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2020年を振り返るなら是非聴いてほしい私的オススメアルバム25選

世界的に見れば2020年は最悪の年という言葉が相応しいですが、こと音楽の新作に限っていうと、皮肉ともいえるほどに素晴らしい一年だったように思います。
私がこの手の年間ベストを選出する時には順位を付けることが多いのですが、2020年は順位をうまくまとめることができませんでした。そこで、気に入った25作品をアーティスト名の順番で列挙することにしました。
本業である仕事の合間に音楽を聴いている私は、当然ながらすべてを音楽を網羅的に聴けるわけでもなく、未だ耳にしていない優れた作品が数多く存在するはずです。だからこそ、あくまで私が2020年に触れた中で、という条件下での25選であることを前提に、ご覧になっていただければ幸いです。

The 1975 / Notes On A Conditional Form

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イギリス・マンチェスターを拠点とする4人組ロックバンドの4作目。UKチャートで1位、USチャートでも4位を記録。個性はさほどでもないが楽曲はよくできている優秀なDuran Duranらの系譜にあるUKポップバンドという印象だった彼らが、凡百のバンドとは一線を画すことを証明した前作『A Brief Inquiry into Online Relationships』の後継作品であり、全22曲、トータル81分に及ぶ大作である。「想像を超える飛躍的な進歩」といった類の驚きは前作ほど感じなかったものの、異なるアーティストの楽曲を1つのプレイリストに無造作に突っ込んだかのようなバラエティ豊かな作風でありながら、各曲の完成度は異常なほどに高く、一方で頭から通して聴きたくなる不思議な流れを生み出すことにも成功しており、「これはもはや天才の所業である」といった類の唸るような驚きは何度も湧き上がってきた。

The 1975が2010年代のロックシーンを代表する実力派の新鋭であったことは疑う余地もないが、2020年代においては彼らは、U2、Radioehad、Oasis、Coldplayらを肩を並べるモンスターバンドになるのだということを、私は本作によって改めて確信したわけである。

Adam Lambert / Velvet

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オーディション番組『アメリカンアイドル』出身であり、現在はQueenのフロントマンとしても活動しているアメリカ人シンガーの4作目。ディスコミュージックをポストEDM時代にアクティベーションさせたデュア・リパが成功し、永遠のダンス・クイーンであるカイリー・ミノーグが『Disco』というそのまんまなタイトルの作品をリリースした2020年は、もう何度目か分からないディスコ・リバイバルが再び到来している気がするのだが、"Roses"でChicのナイル・ロジャースと共演している本作もまた、ディスコ再評価の流れの中にいる作品と言えるだろう。ただしここにはディスコだけでなく、デヴィッド・ボウイのような煌びやかさ、マイケル・ジャクソンのような洗練されたファンキーさも同居しており、ディスコを含めたポップ/ファンク/ロックの50年間を総括するような作品と捉えた方がより正確かもしれない。

アダム・ランバートが非常に器用なヴォーカリストであることは以前から理解していたが、本作においても艶やかで力強いヴォーカルを駆使してこの作風と見事に融合しており、流石の名人芸である。もちろん楽曲も粒揃いでどれもとても魅力的だ。

The Avalanches / We Will Always Love You

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オーストラリア・メルボルン出身のエレクトリック・ダンス・ユニットのスタジオアルバム3作目。2000年にリリースされ、アルバムタイトル曲"Since I Left You"で話題をさらった1作目と2作目の間が16年あったことを考えると、4年ぶりのこの3作目は比較的早いペースのリリースと言える。Weezerのリバース・クオモ、The Smithsのジョニー・マー、The Clashのミック・ジョーンズ、Jane's Addictionのペリー・ファレル、Yeah Yeah YeahsのカレンO、MGMTといったロック好きにはたまらない豪華ゲストを多数招きながら、彼らがサウンドの主役にまったくなっていないところが、まず良い。

ダンスミュージックとは元来「踊ること」を最大の目的とするフィジカルな音楽であると思うが、本作から鳴る音の行間には文脈を深く洞察したくなるような知性が溢れており、その意味でロック的な文学性を帯びた作品である、という御託を並べることはできるのだが、知性の欠片もない薄っぺらい言い方をすれば、「おシャレでカッコいい」という言葉にすべて集約されてしまう、何度も聴きたくなる味わい深さと奥行きはあるが、一方で頭を空っぽにしてシンプルに楽しめてしまえる作品でもある。

beabadoobee / Fake It Flowers

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フィリピン出身・ロンドン在住の女性シンガーソングライターのデビュー作。40代以上のリスナーは本作を聴いて真っ先に「極めて90年代っぽい」と感じるだろう。具体的な名前を引き合いに出すなら、Nirvana + My Bloody Valentine + The Cardigansというのが、私の第一印象である。グランジ以降のメインストリーム化したオルタナティブロック、あるいはシューゲイザーからの影響を多分に受けたこの音像に晒されていると、これが2020年のリアルタイムミュージックであることを思わず忘れてしまいそうになる。

