小匙の書室178 ─家族解散まで千キロメートル─
自宅の物置で発見された木像。家族解体まであと三日。
どうやら僕たちは、またしても父親に振り回されなければならないらしい──。
〜はじまりに〜
浅倉秋成 著
家族解散まで千キロメートル
至高の就活ミステリ──『六人の嘘つきな大学生』が2024年全国ロードショー(予定)でもある、いまもっとも伏線回収が熱い作家、浅倉秋成先生。(『六人の〜』はいいですよ、最後には「うわ〜っ!」ってなりますから(語彙力))
『伏線の狙撃手』とも呼ばれている浅倉先生の待望の新作は、家族ミステリ。
ざっとあらすじを読んでみたところ家族の〈嘘〉に焦点を当てた物語だそうで、今度はどんな心地よい伏線回収をしてくれるのだろうと発売を楽しみにしていました。
ときわ書房さんの方でサイン本を購入し、フリーペーパーのすごろくを一読してからページを捲っていきました。
〜感想のまとめ〜
◯物置から、盗まれた木像が発見される。あまつさえ父親の仕業らしい。この衝撃的な展開から、物語は転がるように進んでいきます。
盗まれた神社まで返しに来れば、どうやら罪は不問とするようで──。
家族の誰もがそれぞれに罪を被るわけにはいかない理由があり、いざ、途轍もないドライブが始まるのでした。導入部から心を掴まれ、そのまま最後まで迎えていたという余韻があります。
◯トラブル続きの『くるま』パート。ただ木像を返しに行くだけでは物語として盛り上がりに欠けるのではないか、というのは杞憂も杞憂。何事もなく終わるわけがないんです。
それは外側から内側からやってきては喜佐家の心を揺さぶり、次第に閉じ込められた空間に漂い始める疑心暗鬼に私も居た堪れない気持ちになってしまった。
しかし木像を返すためには戻るわけにはいかない。そこはもはや地獄!!
シンプルな事件の裏では本当は何が起きているのか、目が離せませんでした。
◯家族に迷惑をかけてばかりの父さん。本作を読んで改めて思い出したのが、「現実にも家庭内で蔑ろにされる身内がいるということ」でした。それは例えば父であったり、母であったり、あるいは兄弟姉妹であったり。
普通の(いまではもう理想なのかもしれないけれも)家族像を念頭に置いたとき、否が応でも浮かび上がってくるズレ。
正直、目を逸らしていたいと思う問いかけが強烈に打ち出されていて、間違いなく私の鼓動は早くなっていた。
◯家族って、結婚って、浮気って、何なのでしょう?
私は家庭を持ったことがないのでそれらについて賢しらでいることは烏滸がましいのですが、それでも未熟なりに、作中で醸成される「正解を模索しなければならない空気」にすっかり当てられていました。
だから考えた。でも、答えなんてそう簡単に出せるものじゃない。
なぜか? 私もまたある事柄に囚われているからです。人間って、身内同士だと物凄く迂遠的な態度になってしまう。あまつさえ尻切れトンボになることもある。
しかし逃げては、いけないのです。
◯家族の嘘と伏線回収が明らかになったとき、物語は忘れられない印象を残す。これは間違いない。が、ネタバレを避けるためには詳らかに話すわけにもいくまい。
一つ言えるならば、ただ御神体を返すだけでは終わらないということです。これは先述した道中のトラブルという意味ではありません。
いやはや、まさかこうくるとは……。
喜佐家の運命がどうなるのかは、是非とも本編で。
◯読み終えた直後の率直な意見は、「これはミステリの皮を被った一筋縄ではいかない家族ドラマだ」です。どちらかといえば文芸作品読了後のような余韻に包まれました。うーん,これはこれでありだなぁ。
〜おわりに〜
もしかすると、読者の中には直感に反するような描写に眉を顰める人がいるかもしれない。ただそのとき、「それは何故なのか?」を考えてみれば(それをどう扱うかは別として)本作が内包しているメッセージに触れることができるでしょう。
事実、私がそうでした。
いやはや小説を読む意義って,こういうところにあるよなぁ。
これからの長い人生、少しは誠実に素直に生きていきたいものです。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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