小匙の書室182 ─みどりいせき─
このまんまじゃあ、不登校ってことんなるなぁって思って。
そんなとき友人がやっている闇バイトに巻き込まれちゃって、外側の世界まで知っちゃって──。
〜はじまりに〜
大田ステファニー歓人 著
みどりいせき
第47回すばる文学賞受賞作、第37回三島由紀夫賞候補作。
発売前から受賞コメントが万バズして話題となり、「ではいったい、どんな文体でどんな物語が編み出されているのだろうか……」と気になり手に取りました。
まあその興味を抜きにしても『みどりいせき』というタイトルの意味を探りたくて仕方がなかった。
というわけで、がっつり文学に触れるのは久し振りなので、それも込み込みで楽しみにしながらページを捲っていきました。
〜感想のまとめ〜
◯その文体に痺れた。まるで頭に浮かんだ言葉を巧みに削って調整して貼り付けたよう。若者言葉も平然と盛り込んで、一人称視点として颯爽とした筆運びが凄い。
これが才能なんだろうな、と思うのでした。
慣れるまでに多少の時間は要するけれど、慣れてからは言葉の波をサーフィンしている気分でした。
◯扱っているテーマとは裏腹にバイブスは高め。闇バイトでオカシを流したり実際に体内に摂取してトリップしたり、そのときの描写がリアルで紙の上から煙の香りが立ち昇ってくるようでした(目がチカチカするような感覚は、小説の扉絵で擬似体験できます)。
作中で登場人物の一人が口にする「ヤサに悪いバイブス持ちよんな」ってのが、みどりいせきを語る上で欠かせないことなのかなって思います。
◯気付けば私も呑まれている。“僕”が途中で「どこで分岐を間違ったんだろう?」と考えるように、私もまた「いつの間に彼らの生活様態が肌に馴染んでいたのだろう」と首を傾げた。
でも、そこに居ることが嫌だとは思わなかった。
なぜなら、『悪』というフィルターで曇らされているけれど、その内実は『普通』と変わらない人と人の繋がりがあるのだから。
「このままじゃ不登校だなあ」となっていた“僕”が、育ててくれた母に申し訳なさを覚えながらも、得た居心地の良い場所。
そう。フィルターを無くせば、純粋な『安心』があるだけなのだ。
◯彼らはリスクを背負いながら生きている。そりゃあ闇バイトなんだから、衝突は付きもの。ただ、ヤバいってのは理解できるけれど「こっち側に戻って来なよ」なんて理解ある態度は迂闊に取れない。つまりは善意を振り撒こうなんて思えなくなる。
彼らがなぜその道を歩むことんなったのか、詳細は明らかにはならない。そこにはある時点における決定から続く日常があるだけで、だからそれを私の中にある『悪』の物差しで測るのは傲慢だ。
知らないなら知らないなりに、私は見守りたかった。どうか彼らなりの幸せを掴んでほしい、と。
◯読後、『みどりいせき』への想いを綴るインタビュー(FREENANCE MAGサイト掲載)に目を通せば、作品への解像度が上がるでしょう。逆にこれから読む場合、世界への没入度が変わってくるでしょう。
私は前者の人間でした。是非とも、ご覧ください⇩
〜おわりに〜
読みながら、「感想書くの難しいかもしれないなぁ」と思っていたけれど、いざ指を動かしてみればするする思いが溢れてくる作品でした。
もちろん、ここに書いてあることが全てではありません。言葉を捻っても汲み切れない、フィーリングで味わう部分もあるので、その点は個人の自由として嗜んでいただきたい。
この文体が2作目以降にも繋がるのか、気になるところですね。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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