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山道

朝、いつもの道を歩いて駐車場へと向かっているとき、車で込み合う道路のその中の1台から「ソイ!」「ソ~イ!」と僕を呼ぶ声がある。

僕は「お~!お~!」と言いながら彼女に手を振った。まるで何年も会っていなかったように、笑顔で!

でも、歩きながら思った、確か、数週間前にも会っていたような気がすると。

約束してないのに、バッタリと友達にであったりすると、どうして嬉しいのだろう?

この町に住んで、もう何年経ったのだろうか?

縁あって、この町で知り合った人たち。

それぞれにとてもユニークで、それぞれの役割をそれぞれのやり方でこなしながらみんな暮らしている。

山々に囲まれた小さな町。

四季の移り変わりを常に感じながら毎日山道を走る。

アップダウンの多い、くねくねした道が山の中の作業場へと続いている。

谷に沿ってつくられた道路。
それに沿って移動する私たち。

昨日から1日分だけ進んだ新しい季節の中を進む。

作業場は山の中にある。
水道がないので、沢水を引いている。

薪を燃やして、沢水を沸かす。
パスタもラーメンもコーヒーも緑茶もこの水でつくる。

山はたくさんの生き物を抱えている。
下草と湿った空気。
倒木から生えるキノコ、
足の長い蜘蛛、カタツムリ、
鳥の声を掻き消す、にぎやかなセミたち。

夏の山の水や空気の巡り。

山とそこに住む生き物の在り方をよくよく観察していると自分の身体が緩んでいることに気づく。

ふと、知らぬ間に癒しが起きている。

すべてここに基づいているだな~。
と感じる。

森の僕。
森の私たち。

森の町。
森の海。
森の地球。

私たちも自然の一部なら、
私たちが作り出すもの、
ペットボトルやスマートホン、
車や飛行機、美術館や原発も、
すべては自然の一部。

あらゆるものが森と関係なく在ることができないという意味で。

たとえ、森から遠く離れた場所に住んでいたとしても、君は森の君、この星の森の君。

山々に囲まれて静かに同じ作業を繰り返していると、そんなことを思いながら、つい、うとうとしてしまう。

「ソイ!」「ソ~イ!」と僕を呼ぶ人がいる。

その呼び掛けは湿った森の中心から
彼女の身体を通って僕へと届いた!
と表現してもそんなに間違ってはいないんじゃないかと。

森の中心から届いたそのメッセージの内容を日本語にするために何日もかけて、この文章を書いています。

何度も書いたり、消したりするこの作業、まるで粘土彫刻のようです。

「森の僕」

ヒラヒラと舞うその蝶の羽には
それぞれに「森」と「僕」の
紋様がある

蝶は木陰で休む君の
手の甲にとまり、
その羽をゆっくりと閉じた

「森」と「僕」の紋様は
ひとつに重なり
見えなくなりました

毎回、同じようなことばかり書いていてちょっとつまんないかな?ちょっとキモいかな?と思いつつも、落ち葉が少しずつ重なって、雨が降って、ミミズがいっぱい寄ってきて、ふかふかの土(文章)にいつかなるかもと、期待半分で時々書いています。

最後まで、お付き合い、ありがと様です!

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