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デザイナーのキャリア、何が正解?キャリアの専門家が考えてみた

こんにちは。SOMPO Digital Labに2023年8月にジョインした、サービスデザイナー兼デザイナー採用担当の渡邉( https://twitter.com/dora_hirosumi/ )です。

私はこれまでデザイナーとして制作現場で活動するかたわら、デザイナー人材マッチング事業の運営、そして国家資格キャリアコンサルタントとして数多くのデザイナーのキャリアを支援してきました。大企業からスタートアップまで多くの企業から話を聞くなかで、ここ5年ほどで企業が求めるデザイナーのスキル要件が大きく変わってきたと感じています。

今回はデザイナー兼キャリアの専門家でもある私の視点から、現在のデザイナー市場のニーズや、そこで求められるデザイナーのスキルについて考えてみたいと思います。


大きく変わってきたデザイナーの役割

私が前職でデザイナーの人材マッチング事業を立ち上げたのが2014年頃ですが、その前後から現在までにSaaSやモバイルアプリの爆発的な普及、そしてデザインの内製化という開発体制の変化があり、併せてデザイナーの人材要件も大きく変わりました。

当時デザイナーの仕事としてはウェブサイトのデザインが大半で、UIデザインといえば「問い合わせページのフォームなら作ったことある」という程度のデザイナーが多く、いわゆるウェブデザイナーがアプリなどのUIデザインも掛け持つというのが当たり前でした。

また開発現場でも「デザインはお化粧」「あったら良いけど、無くても死なないもの」という認識が一般的で、デザインは要件定義後に外注することがほとんどでした。デザイナーに求められる役割も「ワイヤーフレームを綺麗にすること」がメインであり、体験設計や情報設計、アクセシビリティ・ユーザビリティなどはエンジニアやディレクター、PdMなどが担保するものというのが一般的だったように思います。(余談ですが、私も「デザイナーさんって意外とロジカルなんですね!もっと感覚とセンスで仕事をしているアーティスト的な人だと思ってました」と言われたことが何度もあります笑)

そのようなノンデザイナー主導の環境で作られたプロダクトは、提供側の都合が優先されて使いづらかったり、情緒的な価値が考慮されていないことが多くありました。それに課題を感じたデザイナーたちがプロジェクトへの関わり方を模索し続けた結果、「デザイナーが上流工程から入った方が手戻り無くてスムーズ」「ユーザー中心の体験設計って大事」というポジティブな認識が開発・ビジネスサイドにも浸透し、デザイナーがプロジェクトの初期から参加する現在の体制が次第に一般化していきます。

また時期を同じくして、デザインシンキングやデザイン経営などが、ビジネスとデザインの橋渡しとして注目されたことで、デザインはビジュアル中心の狭義なものから、体験やビジネスまでを含めた広義なものに大きく変化しました。それに伴いデザイナーの役割も細分化され、専門分野ごとにさまざまな肩書のデザイナーが生まれています。

近年、デザインという言葉の持つ定義が広がってきている
(経済産業省 デザイン制作ハンドブック2020を元に作成)
デザイナーの役割が細分化し、各専門領域ごとにさまざまな肩書が生まれた
(グッドパッチ社ニュースリリースより引用)

今、市場ニーズが高いデザイナーとは

このように多様化したデザイナーの役割ですが、人材の市場価値という観点で見ると、現在ニーズが高いデザイナーは、大きく次の二つのタイプに分かれています。

「プロダクトやサービスそのものを作るデザイナー」

事業者が提供するSaaSやモバイルアプリの立ち上げ、運用に携わるポジションです。
以前は、ウェブデザイナーが担うことが多かったUIデザインも、現在ではUI/UXデザイナーやデジタルプロダクトデザイナーと呼ばれる専門のポジションが設けられ、情報設計や機能要件定義など、より上流工程まで担当するのが当たり前となってきました。ビジネス要件や開発要件を考慮しながら、ユーザー中心設計をベースにプロダクトを具現化できるデザイナーは、大企業からスタートアップまで企業規模を問わず、かなりニーズが高い人材です。ウェブデザイナーからのキャリアパスが多いですが、最近では美術大学等から直接、事業会社に入るケースも増えています。