そんな本作の魅力は、その懐かしさを覚えるサウンドもさることながら、キャッチーで甘美な歌のメロディに負うところも大きい。インターネットが普及し情報が等しく行き渡るようになった現在、国籍と音楽性の相関は極めて小さくなっていると考えるべきだが、本作の愁いを帯びた親しみやすいメロディのセンスは、アジア人の文化圏を出自とすることも影響しているのかも、と短絡的に想像してしまった。このような妄想を抱くくらいに、私の音楽的感性に自然と侵入してきた作品だ。

Bruno Major / To Let A Good Thing Die

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サム・スミス、ビリー・アイリッシュ、BTSらが絶賛するイギリス・ロンドン在住シンガーソングライターの2作目。世界中がコロナ禍に見舞われた2020年は、静謐で美しい音が好まれた一年でもあったように思うが、本作はまさにそういった類の作品だ。アコースティックギターを中心としてはいるが、ベースとなっているのは近年人気を博しているフォークではなく、ミニマルなソウルミュージックであり、その印象は都会的で洗練されている。

シンプルなギターと美しいヴォーカルだけで構成された楽曲は、奇を衒ったような押しつけがましさとは対極である。作曲家として、あるいはギタリスト、ヴォーカリストとしての能力が極めて高いことは容易に聴いて取れるが、そのことを特段にひけらかすこともなく、甘いヴォーカルと甘美なメロディによってただただ聴き手を癒すことに全霊を捧げているかのよう。個人的に湧き上がるイメージとしては、夏でも春でも秋でもなく冬。雪の降る静かな夜に、暖炉にあたり、読書でもしながら聴くことができれば、私はおそらくかなりの多幸感に包まれることだろう。

BTS / BE

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世界を席巻する韓国出身アイドルグループの全米No.1を記録したアルバム。いきなり否定から入るなと若い頃に上司に教わったが、ここでその鉄則を破ろう。まず私はアイドル音楽がそもそも好きではない。現代のアイドル音楽は音楽的に非常にクオリティが高いことは理解しているが、成功法則をパッチワークしたような破綻の無さや作家性の欠如というスタイルが好きでないというより、「未熟な若者声の多重コーラス」「ヴォーカルが入れ代わり立ち代わりする」といったアイドル音楽の表面的な音楽的特性自体があまり好きではない。

BTSがアイドルの域を超えて世界中で流行っていることは随分前から知っていたが、社内の若者から薦められても「ふーん」と受け流すだけだった。その固定観念を大きく覆されたのが、全米No.1を記録した2018年の『Love Yourself:Tear』。私も所詮凡人、売れて初めてその魅力を感じ取ることができたわけである。そこから数えて3作目となる本作からは、世界基準の作品作りに対する小慣れた余裕、自信、あるいは風格さえ感じる。韓国語が使われていることを除けば地域性は皆無に近く、全地球人をターゲットにした超高機能グローバルポップアルバムである。大ヒット曲"Dynamite"が特別に感じない充実ぶりを含めて、かつて聞く耳を持たなかった自分の偏狭さを改めて痛感させられる一枚である。

Dua Lipa / Future Nostalsia

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2020年にアメリカ市場で飛躍的な成果を上げ、2021年に開催される第63回グラミー賞に6部門でノミネートされているイギリス・ロンドン出身の女性シンガーの2作目。"Don' Start Now"が大ヒットした影響もあって、デュア・リパ=新世代ディスコ・クイーンというイメージを持っていたが、本作を改めて通して聴いてみると、70年代のクラシック・ディスコ直系というより、80年代によく見られた、ディスコとシンセポップとロックが溶け合った音楽を、ポストEDM時代のゴージャスでアタック感が強いサウンドでコーティングしたような印象を受けた。特に本作からのセカンドシングルとなった"Physical"のメロディラインなどは非常に80年代的・MTVミュージック的であり、私の世代には耳馴染みよく聴こえることだろう。

デュア・リパのヴォーカルは悪く言えばあまり個性はないのだが、ピンク、クリスティーナ・アギレラ、レディ・ガガ、シーアらの流れにある女性ポップシンガーの正統といえる声でもあり、本作の質の高い楽曲群の魅力を150%にまで引き出しているように思う。とにかく聴いていて力が漲ってくる痛快なポップアルバムである。

Hayley Williams / Petals For Armor

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紅一点のエモバンドParamoreのヴォーカリストとして有名なヘイリー・ウィリアムスのソロデビュー作。音楽性の変遷はあれど基本的にその時代におけるポップの正道を歩むParamore、あるいはZeddやB.o.Bと共演したヘイリーの課外活動のイメージに囚われていると、このダークでシリアスなアートロック志向には意表を突かれることだろう。本作の影響源としてRadioheadやビョークがあげられている通り、そしてインディーロック界のスーパーバンドともいえるBoygenius(ジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダカス、フィービー・ブリジャーズ)が参加した曲が収録されていることからも分かる通り、一筋縄ではいかない複雑さを内包するダークな色調のインディーロックである。英語が分からない私は歌詞を詳しく読み取ることはできないが、ヘイリーのパーソナルな苦悩が歌われているということは、そのサウンドからよく伝わってくる。

