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[読書記録-4]LEDと曲げわっぱ 進化する伝統デザイン

みなさまこんばんは!インテリアデザイナーのSHOKOです。


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今回はインテリアデザイナーやインテリアを学ぶ方向けの本を紹介します。

紹介するのは日本のインテリアデザイナー、橋本夕紀夫氏の著書「LEDと曲げわっぱ 進化する伝統デザイン」です。


①基本情報


著者:橋本夕紀夫(はしもと・ゆきお)
出版社:六耀社
発売日:2013/12/16
単行本:223ページ
カテゴリー:インテリアデザイン


この本は日本の伝統文化や伝統技術、その未来の可能性を著者のプロジェクトや職人の言葉を通して知ることが出来る。

日本の伝統技術や伝統文化をエンターテインメントという視点で据えてみると、全く違った価値が見えてくる。

LEDと曲げわっぱ 進化する伝統デザイン p.2より引用

デザインに日本の伝統文化や伝統技術を取り入れるとき、漆や漆喰、竹や木などの見慣れた素材であっても、固定観念から離れ、視点を変えてみると、掘っても掘っても掘り切れない巨大な宝の山に見えてくる。

ー中略ー

古くから伝わる技法を元にしつつも、新しい技術を貪欲に取り入れ、時代に即した自由な発想で型にはまらないものを生み出す職人たちから、インスピレーションを受けることも多い。

LEDと曲げわっぱ 進化する伝統デザイン p.4~5より引用

デザインをするときに先入観をもたず、職人と対話しながら日本の伝統と現代の技術を融合させることで「伝統」という言葉から連想される枯れた静的なイメージから、エンターテインメント性に満ちた動的な日本の美意識を表現できたのではないかと、著者は綴っている。

②要約

この本は四章に分けて書かれている。

1 伝統の技から生まれる「進工芸」
2 職人が語る
3 日本の伝統的美意識とデザイン
4 日本のエンターテインメントを世界へ、未来へ

一章は漆、左官、木工、箔、和紙、ファブリックなど素材一つ一つに焦点を当て、素材の特性や実際にプロジェクトでどのように扱ったかが語れている。
章の初めの漆に関しての記述は知らないことも多く興味深かった。

それまで私は漆にあまりなじみがなく、貴重品のように丁寧に扱うものだと思っていたが、この鉄板に漆を塗り、その上からバーナーで焼き付けるという技法を目の当たりにして漆の自由さに開眼した。

ー中略ー

漆には塗装材としてだけでなく、強靭な構造材としての顔もある。また防水性が高く、抗菌性もあり、温度も800度くらいまで耐えられる。

LEDと曲げわっぱ 進化する伝統デザイン p.10~11、14より引用

自然素材や伝統技術を使ったものが好きだと著者は語っており、そのきっかけとなったのが漆職人の齊藤寛親氏との出会いだったそうだ。

橋本氏は設計図があってデザイン意図があり、その通りにやってもらうよう職人に指示するものではなく、職人たちの経験を信じ対話しながら進めている。

そのようなやり方となったのが前述の漆と齊藤氏との仕事だった。

二章では職人たちの視点から素材と伝統工芸について語られている。
ここでは一章で書かれた素材とそれぞれのプロジェクトに関して別の視点から見ることが出来るため、より深く素材/伝統工芸について知ることが出来る。

三章はデザイン(インテリアデザインあるいは空間構成要素)の視点から伝統美意識が綴られている。
一章は自然素材にフォーカスしていたが、ここでは日本的な「間」「間仕切り」「日常/非日常(ケ/ハレ)」「素材の循環/記憶の継承 (※1」「光」「石/意思」に焦点を当てた内容となっている。

※1 書籍の中では「素材の循環/記憶の継承」ではなく"使い回し"や"サスティナブル"という呼び方をしている。一文で説明をするためにこの要約では違う言い回しとした。

この章で印象的だったのは、チョコレートショップRozillano施工を指揮した庭師の松下裕崇氏が強調した言葉だ。

使うときは大げさな加工を施さずに、ほんの少し人の手を入れるだけにととどめたほうが、石という素材のよさを生かせると思う。

ー中略ー

庭師の松下裕崇さんが強調したのは、「意志をもって積まないでくれ」ということだった。極力無為に、昔からそこにあったように積んでほしいという意味である。
 強烈な表現を用いて人を瞬間的に感嘆させるのは、実はそれほど難しくない。しかし空間づくりで大切なのは、一瞬ではなく持続的に人を感動させる、あるいは居心地のよさを提供し続けることだと思う。松下さんの言葉は、そこをよくわかっているからこそ発せられたのもだろう。無為なものこそがいつまでも感動を与え続けるという考え方は、石という素材を前にすると、すんなり受け入れることが出来る。

LEDと曲げわっぱ 進化する伝統デザイン p.183~184より引用

「無為/有為」という観点から考えるとインテリアデザインとランドスケープの考えは対照的なものだと思った。

インテリアデザインは動線などのアクティビティやそこで繰り広げられるストーリーを念頭に空間を組み上げていくので、有為(作為的)に作ることが多いと感じるからだ。

四章では伝統工芸との関わりが深い、立川裕大氏と渡邊真典氏それぞれとの対談で伝統工芸や日本のデザインの未来についてが語れている。

③おわりに

同一素材に関しての記述でも、章ごとに語り手や視点が変わることで内容理解の深度が深まっていくのが面白かったです。これから読まれる方は是非一章から順に読むことをおすすめします。

また、日本的に空間を作る時に伝統的な技術を模倣し当てはめて行くのではなく、技術あるいは素材に向き合い新しいものとして再構築し新たな価値を生み未来へ繋げて行くという点がこの書籍の見どころだと思います。

今回は以上となります。
ではまた次回お会いしましょう!



 

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