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世界の「女性×てしごと」を訪ねてVol.6マイノリティの戦い方、敗者の戦い方~インディゴ気仙沼 〜

そらとひとでは2020年5月~6月、コロナウィルス感染拡大防止のための外出自粛期間中、女性起業家をゲストに迎えオンライントーク会「蔵前ゆるトーク」を開催しました。

6月13日には、「インディゴ気仙沼」の代表・藤村さやかさんをお迎えし、コロナ禍でのチャレンジと、「これからの時代をしなやかに生き抜くためのヒント」を伺うことができました。

子どもをおんぶしていても参加できる仕事を

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藤村さんが震災の爪痕残る宮城県気仙沼に嫁ぎ、藍染めの工房を立ち上げたのは2015年のこと。震災前から少数派であった子育て世代への支援は震災を経てますます乏しくなり、母親が安心して子どもを預ける場所も、働ける場所も激減。多くの女性が復職をあきらめていくなか、「100%仕事にコミットできなくても、子どもをおんぶしていても参加できる仕事を」という思いから生まれたのが「インディゴ気仙沼」でした。

▼立ち上げ当初の活動についての取材はこちら
インディゴ染めを、気仙沼から。

地元企業と連携し、サステナブルな事業組織へ

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その後、地元の道路舗装会社(株)菅原工業のグループ会社となり成長は加速。老舗寝具メーカー・西川(株)とのコラボ商品が発表されたり、ホテル・休暇村気仙沼大島でフットスロー、クッションカバーが採用されたりと、新しいチャレンジが続いています。

そんな藤村さんに、「蔵前ゆるトーク」の参加者からたくさんの質問がありました。

まずは、前回の取材後のもっとも大きなトピックス。
「地元企業のグループ会社になったのはどうして?」という質問です。

「最初は子育てサークル、その後は個人事業主として3年間やってきましたが、その間に弊社は原料となる植物の栽培・色素抽出・染料への加工・染色・製品仕上げ・販売まで、1次から6次まですべての過程を一貫して手掛けるよう成長していきました。わたしが唯一のブレーンである点や、6次までが終わらないと換金できない仕組み、スタッフのやる気と根性に頼り続けることにも、限界が見えていましたそろそろ地元に密着して事業を営む企業と手を組み、数字を追いながら戦略的に売上を伸ばしていくフェーズだと思ったんです

恐る恐る出資のお願いに出向いた藤村さんでしたが、実は先方も課題を抱えていたそう。

「本来なら一度雇った従業員とその家族と、生涯に渡って繋がる会社でありたいのに、その後に働ける場がなく、定年がきたら退職してもらっている現状を何とかしたい、とおっしゃるのです。先方はもともと土木作業員。皆さま重機の運転ができるので、私たちの畑に来ていただければ大助かり。互いの課題解決と価値創出になる、という話に落ち着きました。

元々は女性のみで始まった組織ですが、現在は男性、女性、多様なひとがそれぞれ得意な役割を果たすことで、会社全体がメリハリのある動き方ができるようになってきました
。」

これからは、「敗者」の戦い方が活きてくる

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お次は、藤村さんが「これまでご縁のなかった土地で事業を展開できたのはなぜ?」という問いが。

藤村さんは、幼少期にアメリカで生活した経験があります。もしかしたら、アメリカでマイノリティとして暮らした経験が強さの秘訣なのかも、と尋ねてみました。

「たしかに。アメリカで生まれパスポートも持っているのに、子ども時代はずっとアジアン・アメリカンとしてマイノリティにカテゴライズされていましたし、周りには人種差別も普通にありました。そう言われてみると、マイノリティでいることには慣れているのかもしれません。

思えば東京で仕事をしていた頃は、マジョリティの戦い方をしていたと思うんです。でも、気仙沼に来て、小さな子どもを抱えながら母として働いていく中で、その戦い方では誰にも何も伝わらないと気付きました。それで、少しずつマイノリティの戦い方に変わってきたように思います。

会社をお借りしている地域で自治会費を払ったり、誰よりも率先してお祭りの盆踊りの準備や清掃に入ったり。そうすることで“この土地で本気で事業をする気があるんだな”と伝わって、徐々にですが受け入れてもらえるようになってきました。」

さらに、これからは、いわゆる「敗者」の戦い方が生きてくるのでは?と藤村さん。

「敗者・・・とは、資本主義のなかでこれまで敗者とカテゴライズされていた人々のことを指しています。

 女性には、妊娠、出産、子育て、介護…など、社会から強制的に隔絶され、まるで“敗者”になったかのように感じる期間を経験してきた人がたくさんいらっしゃいます。

 いま、新型コロナウィルスの影響で社会全体が立ち止まり、これまでのビジネス習慣を組み直していく必要に直面しています。女性はこれまでの人生で何度も立ち止まっているので、戦略を見直したり、新しいフェーズに合わせて思考や生活スタイルを調整したり、ということが得意なのではないかと感じています。

 これまでのような生産性重視の「勝者」の戦い方ではなくて、思うように動けないところでやっていく「敗者」の戦い方のできる人の手法が、今後は活きてくるのかもしれません

地域ならではの背景を丁寧に伝えていきたい

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さらに、あらゆることがオンラインに移行することで、ビジネスのあり方がどう変わっていくのか、という質問も。

「オンライン化が進んで、世界中のどこからでも同じ勝負ができるようになったのは、地方で活動する人たちにとって大きなチャンスです。地域資源を換金化していくという意味では、チャンスは都市部に集中せず、地方にも分散されるようになりました。

ただ、並みいる競合のなかでどうやって人様に選んでいただくのかといえば、その商品が生まれざるを得なかった地域ならではの背景を丁寧に伝えていくしかないと思います。」

誰もが歩みを止め、自分を顧みたこの数カ月。

藤村さんが育ててきた「インディゴ気仙沼」の物語を手がかりに、「マイノリティによる敗者の戦い方」というキーワードがヒントとなり、大きな刺激を受けました。

(文:棚澤明子)


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