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畑ノートには畑の神様が宿る


<畑の哲学>畑ノートには畑の神様が宿る 失敗を糧にする畑ノート

初心者向けのワークショップというのは基本的に成功体験をしてもらう会で、失敗を徹底的に避けてしまう。だからどうしてもイモ掘り体験会のようなスタイルになってしまう。

しかし、誰かにお膳立てされた成功体験を繰り返し続けても初心者は決して中級者にはなれない。失敗から学ぶことができて初めて中級者の道が開く。

失敗から学ぶことができれば、中級者の道に進める。そのためには失敗を指摘してくれ、本質を伝えてくれる人に出会うのが一番早い。私が思うに師匠や先生の仕事は失敗させることであり、そこから学ぶ方法を教えることだ。

自分にしかできない特別なテクニックを教えるのは自己満にしかならないことを肝に命じておく必要がある。だから、私は失敗ばかりになるに決まっている人の畑で講座を開くのである。

しかしそういう人に出会えなくても一番の先生は自然であり、観察をして、畑ノートに記録していくことで道が開けることも多い。自然農の先駆者たちは自然を先生にして、そうやって道を切り開いてきた。

私の自然農の歴史はそのまま育苗の歴史であり、畑ノートの歴史である。だから畑ノートを読み返してみると、失敗ばかりが載っていることがすぐに分かるし、当時の言葉使いから悔しさが滲み出ている。

畑ノートは読み返すことで糧になることが多い。理由はシンプルだ。過去は必ず今現在につながっているからである。決して過去と切り離された今現在はないし、今現在と切り離された未来はない。つまり、過去は未来へ繋がる道なのである。だからこそ、振り返る必要がある。

現代の日本人は「反省」を「自責」だと勘違いしている。反省するふりをして自分自身を責めることばかりしている。

多くの参加者がこの2ヶ月間の育苗の実践の中で失敗を経験する。その度に落ち込み、不安になり、自分を責める。ときには自分自身のことを「落第生」だとか「劣等生」だとレッテルを貼る。私は一度も彼らに対してレッテルを貼っていないし、採点もしていないのだが。

その評価もレッテルもどれもが野菜にとって栄養になることはない。なぜならそんな自己評価も、レッテルも自然界にはないもので、人間の頭の中にしかないからだ。そんなものは早く捨てて、畑には持ち込まない方がいい。役に立たないばかりか、野良仕事をする上で悪影響にしかならない。

失敗をして悔しがったり、残念がったり、落ち込むことは決して悪くない。それに引きずられることなく、しっかり抱きしめて生きたらいい。あなたの人生にとって本当に価値あることはポジティブな感情もネガティブな感情も一緒に運んでくるのだから。その感情は必ず糧になる。むしろ、野菜が苦しんでいる様子を見て何も感じないのなら、自然農どころか畑そのものに向いていない。

ポジティブな感情もネガティブな感情の強さも本気度に比例する。本気でやった失敗だけが成功の元になるし、生きる糧になる。だからこそ、畑ノートにあなたの感情もついでに書いておくことはオススメだ。むしろ、ノートに書き込むことで浄化されるような気もする。

話を反省に戻そう。反省とは何か。まさに字の通りである。「ふり返って省く」のだ。失敗には必ずあなたの思い込みや勘違いが眠っている。それが余計なことをしてしまう本源であり、必要なことをしない本源である。畑の時間が取れないのは決してあなたの時間管理が下手くそだからではない。余計な習慣を捨てていないからだ。

畑ノートに書き込むと自然と省かれていく。なぜなら、すべての情報を書き込むことは不可能であり、脳は勝手に必要な情報だけを省いて記憶するからだ。そして、書くという作業自体が大変なため、それをさらに省いてくれる。話が長い人の特徴は書く習慣がない人である。書く人は必ずシンプルに話をまとめていくので、自然と話すのがうまくなる。

畑ノートを読み返すと、不思議なことに今を生きるために必要なことが自然を湧き上がってくる。実際にあった話をしよう。

2023年のサクラの開花(五分咲き)は早かった。テレビでは「観測史上最も早いサクラの開花」という言葉を使って、春の暖かさを強調していた。メディアによっては異常気象だと主張することもあった。3月中に夏日(最高気温が25度以上)を記録したこと日もまた同様に。

サクラの開花は昔からイネのタネ蒔きの重要な指針だった。だからこそ、誰もが今年は春の訪れを早く感じたに違いない。

しかし畑ノートを読み返してみると、2020年も2021年もサクラの開花が早い年だったことが分かるし、1日違いに過ぎないことも分かる。そして、三寒四温のリズムはグラフにしてみると分かるように、ほとんど同じように変化していることが分かる。

2020年は引っ越した年だったこともあって、踏み込み温床の温度管理が難しく、失敗が多かった年だった。そのおかげでその時の失敗が2023年に大いに活かすことができた。発芽も無事に、低温障害も構音障害にもならずに済んだ。

2023年の4月の頭には寒の戻りによって畑にもうっすら霜が降りた。これは2020年の寒の戻りよりも冷え込んだため、踏み込み温床のスペースから移動させた小型ビニールハウス内の一部の野菜に低温障害が起きた。

2020年と似ているからといって同じ年はないことに気づかされる。2021年の畑ノートを見返してみると4月の冷え込みのリズムが似ていることに気がついた。そしてその後の観察を続けてみると、2023年の4月は2021年4月とよく似ていたおかげで、その後の育苗に大いに貢献してくれた。

「畑ノートには畑の神様が宿る」そう教えてくれた師匠がいた。師匠は3ヶ月間の研修の間に、毎日観察することと畑ノートを書くことだけを課してくれた。私の他に研修生は4人居たが、結局3ヶ月の間に観察と畑ノートを実践したのは私一人だけだった。そして、今現在私だけが自然農を実践しているのは偶然ではないだろう。

畑の神様はあなたに必要な情報だけをノートに書き残してくれる。人間が決して自然から切り離された存在ではなく、同じ自然の生き物だということがよく分かる。現代人は外側ばかりに囚われすぎだ。自分の内側にある自然に気がつき、観察するものだけが、畑の神様との対話ができる。

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