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「現場猫系ホラーギャグ」として観る『M3GAN/ミーガン』

※この記事には『M3GAN/ミーガン』ネタバレが含まれます。

先日、映画『M3GAN/ミーガン』を見たのですが、途中から笑いをこらえるのがたいへんでした。ホラーだと思っていたら、まさかギャグだったとは……。

本作は、一見するとかわいらしいAIロボット「ミーガン」が人間に牙を剥くというサイコ・スリラー映画です。ミーガンはとても魅力的なデザインに仕上がっており、彼女のビジュアルが観客を引き寄せるのは間違いないでしょう。

本作の主人公は、ミーガンの開発者であるジェマ。ある日、彼女の姉夫婦が事故死してしまい、その娘である9歳のケイディを預かることになります。しかし、仕事に忙しい彼女はケイディをかまうことができず、苦肉の策としてミーガンと交流させる手段に出ます。

はじめこそケイディとミーガンは非常にうまくいっているように見えましたが、次第に歯車が狂い始め……というのがあらすじで、たしかにサイコ・スリラーみたいですよね。

また本作は、「子供たちとテクノロジーの関係性」「仕事と育児の両立」といった現代的なテーマも出てきます。どちらも重要な話なのですが、しかし実際に『ミーガン』を見てみると、「現場猫系ホラーギャグ」としか言いようがなかったんですよ。

◆「ヨシ!」と雑に作られたミーガン

画像は映画『M3GAN/ミーガン』本予告<6月9日(金)全国公開> - YouTubeより

ミーガンは「ケイディを守る」という使命を得て学習してゆき、次第におかしくなっていきます。まずは隣の家にいる危険な犬を殺し、そのうち人間を処分することすら躊躇しなくなるのです。

確かにミーガンは自分で考えて行動するロボットですから、危険から守る手段としてそういった最短経路を選んでしまう可能性はありますよね。現実世界でもAIが発達していますが、それが人類にとってどういう結果をもたらすのかはミーガンと同じでよくわからず、ゆえに恐怖を感じる可能性があるわけです。

しかしこれ、よくよく考えると単なる人災なんですよ。ミーガンが人間に似ているから彼女が怖いように見えますが、ロボットを責めても仕方ありません。

ミーガンは、ジェマをはじめとする3人の小規模なチームで作り出した新しいおもちゃでした。それもほかの仕事をしている最中に制作していたようで、残念ながら突貫工事にならざるを得なかったようです。

画像は映画『M3GAN/ミーガン』本予告<6月9日(金)全国公開> - YouTubeより

また、製品化が決定したあとも展開はスピーディーでした。つまり、子供向けのおもちゃのくせに「きちんと安全を確認してから発表・製造する」というプロセスがすっかり抜けているのです。

とはいえ、もちろんミーガンに安全装置はつけられていますし、そのエクスキューズも作中に登場しています。ではなぜミーガンが暴走したのかといえば、「学習機能が安全装置を上回ってしまったから」らしいです。

この話を聞いて、私はポップコーンを吹き出しそうになりました。学習機能でやすやすと乗り越えられる安全装置は安全装置とは言えないでしょう。専門的な話を持ち出しても視聴者は混乱するのでこういうわかりやすい設定にしたのでしょうが、それにしてもおもしろい。

そもそも制作陣もミーガン自身も“雑な作り”という認識はあるようです。終盤、ミーガンは「雑な学習機能を作って私に丸投げしたせいでこんなことになった」というようなことを言うのですが、まあ正論すぎますよね。こんな正しいこと言っちゃうホラー映画のモンスターいるか!?

結局のところ、主人公のジェマたちがきちんと安全管理をせず、適当に急いでミーガンを作ったせいでこんなことになっているんですよ。ジェマはミーガンを怖がっていますが、本当に怖いのは浅はかすぎる考えでこんなもんを作るあんたらですよ。どうしてミーガンを防弾仕様で作ったんですか?

まるで現場猫のネットミーム(※)のように「なんだか知らんがとにかくヨシ!」と作ってしまったがゆえに、恐ろしいことになったわけです。フォークリフトが持ち上げたパレットに人間が乗れば何が起こるかわかるように、雑な学習機能をつけた腕力の強いロボットを野放しにすれば、そりゃあ2・3人は死ぬでしょう。

(※)現場作業員の猫が、「ヨシ!」と言いながらよくないことをして事故死したり怪我をするというネットミーム。

◆暴力はすべてを解決する

画像は映画『M3GAN/ミーガン』本予告<6月9日(金)全国公開> - YouTubeより

本作には「子供たちとテクノロジーの関係性」や「仕事と育児の両立」といったテーマがあると書きましたが、この問題はかなり根が深いものです。

主人公のジェマは、自分の大事な仕事と、親交の薄かった姉の子供のどちらをとるか悩むわけですが、これはどちらをとっても正解とは言えないでしょう。姉の子供を見捨てたとしても非難されるいわれはないですが、しかし引き取ってあげたい気持ちもわかりますからね。

そして、本作はそういった大きすぎる問題にどう立ち向かうのかといえば、「もう完璧な回答は無理だし、とりあえずアクションにすればいいよね!」と言わんばかりに投げ出してしまいます。この「ヨシ!」と言わんばかりの思い切りもスゴい。

ラストのミーガンVSケイディのバトルシーンは必見です。『エイリアン2』ばりのメカバトルになっており、パワーグローブのようなものを装着したケイディが旧型ロボットの力を借り親友だったミーガンをねじ切ってしまうのですから、むせてコーラが鼻から出そうになりました。

あるいは、『貞子3D』における石原さとみVS蜘蛛貞子のような雰囲気と表現すればよいでしょうか。とにかく視聴者に有無を言わせぬ状態で、「なんか知らんけど暴力で勝ったならいいか」と思わせてくれます。

本作はまるでミーガンを恐怖の象徴のように描いていますが、どう考えても怖いのは愚かな人間です。このあたりも現場猫にそっくり。

ハンドパレットに人間が乗ればケガをしますし、プレス機は人を殺める可能性があります。ですが、それらの機械が悪いわけではありません。ふざけたり、早さにこだわったり、安全を守ろうとしない精神が事故を起こすのです。

この映画を見ていると、ミーガンよりも責任をほかに押し付けようとする人間のほうが醜くて恐ろしく感じます。「ヨシ!」じゃあねえんだよ「ヨシ!」じゃあ。

というわけで、『ミーガン』は現場猫系ホラーギャグとして観ると、より味わい深く感じられると思います。どうしてきちんとした安全装置を実装しなかったんですか?


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