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無学の教育者 八重子おばさんの想い出 #3

 まさか泣き出すなんて思ってもみなかった僕は、これまでに味わったことのない罪悪感に襲われた。けれど今さら白状する勇気もなかった。
 それで何とかその場をごまかしたい一心で咄嗟にこう言った。
「どろぼうが入ったのかもね」
すると八重子おばさんは泣くのをやめてちょっと顔を上げた。それから何度も深くうなずきながら
「ああそうかも、きっとそうだね。ああ悲しかあ、悲しかあ。いちろうくん、助けて。助けてよ」
と言ってまた顔を伏せて泣き出した。
 状況は一向に変わらず、それどころか助けてと言われていよいよ逃れられない気がした。とにかくその場から逃げたくてこう言った。
「もしかしたらどろぼうが逃げるときにその辺にお金を落としとるかもしれんが。よっしゃ、オイがさがすっで」
 そう言って僕はポケットにねじ込んでいるお金を確かめながら別の部屋に行った。

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