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JRA顕彰馬の考察~自動的に選定すべき5つの新基準を提案してみる

JRA顕彰馬を選定する今年度の記者投票の結果が6月6日に発表になったのですが、やはりというか、今年も禍根を残してしまった感がありますね。

去年は「選定対象になっているのを把握していなかった記者がかなりいた」という驚く(呆れる)べき理由によって選に漏れたアーモンドアイが、今年こそ満票に近い数字で選出されたのは素直によかったと思います。その一方で、「父子2代での無敗の三冠馬」という、内国産馬の振興という意味でも大きな意義があるはずのコントレイルは選定基準に対してわずか1票足りずに落選するという結果になってしまいました。
(コントレイルはコロナ禍で無観客開催となっていた中での快挙でファンの興味をつなぎ止めた、という貢献もあったと個人的には感じています)

本来であれば昨年選ばれているべきだったアーモンドアイが今年に残ってしまったためにコントレイルが票を食われてしまい、コントレイルが来年以降に回ることによってまた別の馬たちがしわ寄せを食う。悪循環以外の何ものでもない非常に問題のある結果だったと思っています。(毎年言ってますが……)

そもそも投票方式が無記名の自由投票であるということ、確固たる基準がなく投票者個人の価値観や意志に任されすぎなことなどについてはかねてから批判があるわけですが、それが如実に表れてしまったものだとも言えるでしょう。

顕彰馬の選定基準とは

そもそも顕彰馬の選定基準は以下のように定められています。

(1)競走成績が特に優秀であると認められる馬

(2)競走成績が優秀であって、種牡馬又は繁殖牝馬としてその産駒の競走成績が特に優秀であると認められる馬

(3)その他、中央競馬の発展に特に貢献があったと認められる馬

しかし、登録を抹消した翌年から投票対象になるということを鑑みれば、(2)や(3)よりも(1)の条件、すなわち競走成績が実質的には最も重視されているということは言うまでもありません。

実際、今年アーモンドアイが選ばれたことで、グレード制以降のGⅠで7勝以上の馬はすべて顕彰馬になりました。

その一方で、6頭いる6勝馬の中で顕彰馬になれたのはオルフェーヴルとロードカナロアの2頭のみ。今年も投票対象だったブエナビスタ・モーリス・ゴールドシップ・グランアレグリアはおそらく顕彰馬にはなれないでしょう。

5勝馬に目を向けても、顕彰馬はナリタブライアンとタイキシャトルのみ。コントレイルはおそらく来年選ばれることにはなるでしょうが、ダイワメジャー・アグネスデジタル・メジロドーベル・アパパネの4頭が選外です。

上記の選外の馬たちの中でもモーリスとダイワメジャーは繁殖成績が極めて優秀な部類に入るので、(2)の条件がさほど重視されていないことは明らかです。なおさら選ばれた馬とそうでない馬の間にどういう差があるのかという疑問が湧くのは当然のことと言えるのではないでしょうか。

そこで、いち競馬ファンとして何らかの基準を設けることができないか、過去の顕彰馬、そして残念ながら選ばれてこなかった馬たちの戦績を比較しながら考えてみました。
※以下の考察はグレード制以降の馬に限定したものです。

クラシック三冠馬と顕彰馬の関係

当然ですがクラシック三冠馬であることは顕彰馬選定においてもかなりの重要度を持ちます。

牡馬については、未選定のコントレイルを除く全馬(セントライト・シンザン・ミスターシービー・シンボリルドルフ・ナリタブライアン・ディープインパクト・オルフェーヴル)が顕彰馬になっており、順当と言って差し支えないでしょう。

しかし、牝馬の場合は結構グラデーションがあります。史上初の牝馬クラシック三冠馬であるメジロラモーヌと、ジェンティルドンナ、アーモンドアイが顕彰馬となった一方で、スティルインラブとアパパネは選ばれていません。まだ現役なのでわかりませんがデアリングタクトも難しいことは予想できます。

ではなぜその差が生まれているのか?

「史上初」という冠のあるメジロラモーヌは別として、GⅠを9勝したアーモンドアイと7勝のジェンティルドンナは、当然のことながら古馬成績も優秀で、両馬とも3年連続でGⅠ勝利があります。しかし、スティルインラブは古馬になってからはGⅠどころか勝ち星が1つもなく、アパパネは阪神ジュベナイルフィリーズとヴィクトリアマイルを勝ってはいるものの、そのすべてが牝馬限定戦であることからもやはり見劣りがします。デアリングタクトも残念ながら現状では同様の系譜に並んでいます。

