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「別にね、好きで素っ気なくしてるわけじゃないんだよ。あいつとは気も話も合うし、二人で居るのも嫌じゃない。でもさ、私の気持ちを先回りして優しくされるとぞわぞわってして。それが何か負けた気がして悔しくて」 「だってさ?」 「……」 「は? えっ?」 「二人共、顔真っ赤。これはお熱いこと」
「こっちは満月が見事に真っ赤!」 「……こっちは周囲がすっかり赤くて新地球が青暗く見えます」 「皆既月食と皆既日食を同時に見てるなんて不思議な感じ」 「……今僕が目にしているこの光景をいつか二人で見られたら、その時には貴女に伝えたいことがあります」 「いいよ? 分かった。何だろうな」
「地球は青かった」 「習ったよね。昔はそうだったって」 「それでも地球は動く」 「ガリガリ! その一言が無かったら軌道を離れることは無かったんだ」 「地球空洞説」 「地上に住めなくなる前に囁かれてたって奴か。ずっとやられっぱなしじゃないって、あいつらに見せ付けてやらないとな」 「ああ」
「何これ、地球の模型?」 「私にも見せて!」 「ちょっ。乱暴にするなよ」 「あ。穴開けちゃった」 「おい! しかもこの辺じゃんか」 「おお、君達。それは呪いの藁人形を基に私が開発した連動術式渾円球儀だ。ここから天災や環境問題を解決できるのだ。ラグが未解決だがね。おや、急に辺りが暗く」
「ゴールデンゲートブリッジがゴールデンじゃない!」 「オレンジだね。長らく世界最長だったけど」 「それで金」 「世界一美しいとも」 「それも金」 「身投げの数も世界一とか」 「そんな金?!」 「金門海峡に架かる橋だからだよ」 「ゴールドラッシュか」 「金鉱発見以前の話」 「先見性が金かよ」
「ある国の王子の命を救うべく、神は空を飛ぶ金毛の雄羊を遣わした。王子は自らを救った羊を神の生贄とし、金の毛皮を亡命先の国の王に贈った」 「返却方法が生贄なんだ」 「後にこの毛皮を求めた別の王子は、何やかんや持ち帰るも目的は遂げられず死ぬ」 「羊の呪い?」 「牡羊座なら知ってるかもね」
「一度沼へ足を踏み入れたなら、たちまち取り込まれて引き返せない」 「片足で踏みとどまれよ」 「深い沼の縁を片足で凌ぎ続けるのは無理がある。足湯スタイルも尻が滑れば終わり。そこでもう片足を別の沼に浸けてみる。これなら二つの沼に跨って沈むことも無い」 「お前の股が裂けないことを祈るよ」
「さて、君にはこれより綱渡りをしてもらう。落ちた側に居る娘と潔く交際したまえ。君も二人を思えばこそ、いつまでも宙ぶらりんではいられまい?」 「分かりました」 「良い心掛けだ」 「……だけど、だけど、二人を思えばこそやっぱり僕にはっ!」 「綱に跨って両側に脚を伸ばそうとは良い度胸だな」
「粘膜的接触を『一つになる』って云うじゃない」 「体液の混合が不可逆だからかな」 「一つになっても二人は二人でしょ」 「それはもう元の二人でもないし」 「もう一度一つになってみたら?」 「マクスウェルの悪魔に懇願してみる?」 「悪魔に証明を乞うレベルか」 「悪魔の証明が信頼できれば」
「恋人にくっついてるとさ、何かもう肉体が邪魔って思うんだよね」 「肉体を無くしてどうして相手を感じるの?」 「魂だよ」 「それだと次は魂が邪魔になるんじゃ?」 「恋人に食べてもらいたい願望持ちには言われたくないな」 「細かく分解して混ざり合うしかないでしょ。だって血肉になるんだよ?」
「どうか神様、本番で実力を発揮できますように!」 「ねえ、何でお賽銭が千円札と百円玉?」 「デザインに肖って桜咲きますようにって」 「なるほど確かに咲いてるな」 「このお賽銭にはずっと勉強を見守ってもらってたんだ」 「神様に届くといいな。お目付け桜の金さん」 「遊び人みたいに言うなよ」
「見てよ、一面桜色の絨毯!」 「こりゃ見事な花筵だ」 「綺麗な内に写真撮りたい! ちょっと行ってくる」 「あー、そうそう」 「!」 「どうしたー? 急に止まったと思ったら立ち尽くして」 「ねえ、じゅわーってさ、靴の中に水が浸みてくるんだけどー」 「それー、花筏。下が水なの。注意だよー」
「サクランボの柄を舌で結べるとキスが上手いんだって」 「ああ、聞くね」 「何でだろ?」 「そりゃあ、ね。……何でだろうね?」 「キスってさ、口でちゅってするやつのことでしょ?」 「唇を重ねるやつだね」 「どうして舌が関係あるのさ!」 「あー、キスにも深い情、……いや事情があるのかもね」
「すまん遅れた」 「よし乾杯だ。乾杯は何度してもいい」 「「「乾杯!!」」」 「そういや乾杯って、儀式っぽいよな」 「おーよく気付いたな。承認、受容に係る呪術だよ」 「え、呪術? ……今飲んだのって」 「いや毒じゃない。契りだ。契約を飲んだんだよ」 「?!」 「さて、何の契約だったかな」