Pー業界の酒のつまみになる話し【第五話】逃亡に至る病、そして

この法人では社長の…… 正確には社長も会長の身内なので、上層部と各店舗の責任者として身内の者を配置している。

なので、どんなに頑張っても店長より上に行く事は無い。店長も名ばかりで実権は全て身内の方が握っている。

そんな店舗で私に大変よくしてくれていたAさんが消えた日の話し。

私が着任した店舗はそんな会社の中でも異質で、荒れに荒れていた。
そんな店舗をまとめていたのがAさんだった。
Aさんに気に入られるかどうかでこの店で生きて行けるかどうかという状況。

ここまで読んでアルアルだね。そんな風に思う方も酷く苦労した事だと思う。今現在も継続中なので有れば助けてあげたいとさえ思う。
私自身が一人ではどうしようもなく、助けて貰えたお陰で今があるのだから。

こうやって書けば、Aさんが楽して良いところを取っている様に感じるが断じてそんな事は無い。
出勤は朝の4時。退勤は朝の6時。
毎日26時間働いている。

時間が合わないと思う人はただの気のせい。

実際に私が朝の3時に退勤する時にはまだ居るのに、朝の7時に出勤してもまだいるのだからこの人はきっとずっと居るのだと思っていたし、その店には仮眠室もありシャワールームもあったので多分ずっと居たのだと思う。

全ての業務に目を光らせて、全ての業務に携わる。

本当に凄い人だと思っていたし、それ故にめちゃくちゃな環境だけど、生き残った部下はしっかりとAさんを中心に機能していた。

その会社で学んだ事は本当に多かった。

その一つが
『我々の様な弱小企業が大手と張り合う為には命を削るしか無い。相手は命を賭してまで我々とは争わない』と言うAさんの言葉だ。

実際にその通りだと、後に大手で働いて実感した。

新卒で入社して店長になったこの人達ではこの様な会社には絶対に勝てない。

家に帰れない
休みが無い
上に絶対服従
利益が全て


大学を卒業してまで働く環境では無い。
それ故の強さがある。

データ分析やマーケティングはトコトン掘り進める。
人件費率は脅威の7%。
正確には裏金が動いているから表向きは14%程あるがそれでも少ない。

大手が強いのは、質量による膨大なノウハウと同様に多くの人材を備えており、それに加えてやはり現金の数は何より強力な武器になり得る。

故に大手は強く、その強みが無く張り合うとすればそれは命を燃やし、削り、賭すしかない。

まさしく、某賭博黙示録の話に出てくる主人公の様なものだ。

そうして浮かぶ勝ちの目がある。
そして、大手であれば敢えてその舞台に降りる必要は無く、他の地域を当たれば良い。
勝てる所で勝負が出来るのも大手の強みだと思う。

そうして独自のガラパゴス化が進み、それがその地域に独特の循環をもたらせる。
業界最大手の店舗が無い地域がまさしくそんな場所だと私は考える。

そんな中Aさんは、誰よりも燃やし、削り、賭していた。

それに古参の事務員と主任は感銘を受け、それに従わない部下は一掃される形となり、人手は常に足りず、この店には純粋な肥満は居なかった。
肉付が良い人も、皮下にはその環境に耐え得るだけの筋肉をまとっていた。

Aさんはそんな特殊な環境の中で、誰よりも部下の事を思い。誰よりも会社の事を思い。誰よりも店舗の事を思っていた。

私も主任も事務員も皆そう思っていた。

しかし、実際はそうでは無く。

その事を知ったのはAさんが消えて、一人の事務員が辞めた後だった。

どうして全ての業務に携わり、常に店舗に居たのか。

答えは簡単で、全ての業務を通して不正を行なっていたからだった。

ここからは不正の一部を記載するが、決してマネはしないようにして欲しい。

カウンターの商品は業者と癒着して、仕入れても無い物を仕入れた事にして、仕入れの差額分を着服。足りない商品は、客がいらないと言った商品を使って補填。

飲食店も自社経営だった為に同様の手口を使用。

さらに金銭に変える事の出来る古物に関しても、交換場所のスタッフと結託して換金。

さらに無い物をある事にして会社に計上。

その為に棚卸しは全てAさんと事務員でスタッフが居ない時間帯に実施。

その為に一部古物に関しては事務所奥の部屋で保管。スタッフにはある事になっていた。

古物の補填として、誤差玉を閉店後計数した後に貯玉。後日営業中に事務員がカウンターに入り操作を行い、実物は無く数字のみで操作。

同様に金庫の金も売り上げ線に細工を行い着服。
交通費等レシートや領収書の改竄も多数。

壊れてない物を壊れた事にして計上。

業者は個人経営店に任せ、商品を動かした事にして浮いた差額から何割かを取得。

他にも同様の手口を多数。

だから誰にも何もやらせる事が出来なかった。

やらせれば自分のしている事がバレてしまうから。

それでも主任とかだったらAさんに対する忠誠心とかでなんとでもなると思うが、私は、外部の人間はそうはいかない。

一瞬であればAさんの味方になろうかという考えが出てしまうかもしれないが、そんな事を知れば、そんな幻想も覚めてしまうだろう。

それでも、それだけ手広くやっていればいつかボロが出る。

ある日、私が出勤した時に居るはずのAさんが居なかった。
連絡してやっと繋がったと思ったら、どこかで寝坊しているとの事。
社長には連絡するなという事だったが、店の配金が間に合わないので社長に相談して近隣店舗から別の身内の方が来てくれて対応にあたった。

その際にすぐにその別の身内の方がお金が合わない事に気付いた。
私はある物だと言う事で計算していた事を伝えると、そこから本社の方が数人来て色々と調べ始めた。

そして複数の不正が発覚して、概算で低く見積もっても2000万円は横領していたという事だった。
期間や古物や分からない物を合わせると億に登る被害があるだろうと言うのは社長の言葉だった。

その日寝坊してすぐに来ると言ったAさんは結局現れず。

それをきっかけに数名退職して、その退職した者の中にも不正に協力した者がいた。

Aさんが居なくなる前日、私に「これからはこの会社は君の様な新しい人間が新しい時代を作って行くんだ」と言われた。

いつも熱い言葉を発する人だったけど、この日はいつもより熱が入っていた。

そして次の店休に飲みに行こうと誘われていた。そこで、大切な話をするのだと。

結局その日が来る事はなく、それ以来会っては無いし、その後どうなったかも知らない。

私はその人と、本当に死に物狂いでこの業界で頑張って行きたかった。

不正を、過ちを犯す事は仕方のない事だと思うけど、一人で仕事をしている訳ではない事に、せめて気付いて欲しかったと思う。

※この話はフィクションだと締め括る

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