また最近ではプロダクト開発において、客観的視点で事業者の思い込みを防ぎ、ビジネス/開発/ユーザーそれぞれのハブとなる役割として、サービスデザイナーやUXデザイナーのニーズも高まってきています。プロダクト全体の設計に携わることから、抽象度の高い検討初期フェーズではマーケティングやUXデザインといった事業開発スキルが、具体化フェーズでは情報設計やUIデザイン、機能要件定義といったプロダクト開発にまつわるスキルが求められます。

求められるスキルが幅広い分、元ウェブデザイナー、元エンジニア、元リサーチャー、元PdMなど、キャリアパスもさまざまで、「ビジネス戦略とリサーチに強いサービスデザイナー」「情報設計とユーザビリティに強いサービスデザイナー」など、複数のスキルをかけ合わせて価値を高めているケースが多いです。

具体的な求人名:デザインディレクター、ビジネスデザイナー、サービスデザイナー、UXデザイナー・ディレクター・リサーチャー、UI/UXデザイナー、デジタルプロダクトデザイナーなど

「企業やサービスのあり方・見せ方を考えるデザイナー」

企業やサービスを世の中にどのように見せていくか、をデザインするポジションで、担当範囲は企業本体、プロダクトやサービス、販促、社内(インナーブランディング等)など多岐にわたります。

ウェブデザイナーやグラフィックデザイナーも含まれますが、特にニーズが高いのはブランディングやクリエイティブディレクションなど、「誰に、何を、どのように見せていくか」という戦略部分からコミットできる人材です。近年、経産省・特許庁が推進するデザイン経営が中小企業にも広まり、経営にデザインを取り入れる企業が増えたことで、このポジションを担える人材は、制作会社、事業会社ともにニーズが高まっています。

全体を俯瞰して設計して関係者とも合意形成できる戦略立案力やコミュニケーション力といった、総合的なディレクション能力に加え、企業やブランドの全体像を理解して視覚的に表現できる能力が求められるため、ビジュアルデザインに強みを持つデザイナーのキャリアパスとなることが多くなっています。

具体的な求人名:クリエイティブディレクター、アートディレクター、ブランディングデザイナー、デザインディレクターなど

これら二つのタイプは担当領域が重なっていたり、スタートアップなど小規模な組織では一人のデザイナーがどちらも担っていたりと、明確な線引は難しいものの、「抽象度の高い上流から、具体的なアウトプットまで、一貫して伴走できる」「社内外のステークホルダーをまとめる中心的ハブになれる」ことが、市場ニーズが高いデザイナーの特徴として共通していると言えるでしょう。

これからのデザイナーに必要な3つのスキル

では、このような市場ニーズの高いデザイナーになるために必要なスキルとは何でしょうか。

ビジュアルデザインやリサーチ、マーケティングといった専門的なスキルはもちろん大事ですが、実はそれ以上に、大きくパフォーマンスに影響するのが「汎用スキル(ポータブルスキル)」です。


スキルピラミッド


私はこれまでデジタルプロダクトデザイナーやサービスデザイナーなど、数百人のデザイナーを見てきましたが、市場ニーズの高いデザイナーには共通する3つの汎用スキルがありました。それがクリティカルシンキング課題解決スキル、そしてコミュニケーションスキルです。

1. クリティカルシンキング

1つ目がクリティカルシンキング(=批判的思考)です。「批判」というとネガティブな印象を感じる方もいるかもしれませんが、本来の意味は「 ものごとに検討を加えて、判定・評価すること」で、クリティカルシンキングとは目にした情報や聞いた話をそのまま鵜呑みにせず、自分のフィルタを通して論理的・客観的に判断できるスキルのことです。

どのような情報も誰かがまとめたものであり、そこには必ずバイアスが伴います。例えばアンケート調査データのような一見客観的に見えるものも、設問の作り方だったり分析の観点次第では、まったく異なる結果となることも多くあります。結果をそのまま受け取るのではなく、どういった意図や背景があってその結果となったのか、までを常にセットで意識できるようにすることが本質的な課題解決には不可欠です。

