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あんな無茶、もう二度としない

憧れている人やスタイルというのは真似したいし、好きなことはそういう憧れていることの真似から入ることが多い。特にお酒とたばこの飲み方・吸い方は憧れと真似で好きになっていったものだ。

かつての文豪やその小説の登場人物のお酒の飲み方は破天荒だったりもするがそのスタイルはカッコよく映ったものだ。

「日はまた昇る」はまさにそんな小説だった。そして、その登場人物はその作家のヘミングウェイ自身とその友人たちがモデルだった。

ヘミングウェイといえば、フローズン・ダイキリとモヒートの話が有名だ。
ネットで調べれば、いくらでも紹介されている。いや紹介されつくしている。
でも、お酒に興味がない人は調べないから知らない人も多い。
お酒の知識なんてそんなものだ。
だから僕もこの有名な話を紹介してみようと思う。

ヘミングウェイはとにかく酒豪だった。
でもありがちなのだが、糖尿病の持病があったらしい。
なので、ヘミングウェイで有名となったフローズン・ダイキリではあるが、ヘミングウェイ自身が飲んでいたフローズン・ダイキリは別のレシピだった。

多くのカクテルは砂糖やシロップが入る。フローズン・ダイキリも少量の砂糖を加える。
レシピはこうだ。

ホワイトラム40ml + ライムジュース10ml + 砂糖2tsp

カクテルのレシピで書かれている”tsp”とはティースプーン(茶さじ)のこと。
バーテンダーがカクテルを作る際は、長い柄のバースプーンを使うが、
この2tspというのは、そのバースプーンで2杯。(ただここにはちょっとマジックがあるが今回は省略)

ちょっと説明が長くなったが、
ヘミングウェイのレシピはその砂糖を抜くスタイルで、「パパ・ダイキリ」と呼ばれる。
ただ抜くだけではない。
ラムとライムジュースは2倍、そこにさらにマラスキーノ・リキュール6dash(滴)とグレープフルーツジュース15mlを加える。砂糖は使わない。

糖尿病という割にグレープフルーツジュースを入れるだけでなく、ラムは増量してるけどね。しかも、いつもこれを12杯飲んでいたという。
糖尿病だから砂糖抜きにしていたというは、きっと誰かの後付けの想像に違いない。
パパ・ダイキリは、すっきりとした味わいで、ヘミングウェイはそれが好きだったのじゃないかな。
だいいち、ヘミングウェイが愛したモヒートには砂糖が入るしね。

ヘミングウェイはそのモヒートもこよなく愛していたが、ヘミングウェイにはこだわりがあった。
1940年から22年間もの間キューバのハバナで暮らしたヘミングウェイだが、彼にはモヒートとダイキリを飲むのにそれぞれ別々にひいきにしていたバーがあり、

「我がモヒートは『ラ・ボデギータ』にて、我がダイキリは『ラ・フロリディータ』にて」

という有名な言葉を残したと言われている。これは名言集にも載っている。

この2つの店は今も営業していて、世界中からの観光客で常に満員だという。
そして、ラ・ボデギータはモヒート、ラ・フロリディータはフローズン・ダイキリの1種だけで店が回るほどだという。

これに似た話が、シンガポール・スリングで有名なラッフルズ・ホテルにもあり、やはり客のほとんどがシンガポール・スリング一択だという。

フローズン・ダイキリの話に戻そう。
ダイキリのフローズンスタイルというのは、1930年代にはレシピがあったという。当初は、クラッシュドアイス(細かく砕いた氷のこと)のうえに、シェークしたダイキリを注いでいたらしいが、その後、アメリカでブレンダーが開発され、ラ・フロリディータでもブレンダーを使ってシャーベット状にするようになったという。その後のラ・フロリディータのスタイルは、シェーカーは使わず、材料とクラッシュドアイスをブレンダーに入れて作る。

フローズンスタイルのカクテルは、アルコールは強いのだが、圧倒的な爽快感で、アルコールの強さを感じさせない。つい飲みすぎてしまう。
だから、一気に酔いが来る。
ヘミングウェイの小説、「海流のなかの島々」にフローズン・ダイキリが登場するのだが、こう記してある。

「飲むほどに粉雪を蹴散らしながら氷河を滑走する心地。6,7,8杯目には、ザイルパーティも組まずに氷河をスキーで急降下するよう」

いや、ショートカクテルを8杯も飲んだら酔いつぶれてしまう。
これは毎回12杯飲んでいたヘミングウェイだからこそできた表現だ。
その飲み心地を検証するにはちょっと勇気がいる。

今はちょっと無理だな。

昔、まだ20代のころ、映画で出てくるような、テキーラをショットで塩とライム片手に次々に飲むのを妻と二人で試したことがある。

偶然かもしれないが、その時の僕らの記録が1人12杯だった。頭がぐるぐる回った。そして、当然、翌日はとんでもない二日酔いだった。
もう二度としないと思った。

やっぱり、ヘミングウェイの真似は到底無理だ。

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