小匙の書室171 ─冬期限定ボンボンショコラ事件─
轢き逃げに遭った小鳩。辛い入院生活を送る中、枕元に一通のメッセージカードが。
『ありがとう ごめんなさい ゆるさないから 小佐内』
小市民シリーズ、掉尾を飾る最終巻──。
〜はじまりに〜
米澤穂信 著
冬期限定ボンボンショコラ事件
ついについに、このときがきてしまいました。
2004年、『春期限定いちごタルト事件』から始まった〈小市民シリーズ〉。そこからぴったり20年の時を経て、最終巻が刊行されました。
この節目の年にアニメ化も決まり、界隈はフィーバー状態。といっても私は今年から読み始めたので、ファンと称するのは烏滸がましいですけれど。
とはいえ、ここまで読んできた経験がきっと私に素敵な読後をもたらしてくれるはず!
そう思って、期待と、「これを読んだら終わってしまうのか」という一抹の悲しさを覚えつつページを捲っていきました。
※ちなみに過去作については以下の記事をご覧ください⇩
〜感想のまとめ〜
◯衝撃的な冒頭。あらすじからも分かることですが、それでもやはり「ああっ、小鳩くん!」とならざるを得ない。ただし彼の、身を挺して小佐内を守った姿勢には感動しました。そこには確かに、小鳩が過去に憧れたヒーローとしての側面があったのです。
◯我が身のことのように感じる入院生活。リハビリや食事、介助といったことが医師らの簡単なコミュニケーションと共に綴られており、それが生々しかった。私も小鳩の気持ちに同調して、肋骨や脚に痛みを覚えそうになりました。
小鳩はベッドの上から動けないので、必然的にやれることは限られてきます。
それが痛みを伴う、本来なら封印しておきたかった回想でした。
◯高校生になって小市民でいることをモットーに掲げていた小鳩ですが、そこには中学時代の痛手を負った謎解きがあったのです。
過去作で中学時代に何かがあったのは仄めかされていたけれど、そのヴェールがいよいよ取り払われることに。
本編は主にこの回想が占めるわけですが、中学生という身の丈で行われる小鳩の探偵活動は良い意味で他人のために好奇心旺盛、悪い意味で自分のために視野狭窄。
とはいえ、読者の私は彼を非難することはできません。なぜなら私もまた小鳩の活動に夢中になっていたからです。
◯小市民のはじまり。まさかシリーズ最終巻にして、いわゆるエピソード・ゼロのようなことを披露してくれるとは思いもしませんでした。
小鳩と小佐内はなぜ互恵関係を結ぶことにしたのか。小市民、というフレーズが初めて口から出たのはいつだったのか。
お互いに中学生ということあって、やり取りに初々しさを覚えました。非常に微笑ましい。
◯少しずつ明らかになる真実。そこにはやはり、シリーズのみならず米澤穂信先生らしさがある。詳しく語るとネタバレになるのであれですが、「こりゃあ、小鳩が小市民を目指すのもむべなるかな」となりました。
しかし、彼は何も悪気があってやったわけではなかった。じゃあ、何のために小鳩は真実を追い求めたのか?
そこにある通奏低音が、後に心に響いてくるのでした。
過去と現在。頭を悩ませるハウダニットには感嘆。そして小鳩と小佐内のやり取りにはニヤリ。
◯小市民になる、とは結局どういうことだったのか。これまで『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』『秋期限定栗きんとん事件』『巴里マカロンの謎』と──小鳩と小佐内は時に繋がり時に離れながら小市民を目指してきました。
しかし悲しいかな。どうやっても小市民の星は遠ざかり、最終巻まで完全なるそれに達することはできていません。
果たして、とうとう、二人は小市民になることができたのか。
小鳩が掴み取った答えに、シリーズとしての余韻が一気に押し寄せてきました。
◯やはり、小鳩と小佐内の二人でなければいけないのだ。そう,思いました。シリーズの掉尾を飾るに相応しい最終巻。万感の思いを噛み締めざるを得ません。
物語の締め括りも「これぞ!」というもの。大満足でした。
あのぅ、大学生になった後も第二シーズンとしてやってくれませんか……? 私はまだまだ二人のスイーツ巡りを見ていたいんです……。
〜おわりに〜
終わってしまいました。だけど悲しさはありません。それはまだ短編集があるからというのもあるけれど、小鳩と小佐内の未来に明るい兆しを見たからでしょう。
二人ならどんなことでも乗り越えていけるはず!
……あ、でもやっぱり、特別企画でもいいから大学時代の話も読んでみたい……。
ひとまずは、シリーズ読破の余韻を味わっていようと思います。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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