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小学校教員夫婦の、4人育児。制度の活用と家族のチームワークで、なんとか仕事をやめずにいる。

子育てと自分のやりたいことを両立している人は、どうしても“スーパーウーマン”に見えてしまいがち。とくにインタビュー記事では、そのすごさばかりに目がいってしまいます。でも、100%スーパーウーマンな人なんて、きっといません。いろんな方の物語を聞きながら、自分に合った「子育て×自己実現」のヒントを探してみませんか?

第3回に登場するのは、小学校の教員として週3日勤務をしながら、4人の男の子を育てる黒井晴美さん(仮名)。
しかも、末っ子2人は双子。ハードワークなイメージのある教員を、子育てとどう両立しているのか? 双子育児のはじまりや家族とのコミュニケーションなど、リアルな生活を聞きました。

取材+文:片岡由衣


思い通りにならない妊娠出産。流産や不妊治療を経て授かった

ーー子どもを持つ前は、妊娠や出産に対してどう考えていましたか?

3姉妹で育ったこともあって、昔から「3人子どもがほしいなあ」と漠然と考えていました。もともと子どもは好きでしたし、「実家の近くで子育てをしながら働く」イメージを持っていたように思います。母が学校の先生をしていて、地元の仙台には学童もなかったので、私自身も放課後は祖父母の家で過ごす日々だったんです。ただ、私が就活をした当時は、地方の教員採用試験の倍率がすごく高くて……。結局は実家の近くではなく、東京都の教員として働き始めました。夫も学生時代からの付き合いで、同じく教員をしています。

ーー妊娠・出産をされたのはどんなタイミングでしたか?

夫とは長い付き合いだったこともあり、結婚してすぐに子どもを持ちたいなと思っていました。はじめは1年ほどで妊娠したのですが、初期流産をしてしまい、知人に紹介してもらったクリニックで不妊治療を開始。ふたたび妊娠するもまた初期流産となり……「出産に当たり前はないんだ」と、とてもショックでしたね。無事に上の子を出産したときは結婚式から3年が経ち、30歳になっていました。

ーーつらい経験を乗り越えて、出産に至ったのですね。いまや小学3年生、年長、2歳の双子の4人のお母さんです。3人目のお子さんが双子だとわかったときは、どんなお気持ちでしたか?

上の子は2人ともクリニックに通って授かったなか、3人目は「できたらいいなあ」くらいの気持ちだったのに、思いがけず自然妊娠をして、しかも双子! 正直に言って、うれしいよりも驚きと戸惑いの気持ちの方が強かったです。卵が2つ見えて、先生から「双子です。うれしいですか?」と聞かれて……。すんなり「はい」とは言えず、「びっくりです」としか答えられませんでした。

初めての妊娠だったら、素直にうれしいって思ったかもしれません。でも、一人ずつ子育てを経験していたからこそ「無理でしょ」と、現実的な不安の方が先に来てしまいました。実際、妊娠中から想像を超える大変さでしたね。

ーーたとえば、どんなところが大変だったのでしょうか。

まず、つわりが上の子たちと全然違って、かなり重かったです。食事もまともに取れず、起き上がって動くこともままならない状態でした。お腹が張りがちで張り止めの薬を飲み、薬の副作用なのかフラつくことも。妊娠中期くらいからはお腹が大きすぎて、5分歩くのがやっとでした。コンビニは徒歩1分の距離にあるのに、品物を選んで帰るだけで5分が過ぎてしまうので車で行くほど、ほとんど動けませんでしたね。

ーーそれだと、上のお子さんたちのお世話も大変ですよね……。

ちょうどコロナ禍で、上の子たちが通う保育園も休園になっていたんです。でも、私たち夫婦の職場である公立小学校も一斉休校になったから、夫に上の子達を公園に連れて行ってもらって過ごしていました。

ーーコロナ禍だと、出産にも通常時とは違う苦労があったことと思います。

産後の面会は、家族でも一切できませんでした。いま思うと、入院中がいちばん大変で辛かった気がします。双子の出産で手助けがほしかったのに、経産婦だったからか院内でも「慣れてるから大丈夫だよね!」という空気感があり、初産の方に比べて、あまりフォローしてもらえなくて……(笑)。病院でクラスターが発生して、手が足りていなかったのもあるかもしれません。

