お母さんへの手紙〜母の日に〜

お母さんへ。

元気ですか？
……って言うのもヘンかな。

だけど、
まだどこかで生きてくれているような
そんな気がしてならないんだ。

「お母さん、どうしてるかな」
って、つい思っちゃうんだ。

笑ってるかな。
しあわせかな。

お母さんのこと、
一日だって忘れたことはないよ。

いつもいつも
ずっとずっと
誰よりも想ってるよ。

お母さん、私は元気でやってるよ。

お母さんのネックレス、
大事に使わせてもらってるよ。
子どものころ、私がうらやましそうに見つめてた
あの金のネックレス。

「お嫁に行ったときにあげる」
って言ってたよね。
お嫁には行ってないけど、私がもらったよ。
いいよね？

お母さんが旅立つ4か月前に
会って話せたのは、奇跡だったよね。

私の話をたくさん聞いてくれて、うれしかった。
お父さんも妹たちも、
私なんかにはまったく興味がないから。
誰も聞いてくれないんだよ。
お母さんだけだよ。
そんなふうに、私の話を真剣に聞いてくれるの。

私の手をさすってくれるお母さんの手が
ちょっと冷たかったけど、やさしくて。

私が身につけていたネックレスを
「それ、かわいいね」
って言ってくれて。

私のマフラーを手に取って
愛おしそうに撫で続けていたあの姿が、
目に焼きついて離れないんだ。

15年ぶりに再会して、
お母さんとふたりで撮ったツーショット写真。

あれが最後になっちゃったけど
私の宝物だよ。
一生大事にするね。

あれからもう、10年も経つんだね。

お父さんもそっちに行っちゃったけど
ふたりで仲良くやってる？
もしかしたら、またケンカばかりしてるのかなぁ。

お父さんにはまだ言いたいことがいっぱいあったのに
私の話を聞かずに勝手に旅に出ちゃったから
お母さんから叱っておいてね。

お父さんのことは、お母さんによろしく頼むね。
お母さんは嫌というほど知ってると思うけど、
あの人も、本当に手のかかる人だから。

そういえば、
お母さんは知ってた？

私、発達障害だったんだよ。
半世紀近く生きてきて、やっとわかったんだ。

めちゃくちゃ育てにくい子だったよね。
面倒ばかりかけて、本当にごめんなさい。

っていうか、お母さんは知ってたんじゃないの？
私はそう思ってるんだけど。
知ってたなら、教えてくれたらよかったのに。

長女なのに、最初の子育てから
うまくいかないことばかりで
大変だったよね。

なのに、私はぜんぜん長女らしいことできなくて
ごめんなさい。

親孝行もしたかったのに、
ちゃんとできなくてごめんなさい。

だけど、私が親孝行できるようになる前に
旅立ったお母さんが悪いんだからね。

正社員になって仕事が安定してきて、
これでやっと親孝行できるって
そう思ってた矢先のことだったから。

お母さんといっしょに旅行したり
美味しいもの食べに行ったりしたかったな。

もっともっと、いろんなこと話したかった。
まだまだいっぱい、話したいことがあったのに。

まだまだ大人になれない私に
教えてほしいことだって、たくさんあったのに。

早いってば、お母さん。

「お母さんは死なない」って思ってた。
いつまでもあたりまえのように
ただただ存在し続けてくれると思ってた。

しわくちゃでヨボヨボのおばあちゃんになっても
ずっと近くにいてくれると思ってた。

なのに、おばあちゃんになる前に
突然いなくなっちゃうなんて。

そんなの、聞いてないよ。

だけど私はいま、しあわせだよ。
「生きててよかった」って、
心からそう思えるから。

私を生んでくれてありがとう。

初めての出産なのに帝王切開という大難産で
お腹に大きな大きな傷を負いながら
大変な思いをして生んでくれたこと
本当に感謝しています。

そして、こんなに手のかかる娘を
ここまで育ててくれて、
本当にありがとう。

そうそう！

お母さん、私、作家になったよ。
相変わらず、大好きな歌もうたってるよ。

私がどれだけ「もの書き」になりたかったか、
お父さんとお母さんは
あまり理解してくれてなかったみたいだけど。

めちゃくちゃ遠回りしたけど、
やっとひとつ夢を叶えたよ。

いま、お母さんのことを書いてるんだ。
いつかこれを本にして、届けるからね。
お父さんとお母さんにも届くように、想いを込めて。

お母さん、10年前に棺には書いたけど
ちゃんと伝えられていなかった言葉があるんだ。

その言葉をいま、贈るね。

お母さん、ありがとう。
ずっとずっと大好きだよ。