貧困の連鎖を止めるには子育て支援が有効

貧困の連鎖を止めるには、教育支援が必要だと言われている。確かに、家庭の経済的な事情で大学に行けない子どもがいるだろう。しかし、貧困の連鎖を止めるには、教育支援よりも子育て支援の方が有効である。なぜなら、教育を受けとる学ぶ力は子育てで生まれるからである。

遊園地で母親に抱かれた幼児は、目を輝かせてメリーゴーランドや乗り物を見つめる。しかし、遊園地で母親を見失って迷子になった幼児は、メリーゴーランドや乗り物を見ないで、母親を捜し求める。

母親は子どもにとっての安全基地として機能している。母親という安全基地があるからこそ、子どもは世界を探索することができる。母親を見失った子どもは、世界の探索どころではなくなる。すなわち、母親は子どものそばにいるだけで、子どもの学習を生みだす働きをしているのである。

子どもを受け入れない母親は、その度合いに応じて安全基地として機能しなくなる。母親が子どもを受け入れる度合いが、母親が安全基地として機能する度合いになる。それが母親への信頼度である。母親への信頼が育っている子どもほど学ぶ力が高くなる。

貧困家庭の子どもでも、学ぶ力が高ければ、高校に入れるし大学にも入れる。また、大学を出ていなくても、学ぶ力が高ければ、社会で十分にやっていける。松下幸之助は父親が事業に失敗して、小学校4年生までしか学校に行っていない。しかし、社会に出て松下電器(パナソニック)を作っている。


人の不幸は蜜の味という言葉がある。幸せな人ほど、他者の幸せを喜び、他者の不幸を悲しむことができる。しかし、不幸な人ほど、他者の幸せを妬み、他者の不幸を喜びがちである。自分が不幸でありながらも、他者の幸せを喜べる人はそんなにいないだろう。

子どもも同じである。幸せな子どもほど、ほかの子どもの幸せを喜び、ほかの子どもの不幸を悲しむことができる。しかし、不幸な子どもほど、ほかの子どもの幸せを妬み、ほかの子どもの不幸を喜びがちである。それが、いじめや差別を生む。

日本の国民総生産(GNP)は世界3位である。しかし、ユニセフが2020年に発表した先進38か国の子どもの調査で、日本の子どもの「精神的幸福度」は37位だった。下から2番目という低さである。日本には不幸な子どもが多い。それで、日本でいじめや差別がなくならないのである。

大人の幸せはお金や物で得られるかもしれない。しかし、子どもの幸せはお金や物で得られるものではない。母親への信頼が育っている子どもが幸せな子どもである。母親への信頼が育っている子どもは、情緒が安定し、旺盛な探求心と向上心があり、ほかの子どもをけっしていじめない子どもに育つ。そして、自分を大切にし、他者を大切にする優しくて強い大人になる。


人はさまざまな欲求にみちびかれて、日々を生活し、人生を送る。そして、欲求が十全に満たされることが幸せだと考えられている。しかし、女性が子どもを産むということは、欲求を部分的に放棄しなければならないということを意味している。

以前は、皇室や王室や貴族の母親は、自分で子どもを育てないで乳母が子どもを育てていた。しかし、日本の雅子妃殿下もイギリスのキャサリン妃も自分で子どもを育てるようになった。それまでの伝統に従わなかったのは、我が子を自分で育てたかったからだろう。あるいは、母親が子どもを育てた方が良いと考えたからかもしれない。

魚類は多くの卵を産むので、子育てをしないでも子孫を残すことができる。サケの母親は2000~3000個ほどの卵を産んで死んでしまう。しかし、哺乳類は魚類のようには多くの子どもを産めない。それで、哺乳類の母親には、子どもを守り育てるという母性本能が備わっている。また、子どもに授乳をする乳房が備わっている。

したがって、母親が我が子を守り育てるということは、欲求の放棄を意味しないはずである。それどころか、欲求が満たされていることを意味し、幸せを意味するのではないだろうか。


現在の日本は、貧困家庭のほとんどの母親は子どもを保育園に預けて、非正規の低賃金労働者として働いている。これが、現在の日本で貧困が連鎖する原因である。

アメリカ国立小児保健・人間発達研究所が1993年から始めた追跡調査(『保育の質と子どもの発達』日本子ども学会編集)では、保育の質が高いほど認知発達や社会性の発達が良いということと、保育時間が週30時間を越えると子どもの問題行動(不服従や攻撃的)がやや高くなるということが指摘されている。したがって、質が高くて週30時間を越えない保育は問題ないという意味になる(保育とは母親以外の人が子どもを育てることを指す)。週30時間を越えない保育というのは、日本では幼稚園に相当する。

したがって、この報告書によると、子どもが喜んで行くような幼稚園に子どもを預けても子どもの発達に問題はないという意味になる。そして、週に30時間を越えるような保育園に子どもを預けると、子どもの発達に問題が生まれるという意味になる。

保育園児1人に年間100万円ほどかかっている。100人の園児がいる保育園の1年の運営費は約1億円である。したがって、母親が子どもを育てれば、それだけでも年間100万円ほどもらえることになる。それと、現在も支給されている手当てを加えれば、たとえ貧しくても生活の不安がない子育てができるではないだろうか。


女性が子育てに時間を取られるのはそんなに長くない。子どもは3歳になれば、6時間ほどの母子分離が可能になる。これは幼稚園に相当する。それから女性が社会に出ても、活躍できるような制度を作る必要がある。最も効果的なのは、国会議員を男女同数にすることだろう。そうすれば、後はおのずと付いてくるだろう。

私たち大人が現在の日本を作っている。しかし、子どもたちが次の日本を作る。衣食足りて礼節を知るという言葉があるように、ある程度のお金や物は必要である。しかし、大人も子どもも幸せはお金や物では得られない。愛にめぐまれた人が幸せな人である。

ユートピアといえども、愛がある限り悲しみはなくならない。しかし、すべての子どもに母親への信頼が育つようになれば、いじめも差別もない、犯罪ない、戦争もない、平和で安心して暮らせる社会が生まれる。

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