フラフラの体で3時間おきに授乳室に歩いて行って、おむつを替えて授乳して、ミルクも足して……2人分していると、あっという間に1時間半くらい経っている。部屋に戻ってもまたすぐに授乳室へ行かないとならなくて、双子の洗礼をいきなり受けている感じでした。

ーー想像するだけで大変そうです……。

でも、自宅に戻ってからは2ヶ月ほど、実家の母が寝泊まりして助けてくれました。上の子たちの保育園は、近所に住む義父母が送り迎え。夫も早めに帰宅して、家事や育児をしてくれていました。家族みんなの助けがあったおかげでなんとか乗り切れたなあと思います。

教員と育児をどうやって両立? 働き続けるための工夫

ーー学校の先生はハードワークという印象があります。お子さんが増えていくにつれて、働き方の工夫などはされましたか?

教員は最長で3年間育休を取得できます。上2人は続けて出産し、復帰するまで育休を4年半ほど取得していました。復帰にあたって、以前のように学級担任として勤務するのは難しいかもしれないと思い、別の働き方を検討。一人で担任を持たず、5〜7人の教員で複数の学校を分担する特別支援教室に移りました。チームで働くことで、子どもが体調不良で休まなければならなくなったときにもカバーしてもらえるため、とても助かりました。

それから、ちょうど復帰と同じ時期に、遠方に住んでいた義父母が「近くに引っ越したい」「育児を手伝う」と言ってくれたんです。親の支援がないなかで共働きを続けられるのか不安だったので、ありがたかったですね。

ーー復帰は時短勤務でしょうか?

いえ、週5日フルタイムでの復帰でした。ただ、同僚たちも「仕事を終わらせたらすぐに帰ろう!」という意識が強い職場だったため、定時に上がれてはいました。

16:45に退勤したら、自転車で駅まで猛ダッシュ。そこから電車に乗って、自宅最寄り駅から保育園に車で迎えに行って……。勤務先から保育園まで1時間くらいかかるので、なかなかハードでした。ただ、祖父母が週二回ほど送りを担当してくれたり、週一回はお迎え後の夕飯やお風呂まで預かってくれたりしたので、なんとかやれていました。

ーー義両親のサポートを受けて働き続けるなかで、末の双子を妊娠。育休は今回も3年取られたのでしょうか。

妊娠がわかったときは、また3年間の育休を取ろうと思っていたんです。今回が最後の育休になるだろうしって。でも双子だとわかって、3歳まで私が家で育てるよりも保育園にお願いしたほうがいいと思い「1歳で復帰しよう」と決めました。夫にも育休を取ってもらいたかったけど、本人にあまりその意思がなかったのには少しモヤモヤしましたね。

ただ、いざ育休後の復帰を考えると、仕事と家事育児のやりくりはすでに2人で精一杯。さらに改善する方法を探した結果、“週3日勤務”ができないかと管理職に相談しました。

――働く日数を減らせば、4児の子育てをなんとか両立できるのではないかと考えたわけですね。教員だと、そうした勤務体系もありえるのでしょうか?

制度自体はあるのですが、少なくとも、私の周りでは実際に日数を減らして勤務している話は聞いたことがありません。でも、私が続けるにはこれしかないと、思い切って相談しました。同僚も「え? そんなことできるの?」というリアクションだったし、管理職も戸惑っていたけれど、ありがたいことに認めていただけて。いまは週3日、一日8時間半の出勤で、引き続き特別支援教室を担当するチームで働いています。

ーー働き方をさまざまに調整しつつも、先生と子育てという、責任感の大きい仕事をここまで続けてきていることがすごいなと思います。「仕事を辞める」という選択肢はなかったんでしょうか?

ありませんでした。とはいえ「何がなんでも続けよう!」と思っているわけでもないんです。教員は憧れていた仕事ではあったけど、いざ働いてみたら「向いてないな」と感じることもあるし……それでも、続けられるのであれば続けたい。なのでいまのところは、いろいろ調整しながら続ける道を選んでいます。

でも家族が優先なので、もしも家族に何か不都合が出てきたら、いつでも休職や退職をするつもりです。家庭の状況によっては、非正規の講師になる選択もありえますね。

ーーキャリアを柔軟に考えていらっしゃるんですね。日ごろ息抜きはできていますか?

