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(推奨)未払い残業代が請求されるリスクをチェックする

1 はじめに


突然ですが、みなさまの会社では残業代が支給されていますか?

  1. 支給されている

  2. 一部支給されている(サービス残業あり)

  3. 支給されていない

当然の話ではありますが、上記回答のうち、2および3は労働基準法に違反します。

労働基準法
(賃金の支払)

第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

労働基準法

厚生労働省は定期的に労働基準監督署の監督指導を行った結果を公開しています。
令和3年度に不払いであった割増賃金の支払命令(100万円以上)を受けた企業のデータは以下の通りで、減少傾向にあるものの未だ残業代未払いの問題は根深いものがあります。

①是正企業数1,069 企業(前年度比 7企業の増)うち、1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、115 企業(同 3企業の増)

②対象労働者数6万 4,968 人(同 427 人の減)

③支払われた割増賃金合計額65 億 781 万円(同 4億 7,833 万円の減)

④支払われた割増賃金の平均額は、1 企業当たり 609 万円労働者 1 人当たり 10 万円

監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/chingin-c_r03.html

これらのデータは労働基準監督署の監督指導のデータです。
残業代未払いの問題に対しては、別途、労使の話し合い、しいては労働審判裁判で争いがなされていること、従業員が泣き寝入りしているケースを勘案すると、相当数残業代が支払われていないケースがあることは容易に想像がつきます。

ここで1点ご注意いただきたい点があります。

先ほど、「みなさまの会社では残業代が支給されていますか?」という質問に対し、「1.支給されている」と回答された方、それは本当に全額支給されているのでしょうか?

労働基準法が複雑であるがゆえ、経営者さま、人事部門の社員のみなさまが悪意なく無意識のまま、発生している残業代を未払いのままとしているケースが散見されています。

現在、未払い残業代を請求代行する弁護士事務所が相当数存在しています。

  • 着手金無料(成功報酬のみ請求)のサービスが多く、依頼のハードルが下がっている

  • 2020年4月から残業代請求の時効は2年から3年に延長されたことにより、未払い残業代の総額が大幅にアップすることが見込まれる(2020年4月1日に施行された改正民法に則して、将来的には5年に延長される可能性もある)

  • 裁判ではなく労働審判を活用することで、多くのケースでは短期間で解決することができる

これらのポイントは従業員側にとっては大きなメリットと考えられます。

「従業員が退職した1ヶ月後に弁護士から会社へ未払い残業代の請求連絡が・・・」といったケースが今後発生するかもしれません。

今回はみなさまの会社の労働時間管理にリスクがないか、チェック形式で進めて参ります。
8個のチェック項目を用意していますので、ぜひご参考までにご覧ください。


2 労働時間管理のチェックシート

これからご紹介する項目が、みなさまの会社にも該当するか否かチェックをしてください。
1つでも該当する場合は、未払いの残業代が発生しているかもしれません。
(複数に該当するほど、リスクはより高まります)

(1)残業時間を15分・・・等、一定単位で区切って算出している

賃金を1分単位で支給するということが労働基準法で規定されているわけではありませんが、賃金は前述した通り「全額を支払わなければならない。」と明記されています。
従業員が残業しているにも関わらず、賃金計算を簡易化することを目的に、残業時間を切り捨てする行為は労働基準法に違反します。
勤怠管理システムを利用する際に、労働時間を一定時間ごとに巻き取る・・・といった設定をしている場合は注意が必要です。

(2)遅刻時に均一の賃金減額処理をしている

「1分でも遅刻をすれば30分の遅刻とみなす」として賃金カットをする行為は、賃金の全額払の原則に反し違法です。

(3)始業時刻前の準備時間を労働時間とみなしていない

例えば、所定労働時間が9時〜18時と定めている企業の場合、9時より前の時間は労働時間としてみなさない・・・という扱いが違法とされるケースがあります。
労働基準法で定めている労働時間は「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指しているため、製造現場のように着替えが必要な職場の場合は、その必要性から労働時間と判断される可能性が高いです。
【平成7年 (オ) 2029 三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・会社側上告)事件】
(引用) https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07520.html

また、製造現場でなくとも、従業員が就業前の準備として朝早く出社するケースは多分にございます。この取り組みも労働時間としてみなすべき・・・と判断される場合があることをご注意ください。

(4)従業員(労働者)の裁量で残業対応をしている

残業は使用者の業務命令に基づき、従業員(労働者)が実施する必要があります。
つまり、従業員の勝手判断による残業については、正規の労働時間にはあたらないため、原則として企業側に割増賃金の支払義務はありません。
しかし、従業員判断で残業していることを使用者が黙認している(その事実を知っている、知ることができる環境下にある)、または残業せざるを得ないほどの業務量の命令がなされている場合等は、使用者が業務命令をしているものと同様の判断が下される可能性が高いです。
「残業は上司の命令のみ認めている」
「残業は部下からの申請に対する許可制度」
等々、会社がルールを定めていても、実態がどうなのか・・・という点は大変重要であることをご留意ください。

(5)フレックスタイム制度を導入しているので残業時間の計算はしていない

フレックスタイム制は、従業員が始業・終業時刻や労働時間を自らの裁量で決めることによって、⽣活と業務との調和を図りながら効率的に働くことができる制度です。

  • 育児と仕事の両立をしている従業員

  • 家族の介護をしている従業員

  • 終業後に通学をしていたり、趣味の時間を過ごしたりする等、日常生活を充実させたい従業員

  • 副業の時間確保をしたい従業員

従業員それぞれの生活に合った働き方を実現できることから、国もフレックス制度導入を推奨しています。

(参考:厚生労働省「フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き」)
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf

