見出し画像

3.11#いのちの日ー「死」の中でさえバッハ家の音楽には希望が!?

3月11日#いのちの日。この数年間は特に、生や死という根源的なテーマと向き合わざるを得ない日々が続きました。音楽は世の中を表す鏡です。今年の「テューリンゲン・バッハ週間」音楽祭の中にも、「死」のテーマがあちこちに散りばめられています。

以前に、音楽祭のモットーは「希望 Zuversicht」であると、ご紹介させていただきました。一見相反する意味を持つかのように見える希望と死が、なぜ結びつくのでしょうか? 

こちらは今年の音楽祭の特別企画「子供たちと考える死のコンサート」を催す、ニナ・グロルさんのインタビュー記事(抜粋・意訳)です。ニナ・グロルさんは、1997年生まれのピアニストでもあり、終末ケアのお仕事にも関わっておられます。

「平穏に満ちたものとしての死」
インタビュアー:終末ケアの資格を取ることにしたきっかけは?
グロルさん:私の人生のあらゆるライフステージの中で、死は常に存在してきました。子供の時には友達が亡くなりましたし、両親の友人や、祖母の世代の人たちも亡くなるのを体験しました。このテーマについて何度も向き合ってきたのです。(…)そして、ちょうど故郷の町に戻ってきた時に、その資格コースがあるのを知って。
インタビュアー:終末ケアの仕事であなたが得られることとは?
グロルさん:私にとって人間自身の儚さと向き合うことは、とても価値のあることです。死にゆく局面で起こることとは、人生の中で常に遭遇してきたテーマの集大成だと感じています。私たちの社会では、全てを葬り去る巨大な黒い怪物として、死を認識しています。意識的に死を迎えることで美しいことが起こるにもかかわらず、その前のプロセスに目を向けることがないのです。
インタビュアー:例えばどんなことですか?
グロルさん:自己や他者との和解。人生に対する反省、許し、この世の煩わしさからの解放…。
インタビュアー:そうした根源的なプロセスに携わることができるために、この仕事をされているのですか?
グロルさん:… 人生の終盤に孤独を感じる多くの人たちに寄り添い、尊厳を持って人生を終えるようにすることが、私にとって、とても大切なことです。人生の始まりと同じように、人生の終わりも尊びたいと思うのです。
インタビュアー:終末ケアの中で、音楽はどのような役割を果たすのでしょうか。
グロルさん:月並みな表現ですが、音楽は架け橋になることができます。言葉では表現できなくなった時に、音楽でつながることができるのです。緊張を感じてから音楽を流すと、ネガティブな感情が解放されることもありえます。元気を出したり、思い出話をしたり、体を動かしたりするのに役立つこともあります。聴覚は、死ぬ間際にスイッチを切る最後の感覚です。ですから、聴くことができれば、必ず何かを知覚することができるのです。
インタビュアー:どんなことを実際に経験されましたか?
死にゆく過程がどんなに困難であっても、安らぎの瞬間は訪れます。これまでの人生の中でずっと求めてきた平穏な時間が。

音楽祭のパンフレットより
写真左がニナ・グロルNina Gurolさん

この世のわずらしさから解放されて、平穏なる永遠の命を得ること。バッハの音楽祭の公演を眺めてみると、このことをテーマにしたバッハの作品に何度も出くわします。例えば、バッハの教会カンタータ「Ich habe genug BWV82」。この歌詞はバッハの弟子でもあった神学者クリストフ・ビルクマン(1703-1771)によるものですが、彼は地上の苦しみから逃れ、イエスと結ばれることによる慰めを、この作品の中で強調しています。このカンタータは、今年の音楽祭では、prjct.amsterdamやWeimar Baroqueの公演で聴くことができます。

またバッハの作品だけではありません。バッハの親戚ヨハン・クリストフ・バッハ(1642–1703)の曲「Es ist nun aus mit meinem Leben」。これは今回の音楽祭で最も多く取り上げられている作品です。J. C. バッハはテューリンゲン州に数々登場したバッハ家の音楽家たちの中でも、最も評価された17世紀の作曲家の一人なので、TBW音楽祭の中でも毎年耳にする作曲家です。この楽曲自体は、この時期のドイツ・プロテスタントの葬送音楽に典型的な、簡素で多声部のアカペラ様式、有節形式でできています。この曲が聴けるのは、今年のアンサンブル・レジデンスB'Rock Orchestraの2公演と先にも挙げたprjct.amsterdamです。

話が長くなりましたが、やはり、百聞は一見にしかず。上にも何度も挙げたアンサンブルprjct.amsterdamで、ヨハン・クリストフ・バッハの楽曲を実際に聴いてみませんか。「死」といった最も不幸な出来事の中にも見出される平穏への希望が、心の中にじわじわと湧いてくるかもしれません。




よろしければサポートをお願いいたします!