復帰したばかりの昨年は、子どもが順番に体調を崩してほぼほぼ病院通いで休みが終わっていました(笑)。でも、最近はようやく少し落ち着いてきて、お休みの日にときどきカフェに行ったり買い物したり、ができるようになってきました。

ーー日々の暮らしのなかでも、仕事と子育てを両立するための工夫がたくさんありそうです。

そうですね。家を建てるときは「共働きをしやすい家」というコンセプトにしました! たとえば、洗濯物を畳んで収納することまで手が回らないと思ったため、2階に「家事室」を用意。部屋干しができるように巻取りコード式の物干しをつけて、乾いたものはすぐ脇のクローゼットに“かける収納”をしています。いまは子どもたちが小さいので、子ども服はすぐ取り出せるように洗面所に収納しているけれど、大きくなったら2階の子ども部屋のクローゼットにしまう予定です。

さらに、双子が保育園に通い始めたタイミングで、縦型の大容量洗濯機とガス乾燥機の2台使いをはじめました。ガス乾燥機には、本当に助けられています。一般的なドラム式の洗濯乾燥機って、洗濯の容量よりも乾燥の容量が少ないし、乾燥に時間がかかるうえにお手入れも大変。双子が保育園に通い始めると洗濯物が増えて、休みの日にコインランドリーに行くこともしょっちゅうありました。それが、大容量タイプの2台使いで解決です。

食材は宅配を利用して、買い物の回数をなるべく減らすようにはしています。でも、近ごろは子どもたちがよく食べるようになってきて、作っても作っても……食べられちゃう(笑)。夫には帰りに「子どもたちがあなたの夕飯食べちゃったから、自分の分はコンビニで買ってきて〜」なんてお願いすることもあります。

まだまだ長い子育て期間。柔軟な働き方の浸透を

ーーご夫婦の関係も、年月を経て変わっていったのではないでしょうか。

夫は私よりもさらに通勤に時間がかかっていて、仕事量も多いんです。同じ教員なだけに、いつも頑張っていることもよくわかります。でも、私の育休中は帰宅が遅いし家事の負担もほとんど私で、不満がたまってしまうこともありました。

でも、双子が生まれてからは、お風呂に間に合うように帰ってきてくれる日が増えて。寝かしつけを担当しない方が食器の片付けや洗濯などの残りの家事をするなど、自然に分担できるようになっています。

ーーパートナーと協力し合うために大切にしていることはありますか?

やはり、コミュニケーションの時間をつくることでしょうか。双子が産まれる前は義理の両親に子どもたちを預かってもらって二人で外食をしたり、産まれてからは双子をお昼寝させるために、家族みんなでドライブしたり。最近は、このドライブ中が貴重なコミュニケーションの時間になっていて。ケンカになることもありますけど(笑)。

ーードライブ、いいですね! 今後の仕事や子育てについてはどう考えていますか?

小3から2歳の4人兄弟なので、子育てのピークがいつなのか、なかなか想像ができないんですよね。双子が一年生に上がる頃かなぁ? いまは仕事との両立は大変だけど、辞めるのはいつでもできると思うから、本当にしんどくなったら辞めてもいいと考えながら今にいたります。なんとかやれているのは、やっぱり勤務を週3日にしてもらえたことがいちばん大きいです。おかげで双子だけでなく、上の子たちとのコミュニケーションもできている。小学生の長男が「友達と家で遊びたい」と言えば対応してあげられるし、習い事の送り迎えもやれています。

先生も、こういう柔軟な働き方をどんどん選べるようになっていけたらいいですよね。そもそも、勤務日数を減らせる制度を知らない人も多いし、とくに東京は活用度が低いらしくて。東京こそ、地方から出てきて実家の助けを得られずに子育てしている人も多いと思うので、広がってほしいなあと思います。

【メンバーシップ限定トーク】教員が不足! 育休取得や時短勤務のリアル

ここからはメンバーシップ限定トーク。学校現場にいるからこそ感じられる、先生の育休や時短勤務取得の課題について、話してもらいました。

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