しかし、「従業員に働き方の裁量がある=残業代が発生しない」と誤解をされている方が一定数いらっしゃいます。
あくまでもフレックスを導入している期間内(清算期間)の労働時間が所定労働時間を超える場合、当然に残業代が発生することをご注意ください。

(6)固定残業代手当を設けているので、手当以外に残業代の支払いをしていない

固定残業代は、実際の残業時間に関わらず、指定する時間分の時間外労働の残業代を(前払いのような形で)支払う手当です。
(例)
①基本給 160,000円(月の所定労働時間160時間)
②固定残業代 50,000円(基本給160,000円÷所定労働時間160時間×1.25×40時間分の残業)
【賃金合計】210,000円(①+②)

固定残業代には以下のような特徴があり、多くの企業で導入されています。

  • 企業は賃金計算の手間を削減することができる

  • 従業員目線では、生産性の高い仕事をすることで、実際に残業をせずとも固定残業代を得ることができる。

  • 固定残業代を計上することで給与総額が多く見える(採用活動時等に給与イメージを紹介する際に活用される)

固定残業代の運用で大きな誤解を与えているケースとして、「固定残業代を支払っているので、残業代をこれ以上支払わなくても良い」と誤解されている方が一定数いらっしゃいます。
固定残業代は残業支払いの免罪符ではありません。
固定残業代が設定している残業時間を超えて従業員が就労した際は、当然に追加の残業代は発生します。従業員の勤務時間管理を放棄してはなりません。

(7)課長や店長等、管理監督者にあるものには残業代を支給していない

労働基準法では監督、もしくは管理の地位にある者については、労働時間や休日といった労働基準法の制限を受けずに管理者として働くことが可能と定めています。
(深夜労働は健康面を考慮して、深夜手当の支給対象)

労働基準法
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
(一 省略)
二  事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

労働基準法

ここで、管理監督者に対する解釈が、経営者さま毎に違いが生じており、問題につながるケースがあります。
管理監督者とは、労務管理において経営者と一体的な立場にある者です。
「部長」や「課長」、「店長」という役職に囚われるのではなく、あくまでも実態をベースに判断されるべきと考えられています。

  • 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有している

  • 重要な責任と権限を有している

  • 勤務形態が通常の労務時間体制に馴染まない立場である

  • 管理監督者として相応の待遇を受けている(従業員と比較した賃金面等)

これらの条件を満たさない管理監督者は「名ばかり」と判断され、通常の従業員と同様に、残業代を遡って算出する必要が発生するリスクが高いです。

(参照:日本労働組合総連合会『労働基準法の「管理監督者」とは?』)
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/data/leaflet_qa_kannrikantokusha_200807.pdf

(参照:厚生労働省HP「店長が管理監督者に当たらないと判断された日本マクドナルド事件 (H20.01.28東京地判)」)
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/shogu/kantoku.html


(8)終業後に上司から部下に電話やメール、Chatで連絡をしている。

近年はSlackやChatwork等、社内コミュニケーションツールが充実していることから、気軽に会社の方たちへ連絡することが可能です。
しかし、その気軽さゆえに、終業時間後に問い合わせの連絡をすることで、そこから業務連絡のやりとりが開始するケースがあります。
上司からの部下への照会連絡は、内容および部下の対応状況によって、就業時間と判断される可能性があります。
(電話、メール、コミュニケーションツールの利用は、客観的なデータとして残ります)
上司にその気がなくとも、従業員が終業後に業務を再開しなければならないような状況が発生しているか否か、注意する必要があります。


3 最後に

労働時間の管理は大変奥が深いです。
前述しました通り、企業が悪意を持って残業代をお支払いしていないケースだけでなく、気づかない内に未払いの残業代が発生していた・・・というケースも少なくありません。

なお、従業員が未払いの残業代を請求する場合、以下のような証拠を取り揃えます。(弁護士事務所のHP等でご案内されています)

  • 就業規則

  • 雇用契約書

  • 給与明細書

  • タイムカードのコピー

  • 勤怠管理システムの打刻データ

  • メールやChatのやりとりの記録

  • 業務日報

  • パソコンのログインやログアウトの記録

会社で適切な運用ができていない・・・と実感する項目から、丁寧に対応することを推奨します。
そして、何より重要なことは従業員の勤務時間管理に対して会社が関心を持つこと、主導権を握ることです。
従業員をガチガチに管理する・・・という訳ではなく(今や働き方改革を推進すべきです)、従業員の健康面や取り組みに関心を持ち、勤務の実態を把握することからスタートすべきです。

1 on 1 ミーティングで従業員の業務量を定期的に確認する、従業員の生活状況に応じて上司からノー残業デーの日にちを指定する等、各企業に合った方法を模索してみてください。

最後にPRです。
神庭社会保険労務士事務所では、「勤怠管理のチェックサービス」を提供しています。

  • 就業規則のチェック

  • 勤怠ルールのチェック

  • 勤怠管理システムの導入支援

ご関心のある経営者さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。
企業が未払い残業代を請求されるようなリスクを回避し、加えて従業員の皆さまが安心して働くことができる組織づくりに尽力します。


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