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ピアノソナタ32番はジャズなのか?

ピアノソナタ第32番ハ短調作品111は、楽聖ベートーヴェンが死に先立つこと五年ほど前の、1821年から1822年にかけて書き上げられました。生涯にわたって書き続けたピアノ音楽の頂点に聳え立つ神曲です。

第2楽章アリエッタは変奏曲。主題に付点のリズムが頻出してリズム要素の可能性が徹底的に試されます。

楽譜が読めなくても、付点が音符についているのは分かりますよね。これがあると音符の付点によって縮められた後半部分の音符は極めて短くなって次の拍の音符に吸い付くような感じが生まれて音楽が前へと進んでゆく推進力が生じるのです。こうして、いわゆるスイングするような音楽の誕生します。

こういう感じ。

上の例は3つに割るのですが、ジャズミュージシャンは厳密に三つに音符を分けたりしないのでジャズのスウィングとベートーヴェンの付点の響きは似たようなものになります。

もっとわかりやすいのはシャフル。こんなのです。

タタというリズムがタァタ、タァタ、タァタと響くとスウィングのように響きます。シャフルはポップスで使われるもので厳密にはちがうのですが、ややこしいので一緒にしておきます。

さて、このアリエッタがジャズだという俗説が生まれる根拠となった第三変奏はこんなふう。

拍子記号はなんと32分の12。

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