君の好きなものは何ですか?
誰かの「好きなもの」の話を聞くのって、とっても楽しい。
聞いてるだけで、こっちまでワクワクするんだよね。
ショートケアを通して、いろんな発達さんたちと仲良くなった。
特に、6か月間の発達障害専門プログラムでともに学んだ仲間たちとは、いまもいい関係が続いている。
そのときのメンバーでグループLINEをつくって活発にメッセージを交わしているし、みんなで集まって食事会をしたりもする。
いまでもたまにショートケアで会うと、声をかけ合う。
絵を描くのが大好きだという彼女は、いつも自分の作品の画像をスマホで見せてくれる。
顔を合わせると「この後、よかったらいっしょに○○に行きませんか?」と気軽に声をかけてくれるのが本当にうれしい。
年齢は親子くらい、かなり離れてるんだけどね。
先日も声をかけてくれて、彼女と私と、潜水艦マニアの彼の3人で、大阪をぶらぶらしてきたところ。
彼女のナビゲートで、画材屋さんに行ってきた。
ペンや絵の具やデザイン教本に至るまで、店内に存在するあらゆる商品について、しっかり熟知していた彼女。
その案内は、あまりにもパーフェクトすぎた。
彼女の説明を聞きながら店内をくまなく見て回る。どれも初めて目にするものばかりだ。
子どものころは絵を描くのが好きだったけれど、いまはまったく描かなくなったし趣味でもない。だけど彼女の話を聞いていると、どの商品も非常に魅力的に目に映って、「おもしろそう、やってみたいな」という気にさせられてしまう。不思議だ。
すごいなぁ。
感心することしきり。
本当に好きなんだなぁ。
ハンパない熱量が、ビンビン伝わってくる。
次に、彼女がよく行くという香水屋さんへと足を運んだ。
香水屋なんてこれまで行ったこともない。持ってもいないし、興味もないんだけど。
彼女はここでも、豊富な商品知識をフルに発揮して、香水初心者の私たちを完璧にナビゲートしてくれる。
そのお店では、多くのサンプルがずらりと並べられていて、それらを自由に嗅げるようになっていた。
香水に付けられた名前を見てなんとなく気になったものや、彼女が「これ、いい匂いですよー」と勧めてくれるものを、片っ端から嗅いでまわる。
「あ、これは甘い香りがする。バニラの匂いかな。けっこう好きかも」
「すごい、たしかに原材料にバニラって書いてあります。よくわかりましたね!」
「そうだね。子どものころにバニラエッセンスの匂いを嗅ぐのが好きだったからねぇ」
なんて会話を交わしながら。
私ってわりと鼻が効くんだな、という意外な発見もあったりして。
ちなみに、お鼻のリセットにはコーヒー豆の匂いを嗅ぐんだって。
店員さんが差し出してくれたコーヒー豆をくんくん嗅いで、再び香水を嗅ぎまくる私たち。
嗅ぐだけ嗅ぎまくって、購入はせずにお店を出た(ゴメンナサイ、だってお高いんだもん)。
ひとりだったらたぶん絶対に行ってないだろうし、きっと永遠に知り得ない世界だったに違いない。
めっちゃ楽しかったなぁ。
いい香りに包まれることで、リラックス効果も得られる。自分の好きな香りを見つけるのもいいな、と思った。
このお店には、疲れたときにでもまた寄りたいな。
マスクを付けたまま嗅ぎまくったせいで、家に帰ってマスクを取るまでずっと、鼻先にほのかな香りが漂っていた。
いろんな匂いが混ざっていて、いったい何の匂いなんだかよくわからなくなっていた。
もしかしたら、電車のなかで誰かに「クサい!」と思われてたかもしれないな。
迷惑かけてたとしたら、申し訳ない。
その日は3人で食事をしながら、各々の好きなものの話をして盛り上がった。
お絵描き、手芸、機織り、海上自衛隊の潜水艦の進水式。
この日はいっしょじゃなかったけど、他のメンバーの話もすごいんだよね。
爬虫類だったり、ハンドメイドだったり、読書だったり、旅行だったり。
そして、みんなキャラが濃い。濃すぎるんだよ。
話す内容もマニアックすぎて、たまらんのだよ。
普通だったらなかなか聞けない。そんな話ばかり。
聞くたびに「そんな世界があるんだ!」と驚きを禁じ得ない。
自分ひとりでは実現できない、貴重な体験をさせてくれる。
私が知らなかった世界をたくさん見せてくれる、彼らが大好きだ。
こんな表現が正しいのかどうかわからないけれど、定型さんとのコミュニケーションには絶対にないおもしろさが、そこにはある。
子どものように目をきらきらと輝かせて、自分の好きなものについて夢中で語る彼ら。
多くの人は、大人になるにつれて次第にその輝きを失くしてしまうものだ。