とはいえ、三冠を達成したということは少なくとも単一年度でのGⅠ3勝以上の年があるということで、これ自体は大きなアドバンテージがあります。

上で太字にした2つの条件は、実は三冠馬でなくとも顕彰馬になるためにはかなり大きな要素となっています。

“3”という数字がひとつのカギ

前項で触れた2つの条件、
3年連続でGⅠ勝利
・単一年度でのGⅠ3勝以上
これらを同時に満たすのはかなり難しく、当たり前ですがGⅠ4勝以下の馬では物理的に不可能ですね。

GⅠ5勝以上でこの2条件を満たしていながら顕彰馬に選ばれていない馬はゴールドシップ・グランアレグリア(6勝)、コントレイル(5勝)、それに前述のアパパネを加えた4頭です。

逆にこの2条件を満たさずして顕彰馬になっている馬はというと、5勝以上ではディープインパクト・シンボリルドルフ(7勝)、ロードカナロア(6勝)、ナリタブライアン・タイキシャトル(5勝)の5頭。このうちタイキシャトル以外の4頭に共通するのは4勝している年があるということです。
※タイキシャトルには海外GⅠジャック・ル・マロワ賞を勝ったということと外国産馬初の年度代表馬という別の付加価値がある。

というか、4勝している年があって顕彰馬になっていない馬はいません。

アーモンドアイ(9勝)、テイエムオペラオー・キタサンブラック・ジェンティルドンナ・ディープインパクト・シンボリルドルフ(7勝)、オルフェーヴル・ロードカナロア(6勝)、ナリタブライアン(5勝)の9頭。

これらはまったく文句の付けようのない面子だと思います。

自動的に顕彰馬として選定すべきと考える条件

以上のような点から、投票するまでもなく一定の成績を残した時点で自動的に顕彰馬として選定すべき条件がいくつかあると考えます。

それは、

A 3年連続または異なる3年度にわたるGⅠ勝利+単一年度でのGⅠ3勝
B 単一年度でのGⅠ4勝
C 4年連続または異なる4年度にわたるGⅠ勝利
D クラシック三冠馬(牡牝とも)+古馬混合GⅠ1勝以上
E 通算GⅠ勝利数7勝以上

といったところです。

これらを満たす中で実際に顕彰馬になっている馬とそうでない馬がいるわけですが、それらを以下に列記します。

【5条件のいずれか(または複数)を満たしている顕彰馬】

ABDE アーモンドアイ・ジェンティルドンナ
ABE テイエムオペラオー・キタサンブラック
BDE ディープインパクト・シンボリルドルフ
ACE ウオッカ
BD オルフェーヴル・ナリタブライアン
B ロードカナロア
C メジロマックイーン
D ミスターシービー

【5条件のいずれか(または複数)を満たすも顕彰馬になっていない馬】

AD コントレイル
A グランアレグリア
C ブエナビスタ・ゴールドシップ・アグネスデジタル・メジロドーベル・エイシンプレストン
D ダイワスカーレット ※変則の牝馬三冠とみなした場合

もちろん単純な比較はできませんが、ロードカナロア・メジロマックイーン・ミスターシービーの3頭は5条件のうち1つしか満たしていないにもかかわらず顕彰馬となっているのに対して、2条件を満たしているコントレイルが落選したのはやはり腑に落ちないと言わざるを得ません。また、1条件を満たすグランアレグリア以下の7頭も顕彰馬になっておかしくない成績であると思います。

※本項注:格が高いとされるレース、たとえば天皇賞(春・秋)や有馬記念を勝ったことがあるか、といった条件も考え得るとは思いますが、ここでは外しました。

投票による選定対象は絞るべきではないか?

さて、逆に顕彰馬となりながら上記の条件を満たしていない馬もいます。それも見ていきましょう。

タイキシャトル
オグリキャップ
トウカイテイオー
メジロラモーヌ
エルコンドルパサー

以上の5頭です。

いずれも条件を満たさないとはいえ、選ばれるだけの別の理由があった、つまりJRAの選定基準における(3)「中央競馬の発展に特に貢献があったと認められる」を満たした馬たちであるということに異論はありません。

つまり、投票による選定はこうした馬たち――競走成績によって自動的に認定される条件を満たさないものの競馬の発展に多大な功績があると考えるに足る活躍をした馬たちに限るべきではないか、というのが僕の考えです。

それはたとえばダイワメジャーとか、あるいはモーリスとか、ただでさえ中長距離馬に偏りがちな選定からは漏れがちなマイル~短距離の名馬たちの復権にもつながると思います。

もちろん、自動選定によって投票対象が減ることで、投票方法や選定基準は考え直す必要があるとは思いますが、現行の方式よりは納得感が高まるのではないでしょうか。

特に来年2024年からは障害競走のレジェンド、オジュウチョウサンが選定対象に加わります。オジュウチョウサンは当然ながらこの記事で触れてきたような平地G1での成績とはまったく無関係であるため、どういう結果になるのかすでに物議を醸しているだけに、見直すのであればこのタイミングしかないだろうという気がしています。