本作の制作にはParamoreのメンバーも深く関わっているそうで、Paramoreではできなかった音楽を実現したいという表現者としての野心もあったのだろう。初期のエモパンク路線から『Paramore』『After Laughter』への鮮やかな転身ぶりにも驚かされたが、本作における変化はその上を行くものであり、チームParamoreの芸達者ぶりが際立っている。

Helena Deland / Someone New

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カナダ・モントリオールを拠点とする女性シンガーソングライターのデビュー作品。Snail Mail、ジュリアン・ベイカー、コートニー・バーネット、フィービー・ブリジャーズ、Succer Mommy、あるいは先ほどのbeabadoobeeと、近年登場するインディーロック系女性シンガーソングライターといえば90年代USオルタナ・テイストを纏うことが定番のようになっているが、本作もその例外ではない。ノイジーなギターとうねるベースが作り出すほの暗さがサウンド面での大きな特徴であり、闇の中から浮き上がる儚いロリータボイスには、美しさ以上に狂気性を感じる。音楽的方向性こそ違えど、この捻じれた美意識によって描かれた陰鬱な世界観は、初期múmを彷彿とさせなくもない。

サウンドは乾いていながらも甘美なメロディには潤いがあり、単調になりすぎない程度に演奏や表現の幅にも幅があるなど、ソングライティングは冴え渡っている。その毒性故に周囲を荒野にする美しく可憐な花の狂気をほくそ笑みながら愛でられる人にはうってつけの作品であろう。と、意味不明な例えであることは承知の上で、あえて言いたくなった。

Honne / no song without you

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イギリス・ロンドン出身のエレクトロ・ポップ・デュオの2作目。私が好きなタイプの音楽に「邦楽のような洋楽」があるのだが、その言葉がピタリと当てはまる音楽であり、特にシティポップを想起せずにはいられない。メロディの質感などから、スティービー・ワンダー、ビリー・ジョエル、ボビー・コールドウェルと言った70年代から80年代のソウル/ポップアーティストからの影響を感じ取ることができるが、ユニット名を日本語の「本音」に、レーベル名を日本語の「建前」にした彼らが、日本の往年のポップミュージックに多大な影響を受けている、などという説明をしても、まったく不思議には思わないだろう。

大雑把なジャンルでいえばエレクトロ・ポップになるが、EDM/トロピカルハウス以降のリアルタイム感は希薄で、ノルタルジックでハートウォーミングな昔懐かしのシンセポップという印象が強い。とにかく曲が良く、いつ何時聞いても癒される普遍性が備わっている。"Day 1"や”Me & You”を収録した前作もエレクトロポップの名盤と個人的には思っているが、その期待を裏切らない仕上がりであり、HONNEというアーティストに対する私の信頼はうなぎ上りである。

James Blake / Covers

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イギリス・ロンドン出身のシンガーソングライターがリリースしたカバーEP。実は、ジェイムス・ブレイクの作品と言えばオリジナルアルバム以上に2011年にリリースされたカバーEP『Enough Thunder』が好きだったりするのだが、そんな私の期待に応えるような作品である。ビリー・アイリッシュ、フランク・オーシャン、ビヨンセから、Joy Division、スティーヴィー・ワンダーと、ジャンルも時代もバラバラながらも、陰のある伸びやかなヴォーカルとピアノを中心としたシンプルなアレンジで統一されており、一貫した世界観を感じさせる。

アルバムではヴォーカルに強いエフェクトをかけた分裂症気味のトリッキーなアレンジをすることも多いが、ジェイムス・ブレイクの個性的な歌声はシンプルなアレンジでこそ活きるような気もして、こういったカバーEPは時々リリースしていってほしいものである。ちなみに次回作はアンビエント作品をリリースするとのこと。

Joji / Nector

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実力派のアジア系アーティストをアメリカ市場に送り出している注目レーベル88risingの看板アーティストでもある、Joji名義としては2作目。前作『Ballad 1』はUSチャートで3位を記録し、アジア出身アーティストとして初めてR&B/ヒップ・ホップ・アルバムチャートの1位を獲得したが、そこからさらなる洗練を見せる作品である。本名はジョージ・楠木・ミラー、神戸出身で日本人とオーストラリア人とのハーフであることから、日本のメディアからの注目度も高いアーティストであるが、この完璧にグローバルスタンダードなモダン・ソウル・ミュージックを聴けば、もはや日本云々の文脈で語る必要は全くないと、誰もが納得するだろう。

音楽性としてはジェイムス・ブレイク以降に広まったポストダブステップ、あるいはオルタナティブR&Bの一派に属し、全体的には生音感が少なくデジタル的なテイストを強く感じさせる音ではあるものの、ジェイムス・ブレイクのようにデジタルを駆使して編集したようなクセはあまりなく、メランコリックで素直なメロディを、透明感のあるヴォーカルと都会的なアレンジの中でじっくり味わうことができる。

Jónsi / Shiver

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アイスランドを代表する世界的ロックバンド、Sigur Rósのフロントマンであるヨンシーのソロ2作目。Sigur Rósに全盛期のような活動が期待できないからこそ、ソロアルバムにはその穴を埋める期待をしてしまうのだが、その十分な回答となった素晴らしいアルバム。2010年の前作『Go』は、Sigur Rósでは見られないカラフルさを感じさせるドリーミーな作品であり、その後2013年にリリースされたSigur Rósのアルバム『Kveikur』はバンド史上最も狂暴なアレンジが施されたヘヴィな作品だった。

