そんそん

医者。ときどき映画監督とか、落語とか。キーワード:対話、共感、コミュニティ。あと、学び…

そんそん

医者。ときどき映画監督とか、落語とか。キーワード:対話、共感、コミュニティ。あと、学び、アート、銭湯、つながり。単純に人が好き。でも、恥ずかしがり屋です。

マガジン

  • そんそんの教養文庫(今日の一冊)

    一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。

最近の記事

われ苦しむ、ゆえにわれ在り——ベケット『ゴドーを待ちながら』を読む

サミュエル・ベケット(Samuel Beckett, 1906 - 1989)は、アイルランド出身の劇作家、小説家、詩人。不条理演劇を代表する作家の一人であり、小説においても20世紀の重要作家の一人とされる。1945年以降おもにフランス語で執筆した。ウジェーヌ・イヨネスコと同様に、20世紀フランスを代表する劇作家としても知られている。1969年にノーベル文学賞を受賞。 1952年、現代演劇に多大な影響を及ぼすことになる戯曲『ゴドーを待ちながら』を発表。同戯曲は翌年、ロジェ・

    • 精神は自己に不安として関係する——キルケゴールの『不安の概念』を読む

      セーレン・キルケゴール(Søren Aabye Kierkegaard、1813 - 1855)は、デンマークの哲学者、思想家。今日では一般に実存主義の創始者、ないしはその先駆けと評価されている。キルケゴールは当時とても影響力が強かったヘーゲル学派の哲学、また(彼から見て)内容を伴わず形式ばかりにこだわる当時のデンマーク教会に対する痛烈な批判者であった。キルケゴールの哲学がそれまでの哲学者が求めてきたものと違い、また彼が実存主義の先駆けないし創始者と一般的に評価されているのも

      • 愛しながらの争い——ヤスパースの「交わり」の哲学

        カール・ヤスパース(Karl Theodor Jaspers、1883 - 1969)は、ドイツの哲学者、精神科医であり、実存主義哲学の代表的論者の一人である。現代思想(特に大陸哲学)、現代神学、精神医学に強い影響を与えた。『精神病理学総論』(1913年)、『哲学』(1932年)などの著書が有名。ヤスパースは、その生涯の時期ともあい合わさって、3つの顔を持っている。精神病理学者として、哲学者(神学者)として、政治評論家としての活動である。 かつて第二次大戦後に実存主義が流行

        • カントはなぜかくも難しいのか——中島義道氏の『カントの読み方』より

          イマヌエル・カント(Immanuel Kant、1724 - 1804)は、プロイセン王国の哲学者であり、ケーニヒスベルク大学の哲学教授である。『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』の三批判書を発表し、批判哲学を提唱して、認識論における、いわゆる「コペルニクス的転回」をもたらした。 カントは難解として知られる。それはカントの原書を読んだ人なら誰もが知っている。まさに「ちんぷんかんぷん」なのである。本書『カントの読み方』では、カント研究者の中島義道氏が、まずカント

        われ苦しむ、ゆえにわれ在り——ベケット『ゴドーを待ちながら』を読む

        • 精神は自己に不安として関係する——キルケゴールの『不安の概念』を読む

        • 愛しながらの争い——ヤスパースの「交わり」の哲学

        • カントはなぜかくも難しいのか——中島義道氏の『カントの読み方』より

        マガジン

        • そんそんの教養文庫(今日の一冊)
          146本

        記事

          この意識は私に固有のものか?——廣松渉の「世界は共同主観的に存在する」論について

          廣松 渉(ひろまつ わたる、1933 - 1994)は、日本の哲学者。東京大学名誉教授。廣松の思想はマルクス主義の立場に立脚し近代の構図から離れ新たな思想を組み立てようとするところに特徴がある。廣松の主要概念は、①マルクス主義の疎外論から物象化論への展開、②世界の共同主観的存在構造、③近代の超克論などである。本書『世界の共同主観的存在構造』は、1972年に刊行された本格的な哲学論文である。 この論文の冒頭は次のような問題意識から始まる。「哲学の沈滞が叫ばれるようになってから

