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卒業原稿「デジタル時代におけるコミュニティラジオの未来」(前編)

 この春(2024年3月)卒業する現代新聞論ゼミ4年生の中島秀太君による卒業原稿です。現場に行き、人から話を聞いて仕上げるので、「卒業論文」ではなく、「卒業原稿」と呼んでいます。「はじめに」に執筆の動機や目的を書いていますが、災害時の情報拠点として期待されたコミュニティラジオがデジタル時代の中、苦境に陥っている現状と課題を当事者から聞き取りしたものです。前編、後編の2回にわけてお届けします。
(現代新聞論研究室・二木一夫)


はじめに

 大学に入学すると同時に新型コロナウイルスが猛威を振るい、2年間は自宅でオンライン授業を受ける日々が続いた。授業で出された課題をこなしながら少し気分を晴らすために「ながら聴き」するようになったのがラジオだ。パーソナリティが紹介するリスナーからのくだらないメッセージがいつになく心に沁みた。3年生になってようやく始まったキャンパスライフ。放送部に所属している私は、それからすぐに校内ラジオでパーソナリティを担当するようになった。週に一度の生放送のラジオ番組は、少々身内ネタに寄っているところもあるが毎回楽しい。
 卒業原稿の制作にあたり、大学生活を通じて好きになった「ラジオ」について書くことにした。テーマを見つけるためにラジオについて検索していると、「コミュニティラジオ」という、放送エリアが市町村単位に限られたラジオがあることを知った。また、そのコミュニティラジオ局が近年、関西を中心に次々と閉局しているというのだ。背景には、インターネットやSNSの発達による情報伝達手段の多様化によりその存在価値が弱まり、運営に必要な資金をこれまでのように集められなくなっている現実があるという。そこで本稿では、コミュニティラジオ関係者へのインタビュー調査を通じて業界が抱える課題を整理するとともに、コミュニティラジオならではの魅力を発見し、デジタル時代における存在意義を考察することにした。
 第1章では、文献や官公庁のデータをもとにコミュニティラジオの歴史と現況について整理する。第2章では、実際にコミュニティラジオ局を運営されている(されていた)方に行ったインタビューの内容をまとめる。第3章では、インタビュー調査からわかったコミュニティラジオの魅力や課題を概括し、デジタル時代におけるコミュニティラジオの在り方を見つめ直す。
【4年・中島秀太】

第1章 コミュニティラジオの現況

1-1 ラジオの分類

 日本のラジオ放送はAMラジオ(中波放送)・短波ラジオ(短波放送)・FMラジオ(超短波放送)に分類される。AMは「Amplitude Modulation(振幅変調)」、FMは「Frequency Modulation(周波数変調)」の略で、音声を電波にのせる方式(変調方式)と周波数帯が異なる。AMは526.5~1606.5kHzの周波数帯で広範囲に電波を届けることができるのに対し、FMは76.1~94.9MHzの周波数帯で電波が届く範囲は狭いが高い音質を届けることができる(【表1-1-1】参照)。一般的に国内で聴かれているラジオはAMかFMのどちらかだ。なお、短波ラジオはAMラジオよりもさらに電波の届く範囲が広く、日本国内から海外に発信する際や海外からの放送を国内で受信するときなどに用いられる。短波ラジオを用いて放送している国内の主な放送局は、海外向けの公共放送である「NHKワールド・ラジオ日本」と、国内全域を対象とする唯一の民間ラジオ「ラジオNIKKEI」などがある。

1-2 日本におけるラジオの歴史

 日本のラジオ放送は1924年に当時の逓信省が東京・名古屋・大阪の3地域で1事業者ずつにラジオ放送を許可し1925年に放送を開始したことに始まる。1926年には「社団法人日本放送協会」が発足し、ラジオ受信機の普及とともに、まだテレビのない時代、庶民の娯楽として親しまれていった。戦時下では一時、大本営発表を伝えるプロパガンダ機関として使われ盛り上がりは下火となるが、戦後の1950年には「電波三法」の施行で民間放送局の開局が認められたことを機にラジオは急速に発展していった。ラジオ受信機の小型化も進み、徐々にラジオは「居間で家族みんなで楽しむメディア」から「自分の部屋で一人で楽しむメディア」へと性格を変えた。1970年頃には従来のAM放送に比べ音質の良いFM放送が始まり、高音質による音楽番組を中心とした編成で人気を集めるように。1980年代には次々と民放FM局が開局した。大都市圏には複数のラジオ局が存在するのが当たり前になり、ラジオ放送の細分化が進んだ。そして、1992年1月10日に改正施行された「放送法施行規則等」により、市町村の一部を対象とした、これまでよりもさらに放送エリアを絞った「コミュニティラジオ」の放送が始まった。なお、「コミュニティ放送」「コミュニティFM」と呼ばれることもあるが、本稿では「コミュニティラジオ」に統一する。

