか?


この時「俺の"友達"です」と言えば、


ある意味、幸せな暮らしを

続けられた気がする。




しかし、俺が思う以上に、


"友達"だった奴らの裏切りが

ショックだったのかも知れない。


いや、


ちょうど左のこめかみに

あったのかも知れない。


"人間関係"を司る

何かが切れた気がした。


◯◯:誰でもいいって…


そんなくだらないもの、

どうでもよくなった。


この"傷"がある限り

俺はこのいじめを忘れないし、


人間に対して嫌悪感を

抱き続けるかもしれない。


だけど、今こうして俺の顔を見る

遥香を守れたことが、


遥香がこうならなくて

済んだことが、


俺の唯一の救いだった。




ーーーーーー




続く。

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