沈黙の有意味性——吉本隆明の詩作と哲学
吉本隆明(よしもと たかあき, 1924 - 2012)は全体像を把握しにくい思想家である。例えば『古事記』、古代歌謡、近代文学、民俗学から、マルクス、フロイト、親鸞まで、それぞれの専門家が一生の仕事とするような対象についての知見を自在に駆使しながら、それらを統括するような仕事をしている。とはいえ、吉本の「哲学」が問いつづけている主題そのものは、決して分かりにくいものではないと、本書著者の菅野覚明氏は言う。それは「個(個体、自己)が十全に個であることはいかにして可能であるか」