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建築のプロであっても、地盤のプロではない

今回は地盤の事について私なりにまとめてみます。
まず、私は建築業界に入り主に住宅建築を18年ほど手掛けてきましたので、木造住宅建築に関してはそれなりの知識や経験値があると自負しています。
ですがタイトルにあるように、その住宅が建っている「地盤」に関しては決して詳しく知っている訳ではなかった、という事が今回の地震によって痛感させられました。

もちろんその方によりますが、知識や経験値が圧倒的に足りていなかったと、私と同じ様に感じている同業者も多くいらっしゃるという事が、前回告知させて頂いた液状化に関するセミナーへの注目度や参加者数を見ていて感じます。
一般の方、被災された方はもちろん、相談を受ける側の我々建築事業者がやはり困っているんだな、という事です。

また、非公開のグループですが「住学」という建築コミュニティー内で緊急的に立ち上げた液状化や地盤、沈下修正に関する情報共有するグループ内での皆さんのやり取りを見ていても感じます。

このような震災が身近にあったからこそ生まれた流れですので褒められたものではないのかもしれません。
でも、少なくとも私を含め建築に携わる方が各々建築に対する想いや価値観が揺らぎ、落胆し、それでも困っている方に真摯に対応する為に多大な労力をかけて学んだり、経験を積んでいるんだと思います。

まだまだ私自身も勉強中ではありますが、年明けから今日まで得た知識を一旦まとめてみたいと考えました。

以下、セミナーでの講師をお願いしている地盤の専門家であるグランダートユニオン代表 酒井 盛幸 さんより頂いた、非公開グループ内でのコメントを特別に許可を頂き抜粋、引用しております。
内容に関して酒井さんの承諾を得て記事に載せておりますが、私が自己判断で表現を変えている部分もあります。
また、酒井さんの意図とは異なる捉え方をしている部分もあると思われます。もし内容に間違いなどあっても私の責任であって、酒井さんには全く非がありませんので、予めご承知おき下さい。


液状化と地盤について

液状化する地盤理論
①地下水位が高い
②砂質土の粒径が揃っている(細粒分含有率35%未満)
③N値15以下(おおよそ)←SWS試験ではやや限界

液状化するロケーション
①海岸部などの砂質土主題である
②山から平地に変化する部分(地下水が溜まる)←今回の西区寺尾上地域が該当(過去に長岡などでも確認されています。)
③三日月湖
④旧河道

液状化現象
①地盤の支持力の喪失
②側方流動 ←今回は寺尾上で確認
③噴砂は液状化層が被圧されていた場合に生じます(噴砂を防ぐ事=液状化を防ぐことではない)

液状化対策(原則4つ)
①建物を杭等で支持させる(支持力が喪失するので)
②セメント等で固結させる
③密度を増大させる(サンドコンパクション工法など、50tクラスの砂杭や砕石で周辺のN値を高くする)
④地下水そのものを無くす(井戸や集水管などですが、現実的ではない)

※今回、西区の寺尾上地域は①②が該当し、側方流動も確認されていますが、盛土崩壊も確認されています。

若干専門的な用語も含まれますが、ご容赦下さいませ。

上記のように、今回甚大な被害が集中した新潟市西区寺尾地域は液状化現象が起こりやすい地盤だった、という事が分かります。

新潟県内の液状化しやすさマップ

今回の地震後にSNS上でもシェアされていて私も知ったのですが、新潟県からは県内の液状化しやすさを表したマップ情報が公開されています。

新潟県内の液状化しやすさマップから画像引用
https://www.hrr.mlit.go.jp/ekijoka/niigata/niigata.html

是非皆様も一度このマップを確認しながら、ご自分の生活圏内だけでも見てもらえると分かると思います。
見えづらいですが、画面中央からやや左下がJR寺尾駅で、今回特に被害が大きかったのは寺尾駅の下から始まり、地図の右上へと繋がる少しグレーっぽい色が塗られている地域。この色の部分が「過去に液状化が起こった履歴がある地域」です。
そしてピンク色が危険度3、赤が危険度4という事で、ちょうどその境目から地図の下側が今回被害が多かった地域と正に同じという事になります。

酒井さん曰く

液状化は、地震力、時間、周期、方向などの要素が複雑に関係し、液状化したところが必ず再び液状化するとは限りません。

とは言いつつも、再び液状化する可能性はやはり高いです、との見解です。今回は正に再びほぼ同じ地域で液状化が確認されましたので、危険性としては変わらないという認識で間違いないでしょう。

