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《創曲》第2篇 『国土』

ああ、悲しきかな、この世にあって

悪は結託けったくし、その利害によって容易につながる

ときに真実は孤高ここうにして、数少なきものの胸中きょうちゅうにやどる

烏合うごうしき畜生ちくしょうの如きは、数にものをいわせ、自らが上であるかのようにまんじ、盲目にも、そのみにくき姿をかえりみる事がない

いかにかしこそうに人々をさとしてみせても、いやしい心根こころねを見通せば、どこかの物語にでも出て来そうな喜劇だ

しかし、人は往々おうおうにして多数に流れ、口をつぐむ

それ国土の世相にして、歴史の常であろうか

悪しきやからよ、その幼きころの純粋なる感情は、いつしか邪智じゃちにからめ取られ、とうの昔に汚泥おでいもれた

真っ直ぐまっすぐに伸びんとした心はいつしかすたれ、世をうまくかいくぐってきたつもりが、今はいびつなかたち

楽園に似せてつくった悪魔の領地でさまようはぢ知らずな奴隷

真の自由を知らず、真の知性を知らず、自らの手足に鎖とおもしとをつないで沈みゆく

その発する声は無明むみょうにして悲しき生命のうめき

哀れなるかな、しかし、その所業しょぎょうは、ときに見過ごすにはあまりある

あの増長ぞうちょうした連中は、腹を減らした野犬やけんのように執拗しつよう


ああ、かの偉大なる精神よ、あなたは

当世とうせにあって、何を思い、何を考え、その理想のために、自らの命をかけたのか

あなたの、その慈悲と智慧と勇気とは何を見つめていたのか

青年よ、かような時代にあって、せいを受けたる意味は甚深じんじんなり

われ賢人けんじんにあらざれども、わが所感の一端いったんを述べたり


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