見出し画像

昭和のセクハラ王 カネやんの「秘球くいこみインタビュー」試論

誰でも知っているカネやん

 野球は見るのもやるのもまったく無縁の子だった。60歳になる今でも、顔と名前の一致する選手は、王選手と長嶋選手とカネやん(金田正一)ぐらいで、近年、これにようやくイチローが加わった。僕がどれくらい野球音痴かといえば、「国鉄から読売巨人に移籍」という金田の経歴を何かで読んで、以後何十年間もカネやんの前職は鉄道員だと勘違いしていたということを白状しなければならない。
 そのカネやんが、本稿の主人公である。軽妙な関西弁と独特のキャラクターで、現役時代からタレントとしても活躍していたカネやんだが、むろん僕の印象では選手というよりもそちらの方が強い。そして、気がつくとカネやんは「週刊ポスト」のエッチなおじさんになっていた。
「週刊ポスト」史上に「美女爆笑対談・カネやんの秘球くいこみインタビュー」が連載開始されたのは、1979年4月のことである。コンセプトはいたって簡単、話題の女優や女性アイドルをゲストに呼び、カネやんの軽妙な話術を駆使してエッチな質問で盛り上がるというもの。同趣向の「高見山大五郎のもみあげ対談」のあとを受けての登場だ。筆者も長年勘違いしていたが、高見山が先でカネやんがその後継なのである。さらにさかのぼれば、「松方弘樹の突撃対談」がある。松方兄いは、2000年代に「松方弘樹の美女一本釣り対談」(兄いは芸能界きっての釣りマニアとして有名)でカムバックすることになる。
 それでもなお、カネやんが多くの人からエロ対談の元祖的存在として認知されるのかといえば、やはり彼の強烈なキャラクターと「秘球くいこみインタビュー」というタイトルのインパクトが大きいだろう。正直、このタイトルを思いついた編集者はエラいと思う。
 
ミスター週刊ポスト

実は、カネやん、それ以前に報知新聞紙上で「失礼!金田です」という対談連載をもっていた。ゲストは女性に限らないが、断然女性ゲストの回が面白い。カネやん、酔っぱらって美空ひばりにキスしてみたり、一世を風靡した女子プロボウラー中山律子に、「生理日」についてドギつい質問してみたり、大女優の高峰秀子にいきなり「もちろん(生理は)あがっちゃったでしょう」などと突っ込んでみるにいたっては、タイトルの「失礼!」に恥じぬ傍若無尽さ。はっきりいってエロ親父、はっきりいってセクハラ。今だったら大問題になること請け合いだ。
「くいこみインタビュー」登板も、「失礼!金田です」での武勇あってのものだろう。
 ちなみに、女性アスリートに「生理」について聞くのは「くいこみインタビュー」にも引き継がれるカネやんのお家芸である(渡部絵美、マッハ文朱も餌食になっている。ちなみに絵美ちゃんは、競技中に生理になったことは一度もないそうだ)。
「くいこみインタビュー」の成功の秘訣は、カネやんのキャラクターもさることながら、その聞き出しの上手さだろう。美空ひばりの初恋の人が鶴田浩二だとか、島倉千代子が後援会会長から大人のおもちゃをもらったとか(むろんジョークで)、ポロリとこぼれる小ネタも楽しい。
「くいこみインタビュー」と連動して、カネやん撮影によるロマンポルノ女優のヌードグラビアがシリーズで週刊ポストを飾ることがあった。女優に混じって、新体操の岡崎聡子とか元祖“潮吹き”窪園千枝子女史をグアムのビーチで裸にひんむいている。これが縁か、窪園女史とちょっとした噂になったこともあったっけ。まさに、カネやんあっての週刊ポスト。カネやんこそが、ミスター週刊ポストなのである。

秘球くいこみ以前の浅丘ルリ子とのツーショット。セクハラ芸の開眼はいつだったのか。

VS山口百恵。「『ホンマ、いじくりまわしたい娘やなァ』…『イヤな男にはオアイソ笑いだわョ!』」(79年4月27日)

百恵はこの翌年に引退。

「秘球くいこみインタビュー」。栄えある第1回ゲストは、当世大人気の山口百恵。
 大物アイドルを前にしても、カネやんのセクハラ節が冴える。

金田 しかし、これなんか(と某月刊誌のグラビアを指して。※但馬註「GORO」誌と思われ)乳首が透けとるやないの(笑い)。
山口 ああそれ見ました。
金田 修正なしかねェ。
山口 なしでしょうねェ。
金田 どんなストリップの写真かて、これほどの迫力はないね。今度、飾っとこ(笑い)。
山口 ヤダァ、やめてください、そんな(笑い)。
金田 しかし、これは社会に貢献しているともいえるのよ。
山口 貢献?
金田 昔は遊郭というのがあって、十七、十八でも性をすますことができたのよ。ところが、今はない。どうするか、女にはオナニーちゅうもんがあるでしょ。男にもマスターベーションがあるんです。
山口 (平然と聞き流す)。
金田 今の男たちは百恵ちゃんの写真見ながらやっとるわけよ、それを(笑い)。あなたは罪の道に入る者を救っている尊いお方です(笑い)。