1-3 コミュニティラジオとは

 総務省はコミュニティラジオを次のように定義している。

 コミュニティラジオは、広域ラジオとよばれる地方ブロックごとや都道府県単位で放送されているラジオとは異なる。主に市区町村など限られた地域を対象に放送されるもので、総務省が定めた放送法施行規則によれば「市町村の一部の区域の受容に応えるための放送局」と定義されている。電波はFM波。定められた空中線電力は20ワット以下で、届く範囲は一般的なラジオ受信機で平地の場合およそ直径5キロ~15キロだ。開局には電波法等に定める手続きが必要で、総務大臣から免許の交付を受ける必要がある。
 【図1-3-1】は平成4年の制度化以降、令和5年12月1日までの事業者数の推移だ。現在、全国には341の事業者がある。平成4年の制度化以降、特に平成7年に発生した阪神淡路大震災により防災情報の発信拠点として開局の機運が高まり事業者数は急増した。その後も増加は続いてきたもののここ数年は伸び悩んでいる。その背景については後述する。

 【図1-3-2】は都道府県別開局数と経営形態だ。開局数としては北海道の28局が最も多く、沖縄(18局)、神奈川(17局)、東京(16局)、鹿児島(15局)と続く。面積が広い、離島が点在する、大都市で人口が密集しているなどで、地域情報へのニーズが高いことが開局数に関係していると考えられる。
 事業形態は株式会社や特定非営利活動法人(NPO)、第三セクターなどさまざまで、経営規模は小規模が多数を占める。日本コミュニティ放送協会によると、現在全国341事業者のうち、営利法人が178事業者、第3セクターが122事業者、非営利法人が41事業者となっている。運営費は放送広告料のほか、企業や個人からの出資、自治体からの放送業務委託料で賄っていることが多いが経営基盤は盤石とは言えず、人的、放送・送信設備の両面ともに必要最小限で賄っていることが多い。

1-4 コミュニティラジオが抱える課題

 コミュニティラジオの事業者数は前述の通り微増を続けているものの、新規開局数は近年減少。閉局を決断する事業者も出てきている。直近では、2022年2月に「エフエムひらかた」、翌2023年3月には「エフエムもりぐち」(大阪府守口市)、「エフエムあまがさき」(兵庫県尼崎市)が閉局。「FMちゃお」(大阪府八尾市)も2024年3月に閉局する予定と既に発表している。
 閉局の理由はいずれの場合も概ね一致している。スポンサー離れによる放送広告料の減少や放送機材の老朽化もその一つだが、最も大きいのが自治体からの放送業務委託料の打ち切りだ。金額は自治体により異なるがいずれの事業者も年間4,000万円~5,000万円の委託料をもとに事業を運営してきた。打ち切りの背景には、インターネットやSNSの発達、誰でも音声番組を配信できる「Podcast(ポッドキャスト)」の登場など、急速な情報発信手段の多様化がある。行財政改革が叫ばれる中で「足切り」の対象とされてしまうのだ。コミュニティラジオは、その存在意義が問い直される転換期にきている。
(後編に続く)

後編の目次は次の通り。
第2章 インタビュー調査
 2-1 元・エフエムひらかた(大阪府枚方市)
 2-2 FMちゃお(大阪府八尾市)
 2-3 みんなのあま咲き放送局/旧・エフエムあまがさき(兵庫県尼崎市)
第3章 コミュニティラジオのこれから
 3-1 インタビュー調査からわかったこと
 3-2 コミュニティラジオの未来~まとめにかえて~
謝辞
出典
参考資料/参考文献

後編⇩
https://note.com/sociojournal/n/n1cb6d01edbcb


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