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第15話 変わりすぎた私の顔

同窓会というような大きな集まりではなかったのですが、高校時代の友人が20名くらい集まるようなイベントがありました。
正直、そこに行くのがとてもイヤでした。
いろいろな理由をつけて欠席しようと思いました。でも、うまい欠席の理由も思い当たりません。1年ぶりの再会なので、みんな無邪気に楽しみにしています。

それに、自分自身の境遇を受け入れて、外に出なければいけないという思いもありました。
自分が脱毛でひどい見た目になっていることは、私の友人を通じて多かれ少なかれ伝わっているはずですし、いずれみんなに分かることです。
それが早いか遅いかの違いに過ぎないのだから、このイベントを欠席すべきじゃない。そういうふうに自分を叱咤して、イベントに向かいました。

もともと私の状況を知っている親友も何人かいたので、彼らには特段の驚きはありません。
私の状況を知らなかった同級生は、私の顔を見るなり、どうしたん?と心配してくれます。
これまで、何度も繰り返したように、「いや、ちょっと髪の毛や眉毛が抜けてしまって。自分でもびっくりしてるんだよね。」とか、何の説明にもなっていないような会話をします。

でも、正直、こういう風に質問してくれるほうがありがたかったです。
多分、半分くらいの同級生は、私の顔を見て異変には気づきながら、事情を詮索してはいけないんだろうと自制したのだと思います。何事もなかったかのように、久しぶりだねといった形で話してかけてくれました。そういう心遣いを感じながら、私も何事もなかったかのように話を続けました。

そんな中で、また懐かしい同級生を見つけました。
3人くらいで会話をしていたので、その輪の中に入っていって近況を尋ねます。
彼の下の名前を呼んで、気安く「そっちは、何してんの?」と話しかけました。

彼は、とても混乱しているようでした。
私が誰なのか、理解できなかったのです。同級生の集まりなのに、同級生でないヤツが紛れ込んでいる。そして、自分の下の名前を呼び捨てにして、気安く話しかけてくる。こいつは何者なんだ。
不審者を見るような目で警戒し、すごく短い言葉で返事をくれました。記憶が定かでないですが、敬語を使っていたかもしれません。

その様子は、私にも一瞬で伝わってしまいました。
そうか。私と数年間ずっと過ごしてきた同級生でさえ識別できないほど、自分の外見は変わってしまったんだ。
それは、大きな重みを持つ事実として、自分の心に突き刺さってしまいました。

私も、それとなく会話を続けて、その場を取り繕いました。
彼にツッコミを入れる勇気が出なかったのです。
「いま、誰やねんと思ったやろ。俺だよ、俺。」
こんな風に笑い飛ばせればよかったなと、後から思いました。
でも、私自身もショックが大きく、咄嗟に機転を利かせることができなかったのです。

彼は、全く悪くありません。
純粋に私を識別できなかったのですから、仕方がないことです。
それほど、私の外見は高校時代とは全く変わっていました。

でも、彼の驚いた表情は、忘れられないものとなりました。
底なし沼のドン底にいたときの、辛い思い出の1つです。

その後、同級生が集まる場には、ほとんど出向くことがなくなりました。
定期的に同窓会は開催されていて、今でもありがたいことに案内のはがきを送ってくれるのですが、一度も出たことがありません。
自分の中で心の殻が閉じてしまって、それを何年も放置しているうちに殻が固まり切ってしまったのです。辛いことです。

でも、高校の同級生の結婚式に出たり、仕事のひょんなつながりで昔の同級生と再会したり、何度か高校時代の同級生と会うことがありました。
みんな、とってもいいやつらで、長いブランクを忘れて本当に楽しく過ごせます。
こういう友人をたくさん持っていたんだなあと当時を懐かしく思いながら、その友人たちとの交友を保てなかった自分の心の弱さを悔やむところです。

いま、こういう本を書いているのは、自分と同じような境遇に陥ってしまった方に自分の体験を伝えたいというのが主目的なのですが、同時に自分の心を整理しているのかもしれません。
本当に自分の心の整理ができれば、何十年かぶりに同窓会に出席するということもできるかもしれません。でも、長すぎるブランクが空いてしまったので、今でもそのハードルはとても高いものになっています。

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