そしてこの本作は、まさに『Go』と『Kveikur』の延長線上で交錯した地点にあるような作品ではないかと思う。"Exhale"や"Shiver"のような、美しいメロディの周囲を、電子的に加工した音の断片で複雑にコラージュしたような楽曲を中心としながら、"Cannicbal"、"Beautiful Boy"のようなSigur Rósとして使えそうな曲、EDMをヨンシー流にアレンジしたような"Salt Licorice"のような大衆性に寄り添ったような曲、といったように、前作同様、コンポーザーとしてのヨンシーの幅と可能性を感じさせるアルバムである。11月にリリースされたSigur Rós久しぶりの新作がよく分からない作品だったことから、もうこうなったらヨンシーに精力的に活動してもらうしかないと、Sigur Rósファンとしては願うばかりである。

The Killers / Imploding The Mirage

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アメリカ・ラスベガス出身のロックバンドの六作目。彼らのようにデビュー作でロック史に残る金字塔的作品を生み出してしまうと、以降の全ての作品がデビュー作を基準にして語られてしまうのは、成功者のジレンマといえるものだろう。作り手である当の本人たちにその気はなくとも、周囲はそういう見方と語り方をしてしまう。私もその例外ではないが、そんな私ですら、本作はデビュー作の成功体験の呪縛から解き放たれた快作であると感じ取ることができた。

ニューウェーブ/ポストパンクの影響が色濃く、イギリス先行で人気が出たことからも、「アメリカ出身なのにイギリスっぽいバンド」というのがデビュー当時の彼らのイメージだったが、いつの頃からか徐々にアメリカ的なイメージが強くなり、本作においてはついに、滅びつつあるアメリカンロックの正統な後継者であり、守護神であるような佇まいを見せている。特にその背中にハッキリと見えてくるのが、フロントマンの部ランドン・フラワーが大きな影響源としても公言している往年のボス、ブルース・スプリングスティーンである。そんな先入観を持って聴くと、"My Own Soul's Warning"や"Dying Breed"といったアップテンポなナンバーは、もはやThe Killers版"Born To Run"にしか聞こえない。しかしこの何かから解き放たれたような思い切った方向性の絞り込み方も含めて、とにかく本作を聴いていると、嵐の前のようなカバーアートとは裏腹に、少し熱気を帯びた心地よい風が吹いてくるわけである。

Matt Berninger / Serpentine Prison

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今やインディーロック界の盟主の座を獲得したといっていい、アメリカ・ブルックリンを拠点に活動するThe Nationalの唯一無二のフロントマン、マット・バーニンガーのデビューソロ作。新作アルバムを発表しなかったThe Nationalの2020年最大のニュースと言えば、サウンド面での指揮官であるアーロン・デスナーがテイラー・スウィフトの新作の大多数の楽曲プロデュースしたことかもしれないが、同じくらいに重要なイベントが、The Nationalの重要な個性を握っているマットのこのソロアルバムのリリースだろう。彼の魅力は何といっても中低域を活かした渋いバリトン・ヴォイス。その素材の良さを最大限引き出すような、ピアノとアコースティックギターに中心としたシンプルなアレンジでまとめられている。

精密機械のように緻密に作りこまれたThe Nationalと比べると、素朴で地味で抑揚のない作風に思えるが、近年はジュリアン・ベイカー、コートニー・バーネット、フィービー・ブリジャーズといったインディーロック/フォークの新鋭たちとコラボレーションしている彼だけに、これはこれで近年のトレンドをうまく掴んだ作品であるようにも思える。とはいえ、The Nationalの音楽性と大きく乖離しているかというとそういうわけでもなく、The Nationalのファンならば、特にThe Nationalの魅力の多くをマットのヴォーカルに感じている者であれば(私)、十分に楽しめる、というよりはほっと癒される作品だろう。

Miley Cyrus / Plastic Hearts

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アメリカ・テネシー州出身の世界的人気のポップ・シンガーによる7作目。2010年代と言えば、少なくともアメリカのメインストリームに関してはロックが完全に死んだ10年といって差し支えないと思うが、私自身の関心事は、ではいつどのようにしてロックは再生するのか(あるいは完全に滅びるのか)、という点にある。それはBring Me The Horizonのようにハードコアの文脈を持った、ヘヴィロックとダンスをうまく融合したアーティストが担うのだろうか、あるいは1年ぶりにロックアルバムとしてUSチャートNo.1を奪取したマシン・ガン・ケリーの新作のようなポップパンクがリバイバルするのだろうか、などと考えていたところに、本作のタイトルトラックの"WTF Do I Know"を聴き、別の可能性を想像した。クランチーなリフとヒロイックなメロディ、ギュンギュン鳴り響くギターソロをフィーチャーしたこの楽曲を一聴して、「これは80年代のハードロックのリバイバルである」と即座に連想したが、このような音楽性を片田舎のおじさんバンドではなくテイラー・スウィフトやケイティ・ペリーなどと並ぶポップ・アイコンの中堅層が選択していることにまず驚く。ビリー・アイドルやジェーン・ジェットが客演し、ボーナストラックではBlondieの79年のヒット曲"Heart Of Glass"のカバーを披露していることからも、本作のテーマが「80年代アリーナロックの復権」というのは明らかであろう。

