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わが故郷

 山口市。人口は20万人、山口県のほぼ中央部に位置する小都市。私はこの街に2歳から15歳まで暮らしていた。山口市は歴史は古く、有名なものでは大内氏による京都を真似た街づくり(今でも西の京と自称している。)、毛利氏による勢力拡大と、関ケ原以降の江戸時代には長州藩の政庁がひっそり置かれたりと、歴史はある。が、産業があまり見当たらない都市でもある。

 私が生まれ育ったのはその名も「大内」という場所。歴史ある大内氏の名前を冠する土地だが、何か所縁があるのかはわからない。
 ただし、よく遊び場にしていた神社はかつて大内氏が10世紀ごろに創建したとされていると由緒書きに書かれていた。
 いまでもそうだが、山口市は決して大きな町ではない。中学生のころ、映画を見ようと友達と計画したならば市内に映画館がないために、ママチャリに乗って佐波山峠を越えて隣の防府市まで遠征しなければならなかった。
 鉄道もそうだ。
 電車は走っていない。ディーゼル機関車と観光SLが走っている。平成の大合併の際に、小郡町を吸収したことで新幹線と電車を手に入れたが、山口市内中心部に向かうにはこの新幹線駅のある「新山口駅(かつては小郡駅という名称だったが、噂によるとのぞみ号を停めるために改名したとか)」から乗り換える必要がある。
 映画を見に行くのに自転車で峠越えをした理由も、ここにある。山口駅から1~2時間に1本の汽車に乗り、新山口で電車に乗り換えて防府駅に行く場合、現在価格で片道590円。バスに乗ると700円近くかかる。中学生にとっては大金だ。しかし、体力はプライスレス。頭が悪い男子中学生は体力にスキルを全振りする傾向にあり、私も無駄に3~4キロ平気で走ったりしていたもので、サクッと峠を越えていた。

 今でも、山口に帰る際に山陽自動車道防府東インターチェンジで降りて、佐波山を越えるとあの時を思い出して笑えてくる。今の体では絶対にできないし、やろうとも思わない。1キロ歩くのでもだるく思えてしまう。

 幼いころの遊びで思い出すが、山口市は自然いっぱいの町だ。なにせ人口が少ない。人口密度の少なさでは全国1位だ。私の家の前にも大きな川があり、田畑があり、小学生がよく田んぼの堰を外して農家のおじさんを激怒させて全校集会が開かれたり、あぜ道でウシガエルを捕まえてみたり、川になぜか繁殖していた色鮮やかな鯉を捕まえようと努力したり、道路を歩く亀を捕まえたり。
 ある日、友達の家の裏山でイモリをたくさん捕まえて家に持ち帰って母親の悲鳴を聞いたことがある。そして、数週間後、そのイモリがケースから逃げ出して家の中で行方不明となったりもした。なお、現在でも見つかっていない気がするので、考えないことにしている。

 山口市。県庁所在地でありながらの自然たっぷりな田舎の風景。行政府に徹する山口市。私はこれでいいんじゃないかと思う。
 今住んでいる岡山県も岡山市は行政も商業もなんでもある。これはこれでいいことだろうけれど、山口市はここに独自性があると信じている。
 だから、山口市は都会になろう!!としなくて良いのだ。
 ビルが林立する山口市は想像したくない。平べったく、緑いっぱいの山口市でいてほしい。
 帰省するたびに、「人より車が多くね?」と思いながら、かつて旧友と遊んだ山や川を横目にしながらたまに涙を流して思うのだ。

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