 百恵のグラビア見ながらオナニーすることで、性犯罪の抑止につながっていると言いたいらしい。相手を褒めるときはその数倍、下ネタをこめる。これぞカネやん流。
・・・

●VS沢田亜矢子。「アハハ、この対談に比べれば、TVのSEXレポートなんてたわいないワ」第20回(79年9月28日)

日本テレビ『ルックルックこんにちわ』で朝の顔として売り出し中の沢田亜矢子。まだニャンニャン写真もゴージャス松野の影もなく、スキャンダル処女だった彼女。しかし、カネやんの下ネタ攻撃は、容赦はない。

金田 野球やっていたの?
沢田 ソフトボールが好きだったんです。いつもピッチャーやっていた。
金田 女はボールを受けるキャッチャーが似合うよ。
沢田 キャハハハ。

まず冒頭は得意の野球談議、かと思えば、どうやらこれもかなり高度な下ネタらしい。
そして徐々に間合いを詰めていって…。

金田 そばに来てごらん、ホーッ! ペチャパイやけど、いいオッパイしとる。乳首は大きい?
沢田 いやだ、そんなァ!

 これ、元記事には書いていないけど、ゼッテー触っているな。こんなことして許されるのはカネやんと森繁(『徹子の部屋』で、徹子の胸にタッチしていた)。「乳首は大きい?」もまたカネやんの定番質問である。カネやんは母性を感じさせる大きめの乳首がお好みらしい。

金田 女性は排卵日には血が騒ぐちゅうけど、騒ぐ?
沢田 騒がないわ。
金田 夜なんか淋しくなることはないかな?
沢田 そりゃ、淋しくなることはある。
金田 それが排卵日よ。淋しくなると欲しくなる。
沢田 ああ、それで間違いがよく起きるんですね。
金田 ちゃんと知っとんじゃない(笑い)。

 沢田の履いているパンティが肌色と聞いてカネやんは、大興奮。意外と清純派好みなのである。

金田 うん、白もいいけど、オリものなんかで汚れが目立つわな。肌色はまァ、そのへんは大丈夫やけど、どちらかといえば、大蛇かなんか描いたのが亜矢子ちゃんには似合うと思う。
沢田 やだっ。何それ、キャハハ。


 さりげなくパンティのシミにまで言及する。変態の領域につま先を入れながら、微妙に深入りは避けギャグにしてごまかす、このあたりはエロの牽制球というべきなのか(ナンノコッチャ)。
・・・

 ●VS三田佳子『ねェ、オッパイ張ったら、いつでも呼んでェな』『オホホ、亭主だって、そんなこと言わないわ』第45回(80年3月28日9日号) 

本当に「オホホ」で済んだのだろうか。

 カネやんの、おっぱい愛、乳首愛、母乳愛に溢れる対決。三田さんは次男出産後、本格的に仕事に復帰したばかりだという。それをジュルジュルもので待ち受けるカネやん。次男とはもちろん、あの覚醒剤常習者のバカ息子である。

金田 ねェ、ラブシーンちゅうのはキスもするでしょ?
三田 やっぱりある程度は…。
金田 ただチューするだけ? それとも舌を突っ込んでくる?
三田 いやらしわねェ、やあねェ(笑い)。
金田 ゴメンゴメン。一度大女優さんに聞いてみたかったの(笑い)。

 まあ、ここいらへんは軽いジャブか。
続いて、「でも昔と違って、本当に母親らしい体になったね」という誘い水。この言葉にこもる親父フェロモンに、三田サンは気づくそぶりもない。

三田 がんばりました。こんどは出産後すぐにお仕事だから、体が弱るし、途中でやめようかと思ったの。でもお乳が張ってきてお乳を飲まさないととても痛いのね。
金田 そりゃ痛いわァ。
三田 でも、子供のためにも母乳がいいと思って、やっぱり飲ませたんです。
金田 エライ! ワシは全国の赤ちゃんのためにお礼を申し上げておきます(笑い)。お乳が張ったときにいえば、飛んでいってあげたのに(笑い)。旦那さんは吸ってくれんの、そういとき?
三田 (のけぞって笑いながら)お宅はどうですか。
金田 ワシが吸わんでおりましょうか(笑い)。張って困ったときは吸って道をつけてあげます。
三田 やさしいのね。

 そして、お得意の「乳首」の話題に引きずり込む。

金田 ところで乳首は大きいほう、小っちゃいほう?
三田 知らない。
金田 見たことない?
三田 ウッフフフ。
金田 ワシは大きいと思うけどねェ。
三田 うちの子供に聞いてよ、アッハハハ。
金田 小さいのも困るけど、大きすぎて赤ちゃんの口に入らんのがあるから。
三田 もう、やッ。

