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ジャズとクラシックの共通点(1)

ジャズは、キリスト教教会由来の伝統的なヨーロッパ音楽(歌われるメロディと複数のメロディーが縦に交わる部分から生じるハーモニーを重んじる音楽)と打楽器と舞踏を愛好する、アメリカ南部のアフリカ系黒人の祖国の音楽(つまりリズム要素の面白さを堪能する音楽)という二つの異種な音楽の融合から生まれた音楽(フュージョン)という教科書的な定義が「ジャズとクラシックの共通点」の源。
ジャズは五線譜を使うし、19世期クラシック音楽の象徴ともいえるピアノなくしてはジャズは語れない。トロンボーンは伝統的に教会の宗教音楽を奏でるための楽器で、ジャズといえば誰もが思い浮かべるサキソフォンはもちろんヨーロッパで発明された楽器。

さらにはジャズの特徴的な:

・難しい不協和音。モーツァルトのような純粋な和声の音楽しか聞かない人には難しい響きに聞こえるけど、あらゆる不協和音は既に西洋音楽の世界で試し尽くされたもの。何も新しくない。要するに使用される音楽言語は全く共通。

・アドリブ(即興演奏)がジャズで際立つのは19世紀のロマン派時代のクラシック音楽が素人には演奏できないほどまでに、あまりに複雑なものとなりすぎたため。それ以前の音楽では即興演奏は当たり前なものだった。18世紀の終わり、若いベートーヴェンは即興演奏の名手として知られていました。
音符をスウィングさせたりアップビートにして強拍と弱拍を入れ替えたりもするけれども、三拍子のショパンのマズルカ(ポーランドの舞曲)なんかは二拍目にアクセントがつく。作曲家はアクセント記号を自由に駆使してシューベルトのようにアクセントをずらしたりするのは日常茶飯事。クラシック音楽のアクセントは必ずしも強弱強弱ばかりではない。


・楽譜はメロディーばかりが書かれていてその上にコードが書かれているけれども、コードもまたクラシック音楽由来。バロック時代の通奏低音は一番下の音、例えばCならばそのうえに4,6なんて書いてある。つまりF/Cという意味。


まだまだいろいろありますが、ジャズとクラシックは非常によく似た音楽。

ジャズは20世紀初頭より急激に発達してビーバップという超高度な即興演奏を重んじたスタイルの音楽へと進化して、次のハードバップなど、実演での即興演奏こそが命だったはずのジャズがクラシックのように作品として観賞用「アルバム」を制作に心血を注ぐなどという事態にさえ至ります。

この時点でクラシック同様に超高度な一部のマニアだけの娯楽と変容。リバーサイドだとかブルーノートといったレーベルが有名。大衆音楽だったジャズはのちにはジャズスクールなどで「勉強」しなければ理解できない音楽となるのです(ロックスクールやラップスクールは寡聞にして聞いたことないですね)。音楽学者はジャズはクラシック音楽400年の歴史と同じ軌跡をたった60年足らずで辿り崩壊(大衆解離)した音楽とも言われます(詳細は後述します)。

ジャズは難しい、とよく言われます。でもジャズっぽい音楽は世間では大流行。ホテルのバーなんかでピアニストが奏でるジャズっぽい音楽のファンはたくさんいらっしゃるはず。

そこでわたしは考えてみました。20世紀の大衆からそっぽを向かれたクラシック音楽と20世紀に世界を席巻したジャズとはいかなる関係にあるのかを。ジャズの歴史はクラシック音楽の歴史と相似する...

長かったですが、ここまでが枕で、ここからクラシック音楽とジャズの関わりを六部に分けて書いてみたいと思います。

クラシック音楽の中のジャズを知ることで、ジャズとクラシック音楽は同根であると理解していただけると嬉しいです。YouTubeリンクもたくさん貼りましたので、紹介した音楽を楽しんでいただければ望外の喜び、音楽は頭で理解するよりも楽しむものですからね。でも間違いなく勉強すればするほど楽しくなる音楽というのも世界には存在します。BGMではなく、全身全霊で聞いて、勉強すればするほど面白い奥深い音楽、それがクラシック音楽とジャズの最大の共通点です。

<その1>黒人音楽(ラグタイム)とドビュッシーとサティにまつわるお話

まずは簡単なジャズの起源から。

楽器は人類の歴史上、戦争と深く結びついていて、軍隊を統率するに音楽は役に立つ。たくさんの兵士を行進させるにも太鼓や喇叭があれば意気揚々と歩いてくれるもの。旧約聖書にもそんなことが書いてある。

日本の時代劇でも法螺貝が戦闘開始を告げるし、ナポレオン戦争時代でもホルンが伝令で大活躍。軍隊には軍楽隊が必ず存在する。モーツァルトやベートーヴェンのトルコ行進曲はオスマントルコ軍がオーストリアのウィーンまで侵略してきた折(17世紀)のトルコ軍の音楽を真似たもの18世紀に大流行。

そんなわけでジャズの生まれたアメリカでの、世界で最も不毛な戦争の一つである、19世紀後半の内戦(南北戦争)終結後、南部のニューオーリンズなどで、打ち捨てられた不要な楽器を無料または二束三文で手に入れた黒人たちが自分たちの音楽を奏で始めて、ヨーロッパ文化かぶれのアメリカ白人が好む音楽とは異なる跳ねる音(後にスウィングとよばれる)がたっぷりの音楽が生まれたんですよね。

まあ軍楽隊も平時においてブラスバンドとして残ったのだけど、とにかく西洋音楽が音楽の三要素の中で最も軽んじたというか強調しないリズム要素を徹底的に強調して愉しい音楽が生まれ、やがては19世紀世紀末から20世紀初頭にはラグタイムと呼ばれる名でヨーロッパにまで広がってゆくわけです。代表はもちろんスコット・ジョプリン。

そこで大西洋の向こう側、ヨーロッパのフランスで新しい音楽を模索していたドビュッシーの耳に届いたのがアメリカ黒人音楽由来のリズムカルな音楽。

クロード・ドビュッシー

ドビュッシーは西洋音楽の大革命家。三和音が中心だった西洋音楽に四和音(9や11や13の音で和音を作る)の概念を取り入れてヨーロッパ中世の古い教会旋法(モーダル音楽)を復活させた人物。とにかくモーダルで伝統的な和声感の乏しいフワフワした音楽が特徴。でもジャズとの係わりとしてはラグタイムをこよなく愛して、親友のエリックサティの影響なんかもあって素敵なラグタイムを幾つも書いている。

エリック・サティ

サティのピカデリーも。

ベルギーの楽器発明家アドルフ・サックスの発明したアルト・サキソフォンのための音楽を書いたりもしたドビュッシーなのだけど、ドビュッシーのラプソディーはジャズっぽくないのでここでは割愛。やがてドビュッシーは第一次世界大戦の終結する1918年に他界。彼のジャズへの関心はラグタイム止まり。そしてドビュッシーの死後、ビッグバンドジャズのGolden Ageである1920代が到来するのです。

<その2>へ。

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