これだけの熱量で、ここまで必死に、「好きなモノ」を語れるオトナが、この世の中にどれくらいいるのだろう。
「好き」って、ものすごいパワーだ。
そしてそのパワーは、知らず知らずのうちに人を惹きつける。
すごいな。
かわいいな。
かっこいいな。
素敵だな。
本当に、好きなんだなぁ。
彼らを見ていると、それがひしひしと伝わってくるのだ。
みんなの「好き」を集めたら、きっと何かどデカいことをやってのけられる。そんな気さえする。
いろんな発達さんと接しているうちに、そういう人たちを応援したいなという気持ちが、私のなかに芽生えてきた。
ただただ応援したい。
損得なんて関係なく。
そんな純粋な気持ち。
もし、発達さんとのコミュニケーションに困るようなことがあれば、ぜひ「あなたは何が好きなの?」と声をかけてみてほしい。
好きなものについて話しだした途端、彼らはきらきら輝きだす。
ただし、途中で止めるのはちょっと難しいかもしれないから、中途半端な気持ちで聞かないように。ちゃんと相手に興味をもって、しっかり聞いてあげてね。
食事が終わった後もしばらく、好きなものの話で盛り上がっていた。
「すみません、私ばっかりしゃべって」
申し訳なさそうに、彼女がそう言う。
空気が読めないとか、相手に構わず一方的に話しまくったりだとか、なにかとコミュニケーションに難がある人が多いと言われる発達さん。
だけど、彼女のようにちゃんと気遣いができる人だってたくさんいるんだってことを、もっとみんなに知ってほしいと私は思う。
「いやいや、いいんだよ。聞いてるだけで楽しいから。もっと聞かせてほしいくらい。誰かが好きなものの話をしてるのを聞くのって、めっちゃ楽しいんだよね。本当に好きなんだなぁ、っていうのがビンビン伝わってきて」
私がそう返すと、「そうなんですね」と彼女。
そのうち、話の流れが私のターンになり、
「かなたさんの好きなことって何ですか?」
と訊かれた。
「うーん、そうだね。やっぱり書くことかな。あとは歌うこと。それから野球を観ること」
そう答えると、
「文章って、どうやって書いてるんですか?」
と尋ねられたので、私はこう答えた。
「そうだねぇ……、パズルみたいな感覚で書いてるかな。頭にぶわーっと浮かんできた言葉をだーっと書き留めて、それを組み立てながら前後を入れ替えたり、不要なパーツを削ぎ落としたり、逆に付け足したり、切り貼りしたりして繋ぎ合わせてる。朝起きたときとか、ぼーっとテレビを観てるときとか、お風呂に入ってるときとか、街をぶらぶらしてウインドウショッピングしてるときとかに言葉やアイデアが降ってくることが多いから、それを忘れないうちに書き留めて。特に本屋さんにいるときはめっちゃ湧いてくるから、湧いてきたらその場に立ち止まってばーっとスマホにメモって。エディタに向かってイチから『さぁ、書こうかな』って書き始めることもあるにはあるけど、私の場合はだいたいそんな感じかな」
私が言い終わるや否や、
「クリエイターですね!」
彼女の口から、そんな言葉が飛び出した。
「ゼロからモノを作り出すのがすごいです!! 私にはできないことなので」
とまで言ってくれた。
潜水艦マニアの彼からも、
「そんなふうに書いてるなんて思わなかったな。それは意外だったなぁ」
なんて言われた。
彼らにとっては、初めて耳にする話で新鮮だったようだ。
とても興味をもって私の話を聞いてくれているのがわかった。
「ほんまですね。たしかに、誰かが好きなものの話をしてるのを聞くのって楽しいです! 『本当に好きなんだなぁ』っていうのが、かなたさんの話を聞いててめっちゃ伝わってきました」
私にとっては「書くこと」があたりまえになりすぎていて、これが普通だと思っていた。
こんなに「すごい」と言われるなんて思わなかった。
「自分で『すごい』と思っていなくても、他人から見ると『すごい』ってなること、けっこうありますよね」
そうか。
私って、すごいのか。すごかったのか。
そして、気づいたことがある。
私にとって「書く」という行為は、「アート」そのものなのだ。
絵を描いたり、工作をしたり、音楽を作ったり奏でたりするのに、どことなく似ているような気がする。
これについては、ここで書くとまた長くなりそうなので、またの機会にしよう。
他のもの書きさんたちって、どうやって書いているんだろうな。
めちゃくちゃ気になるし興味あるわ。
よかったら、ぜひぜひコメント欄でお聞かせくださいな。
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