          この意識は私に固有のものか?——廣松渉の「世界は共同主観的に存在する」論について

          社交とは「演じる」という形式の相互行為である——ジンメルの相互行為論より

          社会学者の大澤真幸さんの本『社会学史』より、社会学者のゲオルク・ジンメル(Georg Simmel, 1858 - 1918)についての解説を抜粋。ジンメルは、デュルケームやヴェーバーに比べると「こういうことを言いました」という要点を取り出しにくい社会学者である。しかし、デュルケームと同様に、やはり「社会」を見出したのがジンメルであり、ジンメルの社会学のキーワードを取り出すならば「社会圏」や「相互行為」という用語が挙げられる。 社会圏(social sphere)とは、ジン

          社交とは「演じる」という形式の相互行為である——ジンメルの相互行為論より

          アイデンティティが人間の出発点ではない——M・ガブリエルの新実存主義と他者論

          マルクス・ガブリエル(Markus Gabriel, 1980 - )はドイツの哲学者。史上最年少の29歳で、200年以上の伝統を誇るボン大学の正教授に就任。西洋哲学の伝統に根ざしつつ、「新しい実在論」を提唱して世界的に注目される。著書『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ)は世界中でベストセラーとなった。さらに「新実存主義」「新しい啓蒙」と次々に新たな概念を語る。NHK Eテレ『欲望の時代の哲学』等にも出演。他の著書に『世界史の針が巻き戻るとき』『つながり過ぎた世界

          アイデンティティが人間の出発点ではない——M・ガブリエルの新実存主義と他者論

          ブルシット・ジョブを支える「経営管理主義イデオロギー」——グレーバーの提唱したBSJ理論

          「ブルシット・ジョブ——クソどうでもいい仕事の理論(Bullshit Jobs:A Theory)」は、アメリカの人類学者デヴィッド・グレーバーによる2018年の著書で、無意味な仕事の存在と、その社会的有害性を分析している。彼は、社会的仕事の半分以上は無意味であり、仕事を自尊心と関連付ける労働倫理と一体となったときに心理的に破壊的になると主張している。「ブルシット(Bullshit)」は、原義は「牛糞」だが比喩的な意味ではなく、辞書での定義は「馬鹿馬鹿しい」「無意味な」「誇大

          ブルシット・ジョブを支える「経営管理主義イデオロギー」——グレーバーの提唱したBSJ理論

          拒絶において受容する——外来の普遍思想に対する日本の「拒絶的受容」

          社会学者の橋爪大三郎さんと社会学者の大澤真幸さんの対談による『げんきな日本論』。なぜ日本には天皇がいるのか、なぜ日本人は仏教を受け入れたのか、なぜ日本には院政が生まれたのか、なぜ秀吉は朝鮮に攻め込んだのかなど、日本史におけるさまざまな疑問を、社会学の方法で、日本の「いま」と関連させる仕方で掘り下げた本である。 引用したのは「なぜ日本人は仏教を受け入れたのか」というところから。仏教は単なる思想や宗教ということではなく、当時は建築、暦法、冶金、漢字、衣料などの精神文化と科学技術

          拒絶において受容する——外来の普遍思想に対する日本の「拒絶的受容」

          自由の本質とは「状態」ではなく「感度」である——アーレントによる自由の定義

          本書『「自由」の危機 ――息苦しさの正体』は、2020年9月の政府による日本学術会議会員の任命拒否問題に端を発して組まれた特集である。筆者には、姜尚中、佐藤学、上野千鶴子、小熊英二、高橋哲哉、苫野一徳、内田樹などが名前を連ねる。「学問の自由」、ひいては私たちの生活における「自由」を守るために、さまざまな文筆家やジャーナリストが筆をとっている。 引用したのは哲学者・教育学者の苫野一徳氏の文章である。苫野氏はルソー、ヘーゲル、アーレントといった哲学者たちがいかに「自由」を論じて