住む場所を選ぶ時に大切な心得

それらを踏まえつつ、これから住まいの取得を検討されている方にとって心掛けておくと良い5つについて紹介しておきます。

①盛土は絶対に信用してはいけない
(盛土=表層的な地盤改良)
…新しく土地が区画整理されて分譲地として売り出されますが、一見表面的にはキレイに見えても表面だけ入れ替えている場合が多いです。
もし新たに土地を購入して住まいを検討している場合、見えない地盤の中にも注意するようにしましょう。

②液状化した所は、また液状化する可能性が限りなく高い
…被害のあった地盤は再び同様な現象は起きないとされており、免疫性と言われていますが液状化は適用できません。

③良い土とは、粒径がバラバラな土
…粒の揃った砂や砕石は一見良いと思われますが隙間だらけですので厄介です。盛土に用いる土はいろいろ混ぜて使う事。人間社会と一緒で、多様性が大切なんですね。

④地盤の悪い土地を選ばない
…一般的に人は、土地を買ってからどういう家を建てるか、をイメージするのですが、悪い土地を選んだ時点で手遅れだったりします。結局、改良や今回の被害の修理などで高く付いてしまう。

⑤地震保険は可能な限り加入する
…新築した際に建物に付与される「瑕疵保険」と、地盤調査に基づいた地盤改良工事を行う事で付与される「地盤保険」では震災による被害は全くカバーされません。
あくまでも平常時に沈下したり、構造的に壊れたり、雨漏れをしたりといった場合に保険金が適用されるものですので、火災保険や地震保険には可能な限り加入されると良いでしょう。

当たり前の事に思えますが、やはり地震でもないと強く意識しないと思います。
この中でもやはり④のそもそも地盤の悪い土地は選ばない、というのが何よりも本質な気がします。
ですが、それも液状化の危険性が低くなったというだけで、また違ったリスクやデメリットなども出てくると思います。極端ですが、地盤は強いけど山奥だったら、生活に困りますもんね。
そうなってくると、土地や建物を所有するという事自体もリスクと言えるでしょう。特に住宅ローンを借りてしまうと、返済が終わってないのに被災してしまい、修理する資金もなくどうしよう…そんなケースもあり得ますね。
何事もバランス良く、分散しておくという事を意識されると良いでしょう。

住宅は地震を想定して計算するのに、地盤は地震を想定して計算していないという現実

これは本当に盲点でした。
私もこれまで手掛けた新築住宅では当然全て地盤調査を行い、それを基に予算なども勘案し見合った杭工事で地盤改良工事を行い、その上に住宅を設計して建築してきました。
住宅を設計する際は、少なくとも地震の揺れや強風が建物に作用する力と、建物が保有する耐震性を比較し倒壊しないように構造計画をする訳ですが、先ほども述べたように実は地盤に関する計算というのは一般的に「地震による力は想定していない」という事だった、と初めて理解しました。

いわゆる一般的な木造住宅建築において地盤調査といわれているのはSWS(スクリューウエイト貫入)試験という調査方法で、液状化判定試験とはまた別の方法という事です。
そして、我々建築事業者が建築設計時に指針として用いている日本建築学会の小規模建築物基礎設計指針にも、地盤改良工事においては地震による力までは計算しなくてもいいですよ、となっています。
これはあくまでも一般住宅というカテゴリーの話ですので、もちろん大規模な建築物の場合にはより高度な計算をし、地震による力も加味した地盤改良も強固にしている訳です。

では住宅でもその計算と地盤改良を行っていけばいいのでは?と思われるかもしれませんが、そう簡単な話ではありません。
地盤改良工事に関してはまた次回詳しく解説するとして、簡単に言うとこれまでかかっていた費用よりも多額の費用が地盤改良工事にかかってしまう、という大きなデメリットがあります。
現状でさえ数十万円~二百万円程度もかかってしまうのに、それ以上かかってしまう。
つまり同じ総予算で計画した場合、それだけ建物にかけられる予算が減ってしまう事になります。

どうしてもその土地が良い、予算に関しては問題ない、という方なら別ですが…これが全てを解決する、という風には考えられません。
とても悩ましい問題ですね。

次回は地盤改良工事について、詳しくまとめてみたいと思います。

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