保守的な音楽性を選択する傾向にある日本のメインストリームのポップアクトと異なって、アメリカのポップアクトは音楽トレンドに対して機を見るに敏なところがあり、彼ら/彼女らが選択する音楽から、半歩先のシーンを予見できることがよくあるのだが、USチャートで第2位を記録した本作が今後10年におけるロックの復活に繋がってくれれば、という淡い期待を抱いたりもする。と、マーケティング的な話で字数を浪費してしまったが、内容自体が優れていることは言うまでもない。往年のリバイバルを志向しているとはいえ、そのサウンドテクスチャーはあくまで現代的なものであり、EDM/ヒップホップが通過した今の世代の耳にも決して古臭くは感じないだろう。その絶妙なバランス感覚も含めて、この作品は素晴らしい。

Mura Masa / R.Y.C

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イギリス・ガーンジー出身のDJ/プロデューサーによる2作目。デーモン・アルバーンやエイサップ・ロッキーが客演し、新人らしからぬクオリティで一躍彼の名を知らしめた2017年のデビュー作も悪くはなかったが、本作の方がより私好みな作品に仕上がっている。というのも、ギターが頻繁に使われており、全体的な音作りがロックっぽいためである。インタビューなどを読めば、彼のルーツであるロックの影響をより強く押し出したいという創作欲求もありつつ、2010年代中盤以降急速に失われていったギターサウンドが復活の兆しを見せているから、というマーケティング的感性からの判断も、この音楽性を選択した理由のようである。そういった計算の結果、彼が元々持っていたメロウなセンスと、同時代的なエレクトリックなサウンド、そして大々的に導入されたギターによって、今の時代に懐かしくも新しいポップアルバムができあがった。

アメリカのシンガーソングライターClairoと共演した”I Don’t Think I Can Do This Again”、エレクトロ・ポップの新鋭Georgiaが参加した"Live Like We're Dancing"、Wolf Aliceのエリー・ローゼルをフューチャーした”Teenage Headache Dreams”など、彼の紡ぎだす麗しく煌びやかで抒情的なメロディは、特に女性ヴォーカルによってその魅力が最大限に引き出されるようにも思える。その新しくも、どこか懐かしさを感じるメロディに、メロディ愛好家としては心奪われてしまうわけである。

Nothing / The Great Dismal

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アメリカ・フィラデルフィアのオルタナティブロックバンドによる4作目。そのサウンドを端的に表現すればシューゲイザーではあるのだが、全体を覆う不穏さの総量が尋常ではなく、ノイズの蜃気楼の奥からザラリとした攻撃性と血生臭さを感じさせるのが彼らの魅力でもある。暗黒シューゲイザーと言えば近年はブラックメタル方面からアプローチしたブラックゲイズの方が一般的な表現であるようにも思うが、彼らのサウンドにはブラックメタル的な側面は乏しく、むしろハードコアパンクからの影響を色濃く感じるものである。創設者であるドメニック・ニッキー・パレルモはConvergeと人脈的繋がりもあり、殺人未遂で服役する前に結成していたのがハードコアバンドということから、音楽的にも、精神的にも、彼のパーソナリティがこのサウンドに影響しているのは間違いないだろう。

このように情報を重ね合わせていくと激烈な印象を持ちそうではあるが、楽曲自体は案外と聴きやすいものであり、My Blood Valentineがそうであったように、孤高かつ超然とした雰囲気を醸し出しながらも、オルタナを好むリスナーであれば受け入れ可能な音楽的歩み寄りがなされている。音楽にある程度の暗黒性を求めながらも、激烈すぎる音楽だとどうも胃もたれしてしまう私には、丁度いい塩梅で丁度いい暗黒趣味を楽しませてくれる丁度いい作品である。

Nothing But Thieves / Moral Panic

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イギリス・エセックスのロックバンドによる3作目。2010年代中盤以降のアメリカのマーケットは、ダンスに接近しなければほぼ攻略不可能な市場特性に変容していったが、一方でイギリスからはCatfish and the BottlemenやRoyal Bloodなどの活きのいい若手が出現し、2018年以降も、The Amazons、Inhaler、Circra Waves、The Night Caféなど、伝統的なギターロックバンドの新規参入が途切れることなく続いている。

