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「相談に向き合う」介護の現場から地方議員に

 垰田英伸(たおだ・ひでのぶ)さん(49)は老人ホームで働いた後、介護事業アドバイザーとして独立、2020年から大阪府和泉市議を務める。誰にインタビューをするかと悩んでいる時、幼なじみのお父さんであり市議である垰田さんはどうかと母に提案され、垰田さんは快諾してくれた。なぜ地方議会の道を選んだのか、議員活動で何を大事にしているのかを聞いた。
【2年・山下和花】

――市議になる前は何の仕事を?

 大学を卒業後、老人ホームに就職しました。8年ぐらいで辞めることになり、違う老人ホームに勤めました。二つ目のところは経営が悪化していて、入ってすぐに経営を任されたんです。経営をしたことはなかったのですが、商売人の家系なので、なんとなく悪いところが分かり、いろいろと変えたところ回復し、3年間で経営する老人ホームが4つ増えました。

――どういうところを変えましたか?

 元々デイサービスでは、歌うことぐらいしかなかったんですが、マッサージや麻雀、カラオケができるようにしました。自由にできるようにすることで職員の負担が減って楽になります。その分、1日に必要な人が減るので、人件費を削減できるのですが、その浮いたお金は職員にボーナスとして配り、やる気を引き出しました。これが成功し、これらを全国の老人ホームに導入すべきだと思い、介護事業アドバイザーとして独立することを決意しました。

――どうやって顧客になってもらったのですか?

 近畿圏内にある300個所ぐらいの老人ホームにアドバイザーとしての仕事の内容をメールで送ったんです。そうしたら、18の老人ホームから会いたいと連絡が来たので、3時間程の講演をしました。そのうち3件と正式に契約することができました。これらを繰り返して、1年半で全国に顧客がいるという状態になりました。

――なぜ市議に?

 2009年から介護事業アドバイザーをしていたのですが、20年にコロナが流行し、人を集めた講演ができなくなって、これからどうしようと。その時、知り合いから突然、市議会議員になって欲しいと言われたんです。全然なるつもりはなかったんだけど、「君しかいない」と言われて。そう言われるのに弱くて。

――よく駅前やスーパーの近くの交差点に立っているのを見かけます。

 私はこれを「街頭立ち」と呼んでいるんですが、1年365日中364日ぐらいしていて、何も用事が入っていない日は、7時間から10時間ぐらい立っています。立ちっぱなしなのでしんどいですし、大変ですよ。でも、これは立っている自分にしか分からないことなんですが、それ以上の達成感があるので、約3年間続けることができています。

――なぜそんなに長い時間立っているんですか?

 3年間ずっと7時間立っていたら他の人に本気さが伝わるからです。最初は話しかけられず、無視されていたんです。でも毎日立っていたら「この人なら解決してくれるかもしれない」と話しかけてくれる。長い時間立っていた方が出会う人が多く、その分多くの人に知ってもらえる。そこからまた相談と解決につながっていく。3年間に1400件ぐらいの相談を受けました。

――どのような相談を受けましたか?

 ウクライナ人を妻に持つ日本人の知り合いから相談されたことがあります。このウクライナ人の女性の家族を日本に避難させたい、と。国同士のことなので市議に相談することではないと思ったけれど、頼まれたことは何でもするというモットーなので、参院議員でありウクライナ避難民支援対策本事務局長でもある石川ひろたかさんに連絡を取ったんです。資料も作り、3日後には家族の再会に立ち会えました。

――頼まれたことは何でもするのですか?

 全てを実現できるわけではありませんが、相談されたことには向き合います。家の前の枯れ葉を掃除して欲しいと電話で頼まれたり、食パンを買ってきて欲しいと言われたりしたこともありました。他の人ならしないと思うんです。でも私は行く。それが縁になっていく。その先になにかがあると思うので、頼まれたことは何でもします。

――議員活動を通じて感じたことを教えてください。

 3つあります。一つ目は信じ抜いた先に光があると考えて行動することが大事ということ。がむしゃらに頑張ることはしんどいけれど、何かをつかむことができると信じて行動することで頑張ることができるし、いろいろなことを変えることができる。二つ目はやり続ける大切さ。思いが伝わらなくても続けることで、他の人に伝えられる。三つ目は他の人に合わせて動くこと。自分の思いを押しつけるだけではだめ。相手が自分と違うことを言ったとしても合わせる。自分の思いも相手に合わせて形を変えながら伝える。そうすることで相手の心にすっと入り込める。これは就職活動にも言えること。希望する職業に就けなくても環境のせいにせずに仕事を頑張った人は10年後には自分の仕事を誇れるようになっていると思います。本当にだめだと思ったらやめることも必要ですけどね。

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