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遮音パネルと木造防音室の想い出

この事例は、約10年前の防音相談・コンサルティング業務の想い出(エピソード)です。※画像は別の担当現場の防音工事後の界壁ですが、同様の新築現場ですので完成イメージとして載せます。実際の現場とは異なります。現場の写真は製品名が写っていたので使用できません。
場所は千葉県内の都心近接の住宅地です。建物は、新築の木造住宅で、竣工間近の現場でした。

施主が新築業者のお勧めに従って、木造防音室(主な用途はオーディオとホームシアター)を新築業者に一緒に依頼した案件です。
ところが、施主の趣味の防音室の概成段階で、界壁に致命的な音漏れが生じていたため、急遽、私(防音職人)に改善対策の依頼が来ました。時間もないため、契約書を交わさず、防音材とコンサルティング業務のセットで完了払いという約束で仕事をお受けしましました。

主な対策の対象は、家族の部屋と隣接した界壁の防音対策です。
時間がないので、現場の工事を中断してもらい、界壁を一部解体して原因を調査することから始めました。

音漏れの主な原因は鉛の遮音パネルと施工ミス

界壁に使用されていた「鉛の遮音パネル」はつなぎ目が大きな弱点で、僅かな隙間でも、500Hz以上の音が漏れます。費用対効果の低い製品です。
しかも、現場の施工は、小さな隙間が複数有り、ジョイント部分のコーキングと気密テープのシールが施されていませんでした。

施工の手間と費用対効果を考えて、遮音パネルのやり直し補修は諦めて、重ねて改善対策を行うことになり、他の防音材を追加することにしました。

遮音ゴムマットと鉛遮音パネルの特性

鉛の遮音パネルは、音を吸収しないので、空気音と固体音の双方に弱点が有り、小さな隙間でも空気音(オーディオ・シアターの音楽など)が、かなり漏れます。このため、つなぎ目の対策だけでは不十分であり、性能不足を補う別の専門的な防音材が必要になります。

特性の異なる専門的な防音材として、私の受注生産の「遮音ゴムマット3ミリ」を2重に重ねて、最後に石膏ボード・クロス仕上げとしました。
*この遮音ゴムマットは固体音も少し軽減する効果があります。
*この製品は音を吸収する特性があり、面密度で想定される質量則を上回る遮音効果が出ますので、費用対効果に優れています。

なお、ここ数年、鉛の遮音パネルの専門メーカーが相次いで、この製品の販売休止を決定したり、大幅縮小しているようです。評判が良くないので売れ行きが悪化したのが、主な理由かもしれません。
*関連記事:鉛遮音材の迷信

グラスウールの性能不足

上記の要因に加えて、界壁の内部に使用されているグラスウールを確認したところ、吸音専用のグラスウールではなく、袋入りの断熱材だったため、吸音性が不足していました。※吸音材のグラスウール製品自体が弱点があるため、木造防音室の界壁では通常は使用しません。

このため、この性能不足を補うことを考慮して、上記のように遮音材を追加することになりました。
*通常は、防音室の界壁にはロックウールを使用します。
*グラスウールは、低音域と高音域の吸音性が弱いため、私の現場の重要な界壁には使用しません。(メーカーのデータと現場の効果は乖離します)

遮音材の追加対策により、現場の防音室の界壁は、隣室の家族の睡眠を妨げないレベルまで音漏れを軽減することが出来ました。
鉛の遮音パネルとグラスウールの施工は、防音室の典型的な失敗事例が多く、この現場では、施工が一部不良な部分があったことも問題でした。

現在では、DIYで防音室を施工する場合でも、鉛の遮音パネルを使用する依頼者(契約者)はいません。費用対効果が低いことと、鉛そのものが有害物質であり、通常は住宅では使用しないためです。

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