そんな中、Nothing But Thievesは、ギターロックが未だ活力を失わない2010年代中盤のイギリスに登場し、当たり前のようにUKチャートのTOP3入りを続けている新世代を牽引する存在のバンドである。彼らのサウンドを表現するのにもっともよく引き合いに出されるのが、Museだろう。イギリスらしい耽美的なナルシズムとラウドなギターロックを掛け算した初期の音楽性から離れていったMuseに対して、Nothing But Thieves は初期Museが発明したフォーマットを現代に継承し、進化と洗練を続けている。さすがに3作目にして、例えば、エレクトリックなアレンジが印象的なオープニング"Unperson"、ダンスとロックが美しいバランスで拮抗しているタイトルトラック"Moral Panic"に見られるような、ダンスの要素を取り込んだ音楽的拡散が随所に、これまで以上に強く発現してはいるものの、4枚目以降のMuseほど大胆にギターロックを置き去りにすることはなく、基本的な枠組みには未だ留まっているあたりに、彼らの生真面目さが表れている。

正直なところ、彼らの音楽性はかなり好みである反面、その生真面目さやそつのなさにある種の物足りなさを感じていたことも事実であり、その印象は本作でも完全には拭えてはいない。しかしながらこうして2020年を振り返るために改めて聞き直してみるに、どう考えても過去最高と言えるほどにクオリティは高く、生真面目でそつがなくて何が悪いのか、新奇性というものを過剰に評価するのは音楽リスナーの悪習ではないか、などという反発心すら湧き上がり、最終的にこの選出に至る。というといささか後ろ向きな物言いになってしまうが、一切の迷いなく良いアルバムであると断言できる。

Phoebe Bridgers / Punisher

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アメリカ・カリフォルニアの女性シンガーソングライターの2作目。恋人でもあったライアン・アダムスの支援もあってインディーロックの新星として2017年に華々しくデビューしたフィービー・ブリジャーズは、その後The NationalやBright Eyesのメンバーと共演し、同じくインディーロックシーンで評価の高いジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダカスとBoygeniusを結成して注目を集めるなど、アルバム一枚のインディーロックアーティストとしては十分過ぎるほどの輝かしいキャリアを築いてきた。そしてそのキャリアは、2021年に開催される第63回グラミー賞に4部門でノミネートされた本作によって、さらに高みに上ろうとしている。

自らエモフォークと銘打つ本作は、鬱病、自己破壊行為、死、憎悪、など扱ってるテーマは重苦しく暗いが、その重苦しさを浄化するかのごとく、瑞々しく繊細なメロディで歌われているのが、これだけの幅広い人気を得るに至った最大の理由だろう。全体を単一のトーンでまとめながら、単調さを回避するようにどの楽曲もよく練り込まれてて素晴らしいが、特に鮮烈な印象を私に残したのが終曲"I Know the End"である。壮大なコーラスから「メタルのように叫びたかった」との言葉通りに絶叫で終わる屈指の名曲は、聴くものの聴覚を通して脳の中心部から全身を焼き尽くすような刺激に満ちている。2020年のベストトラックの一つ。

Sufjan Stevens / The Ascension

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アメリカ・インディーロックシーンの鬼才として知られるアメリカ・ミシガン州出身のシンガーソングライターによる8作目。ギター、ベース、ドラム、ピアノのみならず、オーボエ、リコーダー、バンジョー、ヴィブラフォンなど数多くの楽器に精通したマルチプレイヤーであり、緻密に作りこまれた編曲、展開、歌詞が特徴である。彼の作品は毎回音楽性が大きく変わることでも有名であるが、大雑把には、アコースティックを中心としたシンプルな楽器で構成されたフォーク路線と、デジタルを使って音の断片を複雑に構成する電子音楽路線に大別できるのではないかと思う。そして本作は後者の電子音楽路線だ。

電子音楽といっても、不規則な音の断片を不条理に積み重ねた『The Age of Adz』のような作風ではなく、むしろThe Nationalのブライス・デスナーらと共作した2017年の『Planetarium』に近い。印象的なメロディを持つ"Video Game"のように、近未来的な空間表現とどこか懐かしさを感じる温かい音作りは往年のニューエイジにも近く、10年代のニューエイジ・リバイバルの流れを汲んだ作品のようにも思える。2020年の大統領選挙における激戦区の一つであるミシガン州で育ったクリスチャンであり、エンターテイナーというより愛や精神世界を表現する作家性の高い詩人という性質が強いスフィアン・スティーブンスが、コロナ禍やBlack Lives Matterの問題が沸き起こった2020年にリリースした、12分を超える"America"というタイトルの大作をアルバムのクロージングとして配置した作品において、幾重にも深い層になった彼の思考や想いが反映されていないと考える方が不自然であろう。

しかしながら彼の作品の素晴らしさは、評論家のような分析眼や洞察力を聴き手に強いるわけではなく、聴覚だけでも十分に楽しめる、耳を捉えるシンプルで素朴なメロディが、常に中核に据えられている。だから英語や本作の背景を完全には理解しえない私でさえ、この作品が纏う名作のオーラを感じ取ることができるわけである。ちなみに、2020年のベストアルバムは作品に順位を付けるのが難しく、止むを得ず25枚を列挙する形にしたが、その中から一枚を選べと言われたら、私は高確率で本作をあげると思う。

