834 こども未来戦略方針 対策への本気度に疑問秋田魁新聞 2023年6月15日

岸田総理の記者会見を聞いたが、印象は各新聞社説と同じ。ここでは秋田魁新聞のものを掲載した。

 2030年までがラストチャンスの問題認識はよい。しかし3兆円台半ばの財源をいかにして工面するのか。

 総理の文脈ではこうなる。①少子化対策には巨費が必要だ。②どこかに財源が落ちていないかみんなで探そう。③数年後(自分が総理の職を辞した後で)財源は見つからなかったとの報告が上がってきて少子化対策は頓挫する。④でもそれは自分の責任ではない。

 財源がないことを承知の上で、財源がなければ少子化対策は実現しないと言っているのだから、子どもだましにもなっていない。しかるに野党もマスコミも踏み込みがない。

 カネがないなら、カネを使わない少子化対策を考えるのが政治家や官僚の知恵の出しどころだろう。どうしてこの国の政治はカネ、カネにしかならないのだろうか。

 昔から「貧乏人の子だくさん」という。十分な経済支援がなければ子を産めないというのは歴史の事実ではない。人類はずっと貧しく、それでも人口は増えてきた。

 これは防衛費財源についても同じだ。装備や銃弾、糧食の準備は待ったなし。侵略されて殺されたくなかったら、防衛体制を固めるしかない。出もカネがない。ならばどうする。ボランティアすなわち徴兵制も考えるしかないのではないか。装備品を開発し、輸出することで国内使用分の単価を下げるなど躊躇する場合ではないだろう。

 一方的に侵略され、国民が殺される。ウクライナからの情報を手にしながら、手をこまねいていていいのか。99%の国民には国を捨てて国外に逃げるという選択肢はないのだ。

 総理は質問への回答で衆議院解散をちらつかせていた。何のために?

選挙で勝てば「信任を得た」ことになる。それがどうした?

 と思っていたら「今国会での解散は考えていない」と軌道修正されたとか。

 選挙が済めば財源がわいてくるとでもいうのだろうか。あり得ない。岸田内閣の方針が間違っているという国民は多くない。言っていることの実現性が怪しいと懸念しているのだ。政治は実行、結果がすべてのはず。政局ごっこで政治をしている気になって自己陶酔するのではなく、まじめな政策実現への議論を国民と交わしてもらいたい。 

「社説本分」

 政府は「次元の異なる少子化対策」の「こども未来戦略方針」を閣議決定した。2024~26年度の集中対策期間に年3兆円台半ばを追加投入。児童手当拡充、出産費用への支援強化、育児休業給付の引き上げなど経済的支援に力を入れる。巨額の財源を誰の負担でどう確保するのかが今後焦点となろう。

 岸田文雄首相は記者会見で、財源に関し「徹底した歳出改革により確保することを原則とした」と述べた。果たしてそれだけで3兆円超もの巨額の財源を捻出できるものなのだろうか。首をかしげざるを得ない。

 歳出のどこに大なたを振るおうとしているのかが見えない。これでは国民にどんな“痛み”が降りかかるのか判断するのも難しい。

 岸田首相は、歳出改革は年末の予算編成で具体化するとして「(国民に)追加負担を生じさせない」と述べた。裏付けとなる財源を明確に示さないのは無責任な先送りにほかならない。

 方針は新たな「支援金」の枠組み構築に触れた。公的医療保険など社会保険料への上乗せを念頭に置くというから、国民負担増につながる可能性がある。

 財源の不足分はつなぎ国債で賄う方針。借金をさらに重ねて少子化対策を進めるのは将来世代に対して酷なやり方だ。

 国民負担に触れたくないために、財源に関する詳述を避けたとも映る。ところが岸田首相は先送り批判は「適切でない」と反論。先送りを認めたくないよほどの理由があるのだろうか。

 会見で衆院解散・総選挙について問われた岸田首相は「いつが適切か(中略)、情勢をよく見極めたい」と述べた。これまで衆院解散については「今は考えていない」と繰り返してきたが、明らかに異なる言い方になった。

 政府は防衛財源確保に向けて計画する増税の実施時期も従来方針の「24年以降」から「25年以降」を念頭に先送りする検討に入ったという。早期解散を意識した動きで、選挙で勝つためのなりふり構わぬ与党の姿勢が透ける。

 立憲民主党など野党側が解散時期が近いと気を引き締めるのは当然だろう。野党が内閣不信任決議案を提出する動きへのけん制とも見られるが、議員任期の折り返しにもならない時期の解散に大義があるのか疑問だ。

 岸田首相は会見で「少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」と繰り返し訴えていた。それが本気ならば、会期を延長してでも少子化対策の財源問題について野党も交えて議論するのが筋だろう。それをやらずに首相自ら解散風を吹かせているようでは少子化傾向反転への本気度が疑わしい。

 負担先送りを繰り返していれば将来世代にしわ寄せが及ぶ恐れがある。国民に負担を求めてでも実現すべき政策に取り組むのが「ラストチャンス」を口にする政治家の気概ではないか。

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