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親の老いに向き合う - 夕飯はタコス

またしばらく実家に帰っていた。
今回は娘も合流。一世代間に挟むと、母と私の関係もかなり穏やかなものになるので、私一人の時よりお互い平和な日々。
滞在中は毎日やる事に追われて疲弊するが、仕事も分担できたし、母を娘に任せて夜友人と飲みに出かけるということもできた。

帰省前に読んだ本。

『脳科学者の母が、認知症になる』
恩蔵絢子 河出書房新社 2018年

タイトル通り、脳科学者の恩蔵氐が同居する母のアルツハイマー型認知症の様子をつぶさに綴ったもの。
医師や介護職の当事者が、自身や家族の認知症問題について書いた本は今たくさん出ているが、この本では娘としての生々しい感情を正直に吐露する一方で、プロフェッショナルとして冷静に考察するバランスがとてもよかった。
色々参考になったが、中でも特にああそうかと考えさせられたのは、感情の豊かさということ。

著者によると、感情の豊かさが生きることにおいて決定的な役割を果たしているという。一つの出来事にどれくらい多くの感情を持つことができるか、それは世の中を生き抜く一つの知性だとも。

母は去年の時点では認知症判定は出なかったが、その後加速度を増して物忘れや判断の衰えが進行しているし、1年ぶりに母の様子を見た娘も「前よりヤバくなってると思う」と言っていた。そろそろまた脳神経外科に連れて行かなくてはと思っている。

ただ、好奇心は相変わらず旺盛で、自分の知らないことにはすぐに「何、それ?」「どういう意味?」と聞いてくる(聞いた端から忘れるとしても)。
何か用事をしていても、テレビで興味を引くものを見ると、すぐそちらを注視して笑ったり泣いたり憤ったりしている(そして用事のことはすっかり忘れる)。
もうちゃんとした料理をすることはないのに、グルメ番組などでおいしそうなものを見るとレシピをメモし、決して作られることのない料理メモがどんどん溜まっていく。

結局は忘れてしまっても、母は生活している中で「何だろう?」とか「この人面白い!」とか「これおいしそう!次に娘が帰ってきたら作ってあげよう」という感情は衰えてはいないのだ。
今回私が娘と二人で話している時も、「なになに、なんの話?なんのこと?」とやたらと割り込んできて少々イライラはしたが、自分も楽しそうな輪に入りたいというその感情は、母を生かす力なのだなあ。

夕飯時に母が、私の夫は食べ物は何が好きなのかと聞いたので、娘と私が「タコス」と即答したら「えっ!タコス?たこすって酢蛸?」と予想通りの反応。
タコスを知らない母は、前のめりでそれがどんな食べ物か聞いてくる。
私たちの説明で「え〜、どんな味なんだろうね。食べてみたい!」と言い出した。
「でもチーズものっけるんだよ」とチーズ嫌いの母に私がそっけなく言ったら、
「いや、チーズはなくてもおいしいよ。あれはお好みだから」と娘がフォロー。
かくして翌日娘がカルディでOld El Pasoのタコキットやフィリングの材料を買い、夕飯は母90年の人生初タコスとなった。
口に合わないんじゃないかと思ったけれど、ワカモレやサルサソースもたっぷりのせて、タコシェルからポロポロこぼしながら「おいしい!こんな味初めて。」とご機嫌だった。

さて、好奇心旺盛なのはいいが、毎度化粧品やサプリに向ける興味と情熱も衰えていない。
テーブルには料理メモ以外にも、相変わらず化粧品の広告の切り抜きもたくさん置いてある。
今回は、新たに母が注文した5社に解約の電話をかけた。私たちがいる間にもまたなんちゃら酵素の通販の配送が届いた。ノートに記録してあるのを見ると、一昨年からもう累計40社以上だ。

化粧品やサプリの解約手続きは私がしてきたが、母の部屋に積んである化粧品については手付かずのままだった。
メイクをしないので見てもよくわからないし、化粧品は母の聖域という意識があって勝手に触ってはいけないと思っていた。

しかし今回ついに娘が手をつけた。
「おばあちゃん、こんなにたくさんあったら何がなんだかわからないでしょう。私も見たいから、一緒に整理しようか」と、非常にソフトに声をかけ、片づけスタート。私は役立たずなので傍観。
お粉がどうの、下地がどうのと私の理解が及ばない会話を楽しそうにし、「これ、おばあちゃん使わないんだったら私もらってもいい?」とちゃっかり言う娘に「どうぞ、使って〜」と母もにこやか。その流れで、使用期限切れの古いものはどんどん仕分け。

そして、残りの化粧品にはわかりやすく付箋。
商品名だと何だかわからないので、中身をダイレクトに書く。

これ以外にもまだまだ…

捨てるものは大きな袋によける。

次回の帰省時に私が分別して処分。

「こんなにたくさんあるんじゃ、死ぬまで使えるかもね!」と、私が言いたかったことを自分で言っていた。
もうCMや広告見て注文しません宣言もしたが、きっとまた忘れて買っちゃうんだろうなー。
健康できれいでいたいという気持ちは前向きでいいけれど、ほんとにもう買うのはやめてほしい。

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