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タバコ遍歴

iQOSに乗り換えてから2年。
「これまでどんなタバコ吸ってきたの?」とテリアメンソールに聞かれた。過去の恋愛遍歴を話すみたいで気が進まないけど、テリアが強いて聞いてくるし、テリアには話しても良いと思えた。


「初めては大学生の時、ピース」あーねと笑うテリア。
ガツン。大きくむせて、友達に笑われた。苦い、そこからバニラの甘い香りが口から肺へ、最後に脳まで駆け巡り、クラッとした。
「坊やにはまだ早かったかな?」朦朧とした意識の中で、ピースのしたり顔が浮かぶ。僕は、咳き込みながら強がって「なにこれw」って言った。


キャスターを買った。初めて自分で買ったタバコ。誰にでも口当たりが良くて、優しい。火の付け方から、消し方、咥え方まで、タバコのいろはを教えてくれた。「あ、僕今日は家で留守番してます」「え、でも飲み会行きたいでしょ?」「いいから。きっと僕いたら邪魔になりますから」そう言って、いそいそとナイトキャップを被って布団に入るキャスターくん。


「キャスターは昔からそういうやつだ。わしは好かん」
焚き火を突きながら、キャビン。大型バイクで世界中を旅しているじいちゃん、サイドカーには飼い主とお揃いのゴーグルを付けた犬を乗せている。
夜空を眺めて、キャビンの幾星霜に想いを馳せた。僕はそれまで、夜空を見上げたことがなかった。歳を取るのも悪くない気がした。


「次はラッキーストライク」またテリアが笑った。
「君もGOの窪塚洋介に憧れた口か」「うん、白線をどこまでも辿るデートがしてみたかった」


セブンスターもヤンキーだった。ネンショー上がり。センコーもポリ公も出会い頭のワンパン。「俺セッター、夜露死苦」鈴蘭のテッペンを獲る気でいるアツい男。
あの頃、彼とはバイブスが合った。ZORNに出会ってHIPHOPに目覚め、フリースタイルダンジョンが地上波で始まった。
深夜のコンビニ前で吸うセッターは格別だった。町田を歌い地元をRepして、どこからでも火を起こせた。


金マルとは長い付き合いになった。最後のストレート。メンソールに惹かれ始めて、友達から貰いタバコをしていたのを、彼女は見て見ぬふりをした。その矜持に感服し、同時に胸が痛くなった。
「私のパッケージのデザイン変わるんだ」「そうなんだ」別れ際にそんな会話をした。
僕は大学を卒業して、下高井戸で一人暮らしを始めた。


キャメルメンソール。
「あいつ46歳でボーイング747の告白シートに外堀を埋めたらしいんだけど、キリアン・マーフィー氏の眼前で夏が二階から目薬したってのに、電話がつながるまで2時間も夕暮れの蕎麦屋に泊まり込んだらしいよ、まじわけわかんなくない?」
彼は基本なにを言っているのかわからない。この時期は、自分の心の声もよく聞き取れなかった。朝、目が覚めると何故か泣いていて、金が無さ過ぎてのり玉だけで1週間乗り切るような(米無し)、ギリギリの毎日。暗黒期編。
もうキャメルは吸えない。あの頃の記憶が蘇るから。


そして、ハイライトメンソールと出会う。
「ここで私の登場ですか」テリアの隣で、勝手に僕のカフェオレをちびちびやっていたハイライト。iQOSに乗り換えたと言いつつ、紙タバコも手放していない。今は僕とテリアとハイライトの3人暮らし。基本テリア、10本に一回ハイライトといった感じだ。


ハイライトは、ピースとの出会いを彷彿とさせた。脳にきた。バコン。下高井戸から脱し、コロナ渦からも脱して、僕をメンソールの風が吹き抜けた。例えるなら、春の嵐。いくつものドアが開く。何かに出会える予感がした。
いろんな煙の中を歩いた甲斐があった。その道すがら、少しは大人になれた。気がする。


iQOS・テリアメンソール
「ハイライトは寝ました」
「いつまでテリアに寄りかかっていようか、この頃迷うよ」
「おいおい忘れてくれるなよ、出会った時のあのトキメキをさ」
「うん、いつかね。今は一緒にいてくれ」
「おっけい」

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