          自由の本質とは「状態」ではなく「感度」である——アーレントによる自由の定義

          怨みに報いるに怨みをもってすることをやめる——『ダンマパダ(法句経)』より

          最古の仏典の一つである「ダンマパダ(Dhammapada)」からの一節である。「ダンマパダ」とは、パーリ語で「真理・法(ダンマ)」の「言葉(パダ)」という意味である。監訳では「法句経」と言われる。パーリ語仏典の中では最もポピュラーな経典の一つである。「スッタニパータ」とならび現存経典のうち最古の経典といわれている。かなり古いテクストであるが、釈迦の時代からはかなり隔たった後代に編纂されたものと考えられている。 この聖典はとくに南アジアの諸国(スリランカなど)で尊ばれてきたが

          怨みに報いるに怨みをもってすることをやめる——『ダンマパダ(法句経)』より

          「死んだらどうなるのか?」を哲学的に考える——ヒュームの懐疑主義

          現代思想の特集「ビッグ・クエスチョン——大いなる探究の現在地」より、哲学者の山内志朗氏の「人は死んだらどうなるのか?」という論考よりの引用である。 古来より「人は死んだらどうなるのか?」は宗教とともに哲学における難問の一つとして論じられてきた。プラトン『パイドン』、フィチーノ『プラトン哲学——魂の不死』、ポンポナッツィ『魂不死論』、ヒューム『魂の不死』など、多数の哲学者がこの問題を扱っている。 哲学者ライプニッツは、魂の「不滅(indestructibiltas)」と「不

          「死んだらどうなるのか?」を哲学的に考える——ヒュームの懐疑主義

          神話が語る「死の起源」——バナナ型と脱皮型の死の起源神話

          南山大学人文学部教授・同大学人類学研究所所長の後藤明氏による「世界神話学」の入門書である。「世界神話学(world mythology)」とは、ハーバード大学のマイケル・ヴィツェルの著書『世界神話の起源』による。ヴィツェルが近年唱えている世界神話学説は、古層ゴンドワナ型神話と新層ローラシア型神話と、世界の神話が大きく二つのグループに分けられるという仮説である。この神話学説は、遺伝学・言語学あるいは考古学による人類進化と移動に関する近年の成果と大局的に一致するというのが彼の主な

          神話が語る「死の起源」——バナナ型と脱皮型の死の起源神話

          哲学者と「死」——ハイデガーとレヴィナスの違い

          著者のサイモン・クリッチリー氏は、1960年生まれのイギリスの哲学者である。専門は現象学、大陸哲学、フランス現代思想。本書『哲学者190人の死に方(The Book of Dead Philosphers)』は古代から現代までの190人の哲学者について、死をどう捉えていてか、どのように最期を迎えたかについて、それぞれの哲学者の思想とともに紹介しているものである。しかし、ただ単に哲学者の死に方を面白おかしく紹介した本ではない。一流の哲学の考え方についても学べる骨のある一冊となっ

          哲学者と「死」——ハイデガーとレヴィナスの違い

          ベーコンの「洞窟のイドラ」とは——岩崎武雄『正しく考えるために』より

          岩崎 武雄(いわさき たけお、1913 - 1976)は、日本の哲学者(ドイツ観念論)。東京帝国大学哲学科卒業、1952年、文学博士(東京大学)(学位論文「カントとドイツ観念論 」)。 1956年、東京大学教授。日本哲学会会長(1973年~1976年)。カント、ヘーゲルを中心とした近代哲学が専門。 本書『正しく考えるために』(1972年)は一般向けに書かれた著書であり、同じ講談社現代新書より1966年に出た『哲学のすすめ』と合わせて読まれている名著である。本書では、「考える

          ベーコンの「洞窟のイドラ」とは——岩崎武雄『正しく考えるために』より

          マンデラの獄中生活——看守たちはいかに感化されたか

          ネルソン・マンデラ(Nelson R. Mandela、1918 - 2013)は、南アフリカ共和国の政治家、弁護士。第8代南アフリカ共和国大統領。若くして反アパルトヘイト運動に身を投じ、1964年に国家反逆罪で終身刑の判決を受ける。27年間に及ぶ獄中生活の後、1990年に釈放される。翌1991年にアフリカ民族会議(ANC)の議長に就任。当時の大統領フレデリック・デクラークとアパルトヘイト撤廃に尽力し、1993年にデクラークと共にノーベル平和賞を受賞。1994年、南アフリカ初

          マンデラの獄中生活——看守たちはいかに感化されたか