誰かの話を聞くとき、ニュースを見るときなどインプットの機会は身の回りに溢れているので、日ごろから「結果と背景」を常に意識するようにしましょう。

2. 課題解決スキル

2つ目の課題解決スキルとは「課題発見スキル」と「解決策発見スキル」の2つを組み合わせたものです。いかに良い解決策を考えついても、そもそもアプローチしている課題がピント外れでは意味がありません。その逆もまた然りで、どちらが欠けても本質的な課題解決には繋がりません。そこで重要なのが発散と収束です。

英国デザインカウンシルが提唱したダブルダイヤモンド図

目の前の課題に盲目的に取り組むのではなく、まずはさまざまな視点で課題を洗い出し、それらを重要度や緊急度などの軸で優先度をつけることで「今、本当に着手すべき課題」が見えてきます。解決策も同様に、まずは十分にアイデアを発散してから絞り込むことで、精度の高い解決策にたどり着くことができます。デザイナーはアイデア出しに参加する機会も多いと思いますが、提示された課題や思いつきの解決策にいきなり取り組まず、まずは十分に発散することを心がけ、それらを適切な判断軸で整理する習慣をつけましょう。

ちなみにこの発散と収束は、日常生活でも意識できる機会が多くあります。例えば、家電製品を購入する際には、気になる商品だけでなく他の商品も幅広く調査して(発散)、比較検討してから購入を決める(収束)ことで、のちのち後悔することの無い選択ができるでしょう。同様に転職活動をする場合にも、自分の希望条件をリストアップして優先順位を付けた上で、幅広い企業からマッチする企業を絞り込んでいくことで、後悔のない転職ができる可能性が高まります。このように普段の生活に取り入れることは、自然とスキルを向上させることにも繋がるので非常におすすめです。

3. コミュニケーションスキル

3つ目のコミュニケーションスキルは「聴く・引き出すスキル」と「伝える・動かすスキル」の2つを組み合わせたもので、どのような職業・職種でも求められる汎用スキルの一つですが、前述のクリティカルシンキングと課題解決スキルを最大限活かすためにも、特にデザイナーには欠かせないスキルです。

コミュニケーションというと話の上手さやロジカルさなどの「伝える力」が注目されがちですが、まず相手の潜在的なニーズを理解できなければ、本質的な話はできません。また、自由に対話ができる関係性が作られていなければ、いくら上手に話しても相手を動かすことはできません。

コミュニケーションスキルを磨くなら、まずは「聴く・引き出すスキル」に注力することがおすすめです。「人間は感情の生き物」と言われるとおり、人の判断には必ず感情が影響します。正しい / 正しくないの判断(=論理の壁)の前に、受け入れたい / 受け入れたくないの判断(=感情の壁)が先に働くため、論理的に正しいものでも「この人の話し方、なんか嫌だな」と思われれば、その時点で受け入れてもらえません。

話を聞いてほしい・動いてほしかったら、感情の壁と論理の壁を越えることが必要


そのためには、傾聴姿勢で相手の話を十分に聴くことが重要です。人は自分の話を聞いてもらえることで満足し、またお返しとして「相手の話も聞いてあげなければ」という意識も働くようになります。また、相手にたくさん話をしてもらうことで相手も思考も整理され、本質的な気づきを促すことにも繋がります。相手に伝えたい、行動を促したいときは、まずは傾聴によって話を聞いてもらえる関係性(ラポール)を築くことを意識しましょう。

さいごに

いかがでしたでしょうか?今回の内容がみなさんのキャリア設計の参考になれば嬉しいです。

また私たちSOMPO Digital Labではデザイナーを絶賛募集しています。
ポジションとしてはプロダクトデザイナー・サービスデザイナーで分けてはいますが、前述の「プロダクトやサービスそのものを作るデザイナー」「企業やサービスのあり方・見せ方を考えるデザイナー」のどちらの領域も、ご自身のスキルや意思次第でチャレンジいただける環境です。

特に、デザインスキルを軸としながらもプラスアルファの領域で価値を発揮したいという方、デザイナーという型や役割にこだわらず幅広く活躍したい、という方は大歓迎ですので、ぜひお気軽にカジュアル面談にご応募ください。
(実際に私も、プロダクトデザイナー+サービスデザイナー+人材採用/育成と、複数の役割を楽しんでます!)

ではまた!


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