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#24 料理を禁じられたクッキングパパ

「パパは最強なんです。どんな奴も一撃。」
20代前半の後輩は、自分のことのようにパパの話をしてくれる。父親に殴られるのがこの世で一番痛いから、ほかの誰のパンチも怖くない、みたいな話らしい。僕の人生にはパンチがまず登場しないので、後輩の話は別次元を覗いているようでおもしろい。

「パパ」というかわいらしい響きと、「最強」がどうも結びつかない。範馬勇次郎で想像したいのに、頭の中にはいつの間にかクッキングパパがいる。
パパは、身長160cm前半、目つきが鋭い、空手日本一らしい。チャ、チャンピオン…

夜の街で絡んできた肉体系労働者を、拳に時計を巻いて顔面直撃一発KOした話など、最強エピソードを教えてくれた。後輩も何かやらかす度鉄拳制裁をくらい、最強を体で味わったようだ。
学生時代に先輩に呼ばれて脅されようが、同級生に集団で囲まれようが、一番強くて痛いパンチを持っているのはパパ。あれ以上の痛みはないと確信しているので、何も怖くなかったらしい。暴力で溢れた世紀末みたいな世界に、最強のパパがいてよかったね…

そんな立ち話を会社の外でしていると、会長が僕たちに近づいてきた。何かを手に持っている。
「後輩くん、資格まだ持ってないでしょ。これで勉強して。」
クリップで留められた紙の束。手書きで記されていたのは、「○○資格、必勝問題集」というタイトル。
得意でない資格勉強を避け続けていた後輩は、苦笑いで「頑張ります」と答える。最強のパパのおかげでいつでも無敵状態だと思いきや、会長の言葉に一発食らわされた後輩。この時ばかりは、範馬勇次郎ではなく、料理を禁じられたクッキングパパのように弱体化したかわいいパパが、彼の後ろで微笑んでいたような気がする。

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