Taylor Swift / Folklore

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世界的な新型コロナウイルスの大流行によって、テイラー・スウィフトが計画していたツアーも悉くキャンセルとなったが、逆境を逆手に取り、リモートワークを駆使して突如制作したのが、この8枚目である。前々作にあたる2017年リリースの『Reputation』が、2014年の大ヒット作『1989』ほどのセールスに至らなかったことで、私は「テイラー・スウィフトはやがてカントリーに回帰するだろう」と予想した。2019年の『Lover』の中でギターサウンドが復活していることを確認し、カントリーへの復帰は思いのほか早く、もしかしたら次作で達成されるかもしれない、とも考えた。その予想は、2割は当たり8割は外れたといったところか。当たった2割とは、続く本作『Folklore』がギターオリエンテッドな作品であったこと。外れた8割とは、カントリーではなくインディーロック色の強いフォークであったこと。

本作の共同プロデューサーにはThe Nationalのアーロン・デスナーが名を連ねている。テイラーがThe Nationalにご執心だったことは、テイラーが好んで聴いている楽曲をまとめたSpotifyプレイリスト「Songs Taylor Loves」からもうかがえたが、自信満々にエレクトリック・ポップの王道を行くテイラーが、ポップミュージックとしては暗く内省的すぎるThe Nationalのメンバーとコラボレーションするとは予想だにしなかった。そんな予想外の作品をいざ聴いてみれば、テイラーの優れたポップセンスとアーロンのディテールまで丁寧に作り込む曲作りの才が見事な調和を見せた、『Fearless』『Red』『1989』に匹敵する、キャリアを代表する名作に仕上がっている。

テイラー・スウィフトは、アメリカのポップアクトの中でもかなり保守的である。"exile"でBon IverでBon Iver=ジャスティン・ヴァーノンを召喚しているが、既に数々のアーティストとのコラボレーション歴がある彼を引っ張り出すのは、宿敵カニエ・ウエストが2010年時点で行っていた手垢がついたアイデアでもある。あるいはインディーロック系の女性シンガーソングライターがフォーク的なサウンドを聴かせるというのも、2010年代後半以降の大きなうねりであり、音楽的な目新しさはない。しかしながら、常に保守的な打ち手を選択してきたテイラーに、斬新で思い切りがいいブランドイメージが備わっているのは、世間や市場の空気を感じ取る能力が異常に優れているからであろう。エレクトリックな音楽性からシンプルでアコースティックな作風に大胆に変化した卑近な例でいえば、レディ・ガガの2016年の作品『Joanne』がある。あるいはリアーナの2016年の『Anti』も、アコースティックではないが、それまでのエレクトリックな作風からシンプルで静かな作風に大胆に方向転換した作品である。これらの作品はそれなりには売れたが、過去作を凌駕するほどの商業的成績や話題を残したわけではない。一方で『Folklore』はV字ともいえるほどに大きな成果を上げている。その違いは作品の優劣ではなく、まさに時代を読む嗅覚の的確さにおいてだろう。

アメリカのポップアクトのほとんどには、市場を読むマーケター的能力が非凡なまでに備わっているだろうし、引き合いに出したレディ・ガガやリアーナも凡百のアーティストと比べれば、天才的と言えるくらいにそうであると思うが、しかしテイラー・スウィフトは次元が異なっているように思える。コロナでツアーがキャンセルになり、世界的に沈み込んだムードが蔓延する中、過去作と大きく異なる『Folklore』のような作品をすぐさま制作し、さらには2020年秋には続編的な新作である『Evermore』をリリースするなど、その市場を読む力とスピード感は、もはやアーティストというよりスタートアップ企業の敏腕経営者に近い。そんな彼女だからこそ、アーティストとしてはいささか保守的であるにも関わらず、大きなゲームチェンジが起こった混沌の2020年を逆手にとって、USチャートで8週間のNo.1を記録して2020年最大のヒット作を作り出し、第63回グラミー賞においては5部門にノミネートされるという大きな結果を残したのだろう。

なお、「保守的」というのは、より多くの人が好む可能性があるということで、アーティストとしては実は武器にもなりえるものだと思う。テイラーの楽曲には、キャリアを通じて以下に音楽性が変遷しようとも、80年代以前のアメリカンポップスから連なる普遍的な分かりやすさと様式美のようなものを感じるが、これもまたテイラー・スウィフトの市場戦略を容易にしている一つの要因になっているのではないかと思う。

Washed Out / Purple Neon

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アメリカ・アトランタを拠点に活動するアーネスト・グリーンのプロジェクトによる4作目。アルバムのアートワークが指し示すように、幻想的かつ現実逃避的な夢見心地気分を味わえる心地よい作品。2009年にデビューしたWashed Outは、当時勃興していたチルウェーブという音楽ジャンルの中心的存在として注目を浴びたアーティストであり、デビュー当時の古巣であるSubPopからのリリースとなる本作は、音楽的にも原点回帰作である。というのが公式に近い筋の説明ではあるが、実のところ私は、2009年のデビュー作『Within and Without』について、ベッドで男女が抱き合うセクシーなアートワーク以外の記憶があまりなく、その後のWashed Outを追いかけることもしていなかったため、改めてデビュー作と聴き比べてみた。