 母性さえも強引にエロに翻訳してしまう、これがカネやんトーク・マジック。
・・・

●VS天地真理「エーッ、鼻の形で下半身までわかっちゃうの 週刊ポスト84年10月5日号。

 白雪姫のニックネームで知られた元祖アイドルも対談当時で36歳。カネやんは彼女のファンだったらしく、とにかくあの手この手で、セクハラ地獄に落とし込もうとするが、元祖アイドルはカマトト芸でかわしていく。その攻防が見もの。

金田 真理ちゃんはセックス好き?
天地 あんまり興味ない。ごめんなさいね。あんまり話が進まなくて。
金田 それにしても真理ちゃんがセックスに興味ないとは、日本国の重大問題ですぞ!(笑い)
金田 しかし、何度もいうようやけど、真理ちゃんはしたくなる顔よ。マスをかきたくなる顔です。
天地 マス?
金田 (膝をポーンと叩いて)マスターベーションや(笑い)

 カネやんは、しきりに彼女の鼻を褒める。あのふっくらとした小鼻がソソるらしい。カネやん曰く、「その鼻は名器相じゃあ(笑い)」。

金田 だけど今、真理ちゃんに必要なのは穴掘りよ(笑い)
天地 アナホリって!?
金田 ソソを掃除する男です。真理ちゃんが掃除されることによって「幸せだ」という感覚を味わってもらえば、ワシと対談した甲斐があると。
天地 うちの母、掃除は大好きですよ。
金田 母もまた掃除をされとらんからやないの。年齢(とし)幾つ?
天地 五十八歳。
金田 まだ使えるのぅ(笑い)。

 堂々と親子どんぶりを要求する男。山崎拓の先輩格である。

さて、誌面の関係上、以下は、主だったタイトルと対談相手だけを列挙してみたい。

●VS池波志乃「ウフフ、映画のように悶えていたら身がもたないわ」第12回(79年7月27日・8月3日合併号)
●VS夏純子「ウフフ…夫婦生活が少ないとダメかしら。ワシなんか試合サボってやりまくったもんや」(80年3月?号)
VS池玲子「アハハ、女がノーブラを見せつけたい時」第74回(80年10月17日号)
VS川中美幸「アハハ、私たちの猥談はカネやん対談顔負けよ」第77回(80年11月7日号)
VS吉行和子「アッハッハ、なんだか81年の感度も最高みたい」第84回(81年1月1日号)
VSシルヴィア「アハハ、芸能界の猥褻擁護をばらしちゃう」(81年3月27日号)
VS鹿島とも子「ウフフ、大股開きは180度」(82年1月29日号)
VS内藤やすこ「エへへ、オトコ体験は7人目なんです」第137回(82年2月12号)
VS倉田まり子「ウフフ、愛人願望の女性って多いんです」第144回(82年4月2日号)
VS吉沢京子「ウフフ、初体験は20歳の頃。好きな人に捧げました」第145回(82年4月9日号)
●VSあき竹城「アッハハ、あの時の声は訛らないよ」第194回(83年4月22日号)
●VS夏樹陽子「ウフフ、夫婦生活は冷えてもSEXは別だった」(84年9月21日号)

 なつかしい名前もある。鹿島とも子はオウム真理教騒ぎの際は時の人となったが、今はどうしているのだろうか。倉田まり子はのちに「兜町の風雲児」こと投資ジャーナルの中江滋樹の愛人だと騒がれ、芸能界を追われることになるのを考えあわせれば、ちょっと興味深い。

 タイトルを見てお気づきのとおり、「ウフフ」「アハハ」が付くものが多い。「ウフフ」は思わせぶりの笑い、「アハハ」はあけすけな笑い、それぞれゲストのキャラクターに起因しているのだろう。変化球として内藤やすこ」の「エへへ」、三田佳子の「オホホ」がある。「爆笑美女対談」のゆえんか。ギリギリの線さえ容易に踏み越えるカネやんのセクハラ・トークを「笑い」で中和し、エンタティーメントとして成立させているのが、この「ウフフ」「アハハ」なのである。何度もいうが、カネやんのキャラあっての「爆笑美女対談」だが、文中の(笑い)の多用も含め、担当ライター(「記者」としてたびたび対談に乱入)の構成力によるところも大きい。
僕も駆け出しのライターだったころ、これがプロの仕事だと、大いに感心心させられたものである。いわば、文筆人・但馬オサムの隠れた師匠、それが「カネやんの秘球くいこみインタビュー」なのであった。

・・・・・・・・・・・・
初出・『昭和39年の俺たち』2022年1月号


よろしければご支援お願いいたします!今後の創作活動の励みになります。どうかよろしくお願い申し上げます。