いずれにせよ、万人が納得するということは不可能ではあります。しかし、毎年のように発表後に揉めているような状況は、健全であるとは到底言えないと思います。できるだけ理想と現実とのギャップを埋める努力はしてほしいと切に願っています。

補足:年代ごとに見る顕彰馬の頭数

最後にちょっと別の観点から補足したいと思います。

顕彰馬をその生年によって年代別に分けてみると、ある程度は平均して分布しているということが見えてきます。

・1930年代《2頭》
クモハタ・セントライト

・1940年代《4頭》
クリフジ・トキツカゼ・トサミドリ・トキノミノル

・1950年代《4頭》
メイヂヒカリ・ハクチカラ・セイユウ・コダマ

・1960年代《4頭》
シンザン・スピードシンボリ・タケシバオー・グランドマーチス

・1970年代《4頭》
ハイセイコー・トウショウボーイ・テンポイント・マルゼンスキー

・1980年代《6頭》
ミスターシービー・シンボリルドルフ・メジロラモーヌ・オグリキャップ・メジロマックイーン・トウカイテイオー

・1990年代《4頭》
ナリタブライアン・タイキシャトル・エルコンドルパサー・テイエムオペラオー

・2000年代《5頭》
ディープインパクト・ウオッカ・オルフェーヴル・ロードカナロア・ジェンティルドンナ

・2010年代《2頭》
キタサンブラック・アーモンドアイ

大まかにいって10年ごとに平均4~5頭、最大で6頭、といったところですね。2010年代生まれの馬は現状では2頭ですが、コントレイル(2017年生)を始めまだまだ選定対象に残っているので増える可能性は充分あります。逆にキングカメハメハ・ダイワメジャー(2001年生)やブエナビスタ(2006年生)、ゴールドシップ(2009年生)などは同年代に選定対象となる馬が多かったせいで割を食ってしまっているとも言えます。1990年代もエルコンドルパサーと同期(1995年生)のスペシャルウィーク・グラスワンダーが似通った境遇だと思います。

顕彰馬の選定というのは本来は個々の馬に対する絶対的な評価であるべきで、年代による偏りが出てしまったとしてもそれはそういうものとして受容するほかないと思うのですが、現行の方法だとどうしても相対的なものになってしまいます。実際今年も、コントレイルに対して否定的な人の中に「アーモンドアイに直接対決で負けてるじゃないか」「他の三冠馬と比べて強い相手に勝っていないじゃないか」といった意見が散見されました。しかし、これは無意識に相対的な基準を持ち込んでしまっています。

また、物理的な選出可能数に限界があるため渋滞が起きて時間切れになってしまう馬が出てくるのも問題です。現行の規定では20年間は選定対象にとどまれますが、年を経るに従って印象度が下がっていくことは避けがたく、それにはあまり意味がないと思います。唯一の例外は登録抹消から14年を経て選定されたエルコンドルパサーですが、同じような推移で長らく選外となってきたブエナビスタは、今年11年目にしてついに一時は7割を超えたこともある得票率が3割を切ってしまいました。まだ期間は残っていますがここから巻き返すのは難しいでしょう。

抹消から年月を経て一定の得票を得るようになった例としてはキングカメハメハが挙げられます。これは競走成績よりも繁殖成績を評価されてのことですが、引退から間もない有力馬との比較になってしまう投票の性格上どうしても決め手には欠けますし、残された期間も長くありません。

こうしたことを防ぐには、JRAの選定基準の(1)競走成績の部分は前述の自動選定基準とし、そこから(2)繁殖成績を明確に分別して投票枠を設けるべきなのではないかとも思います。


蛇足

今年の顕彰馬投票には、結果発表それ自体にも問題がありました。

当初発表された投票結果PDFのスクリーンショット

何が問題かというと、今年から対象外となっているはずのステイゴールドに3票入っているんですね。これには投票に参加した記者からも指摘があったため、現在は“対象外の馬の記載があったため、「得票数一覧」を差し替えいたしました”とのことで、ステイゴールドを外したものに差し替えられています。

https://jra.jp/news/202306/pdf/060602_01.pdf

単純にJRAの集計ミスというか昨年の結果をコピペして表を作るときに抜き忘れたとかである可能性もありますが、もしこれが誤投票であるなら大問題で、それはその場合の「有効投票数」は207票ではなくて204票なのでは? という疑義が生じてしまうからです。

そして、選出には「投票者数」の3/4が必要とされていますが、有効投票数204票だったとするとその3/4の票数は153票となるため、仮に「有効投票数」を基準とするなら155票を獲得したコントレイルはそれをクリアしており、選出基準そのものに対しても大いに紛糾する余地があります。

まあこれを追及してもJRAは誤投票であるとは認めないでしょうが、そうした疑いを持たれてしまうような杜撰な扱いしかできないのなら投票なんかやめてしまえ、と本当に思います。


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