深いエフェクトがかかった蜃気楼のようなサウンドスケープは確かにかつてのチルウェイブのそれであるが、当時と明らかに違うのが、この『Purple Noon』が明確に歌モノであるという点である。彼が影響を受けたソウルやR&Bの美旋律を意図的に強調していることは、本人のインタビューの中でも明言されている。このようなポップ要素の増量によって、デビューから9年を経て、Washed Outというアーティストを再認識する切っ掛けになったわけである。それはともかく、これは南国の浜辺でハンモックにでも寝そべりながら聴きたい音楽であり、実際に聴いていると、脳内にエーゲ海が拡がってくるような、まさに夢の世界に現実逃避できるという意味で、究極のドリームポップアルバムと呼んでもいいのではないだろうか。

The Weeknd / After Hours

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カナダ・スカーバロー出身のR&Bシンガーの4枚目。デビュー作でUSチャートの2位、その後の3作は全て1位を獲得、本作も1か月間チャート首位を独走。このような圧倒的な成功を収めたThe Weekndであれば、グラミー賞のような権威性などに固執せず一笑に帰すものかと思いきや、第63回グラミー賞にノミネートされていないことに対して怒りのツイートをしたのは少々意外だった。事実、大ヒット曲"Blinding Light"や"In Your Eyes"を含む本作はThe Weekndの過去最高傑作と言ってよく、確かにこれだけのクオリティと商業的実績を兼ね備えた作品がスルーされてしてしまうグラミー賞の選定基準には強い疑問が残る。

それはさておき、オルタナティブR&Bの先駆者たるThe Weekndの作品はどれも素晴らしく、この手のジャンルに明るくない私でさえ毎回チェックしたくなるものであり、それは過去の路線の集大成感がある本作も例外ではない。トレンドから離れすぎず近付きすぎずの距離感で、アートワークに象徴されるダークな魅力を維持したまま、懐かしくもあり、でも古臭くもなく、ブラックミュージックではなくあくまでポップであり続ける作風はさらに磨きがかかっているように思う。マックス・マーティンと共作した新時代ディスコ"Blinding Light"がTikTokでバイラル・ヒットしたことも、本作のポップにおける立ち位置を雄弁に物語っている。この作品が正統に評価され、グラミー以外の賞を総なめにすることでグラミーの権威性との対立構造がより際立ってくると、野次馬としてさらに面白い展開になってくるのだが。

Yumi Zouma / Truth or Consequences

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ニュージーランド・クライストチャーチを拠点に活動するポップバンドの3作目。Yumi Zoumaを初めて聞いた時、メロディが瑞々しくロマンティック、サウンドは繊細で透明感があり、シンプルな楽曲は極めてキャッチーであることから、私は真っ先に北欧のアーティスト、The CardigansやCloudberry Jam、あるいはKing Of Convenienceなどを連想し、これは絶対に北欧出身だろうと予想してネットで検索したところ、南半球、しかもニュージーランド出身と知って、自分の直感の当てにならなさに軽くショックを受けたのを覚えている。その印象は今作でも大きく変わることはなく、誤解を恐れずに言えば、とてもよくできたカフェミュージックである。

私は仕事中に聴く音楽、リビングでリラックスしてる時に聴く音楽、そしれ外出時に聴く音楽で、それぞれ好みが微妙に異なるのだが、クセを一切持たない本作に関して言えば、いつどの状況で聴いても心の溝にピタリとフィットする。一方で、BGMにしか使えないような安っぽく軽薄な印象もなく、しっかりと向き合えば、それに見合った感動が得られる。椅子でいえばイームズチェア、刺身でいえば鯛のようなポップアルバム、といえるかもしれない。こういった作品としてのオールマイティな機能美に私はまんまとハマった。どうも落ち着かないムードが世間に充満していた2020年前半、私自身はそれほど精神が疲弊している自覚がなかったにも関わらずに本作を頻繁に聴いてしまったのは、何も考えずに身を委ねられる心地よい癒しを無意識に求めていたのかもしれない。

その他

最後に、25選には含まれませんでしたが、「この作品割と良かったなぁ」と思えたものを列挙しておきます。

・Adrianne Lenker / Songs
・Alextbh / The Chase
・All Time Low / Wake Up, Sunshine
・Aquilo / Sober EP
・Ásgeir / Bury The Moon
・Asking Alexandria / Like A House On Fire
・Blossoms / Foolish Loving Spaces
・Bring Me The Horizon / Post Human: Survival Horror
・Easy Life / Junk Food
・Georgia / Seeking Thrills
・Grimes / Miss Anthropocene
・Grouplove / Healer
・HAIM / Women In Music Pt. III
・Halsey / Manic
・Julianna Barwick / Healing Is A Miracle
・Kylie Minogue / DISCO
・Machine Gun Kelly / Tickets to My Downfall
・Moses Sumney / Græ
・Ólafur Arnalds / some kind of peace
・Purity Ring / WOMB
・Silverstein / A Beautiful Place To Drown
・Soccer Mommy / color theory
・The Strokes / The New Abnormal
・Tame Impala / The Slow Rush
・Taylor Swift / evermore
・Travis / 10 Songs

まだ聴けてない作品がたくさんあるので、色々な人がまとめてくれている2020年ベストアルバムをチェックしながら、2020年の音楽をさらに掘っていこうと思います。

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