読書ノート⑪『本の読み方: スローリーディングの実践』(平野啓一郎)

★速読と情感

 「たくさんの本をできるだけ短い時間で読みたい」―――これは、変化の激しい社会に生きる私たちにとって切実な願いです。
 かく言う私もそうでした(現在進行形で)。小学2年生の時、初めて図書館で借りたあさのあつこの『バッテリー』を読み終わり、「私は死ぬまでにこの世の全ての物語を読みたい!」という生涯を通しての夢を見て以来、そのための手段としての速読術は常に私を魅了してきました。
 そんな折、大学3年時に寺田昌嗣さんのFocus Readingという講座を受ける機会を得ました。寺田さんは博士課程で科学的に速読(読書術)を研究されている方で、世に蔓延る怪しげな速読術(「脳の限界を突破しよう!」的な…)とは異なった読書法を提唱されています。私も寺田さんの講座を3日間受講し、本を読むスピードが格段に上がりました。たくさんの小説や新書、マンガに至るまでどんどん読みこなせるようになった日々…。
 でも、少し気になったことがありました。それが、「読んだ内容は整理できている。記憶にもそこそこ定着している。でも、幼い時に速読しないで玩味しながら読んだ本の方が、読んだときの”想い””情感”が深く心に残っている」ということ。速読をこのまま続けていいのかなあという漠然とした不安。
 そんな気持ちに、平野啓一郎が答えてくれました。

★問題提起

 まず、本書で平野はこう問題提起します。
 「読書は、変化のスピードが速い今こそ、『質』を重視しゆっくり読むべきなのではないか」
⇒『大量』を『速く』読むことが信奉されているが、大量の情報を素早く処理できるようになることは、我々の暮らしを豊かにしていない。

大量に飛びこんでくるメールやLINEの処理に手を焼いて、本当に自分がしたいことがおろそかになっている…これは情報の海の中で溺れているだけ。これと同じですね。

⇒少量の情報しか入手できなかった古人が、現代の我々より圧倒的に深い思索をしていることからも、大量の情報に通じていることは思索を深くするとは言えない。情報が贅肉のようについていくだけで、自分の血肉にはなっていない。

私は幼い頃、周りが読んでいるような週刊マンガ(『ちゃお』や『りぼん』『ジャンプ』のような)を買ってもらえませんでした。だから初めて親戚からもらった1巻だけの『りぼん』は何十回も読みましたし、その時読んだストーリーとマンガに抱いた衝撃は一生忘れません。そこから学んだものもたくさんあります。たくさんのマンガに囲まれていなかったからこそ、その1巻が私の中で輝いているのです。それと似ている気がします。

 これを踏まえ、平野は「スローリーディング」(⇔速読)を提唱し、書き手の視点に立って読むこと、一度読んでおしまいにせず時を経て再度読むこと(リリーディング)、などを推奨します。
 構成としては、まず第1章で「スローリーディング」をなぜ勧めるのか述べ、第2章で、”誤読”の魅力(誤読は、国語のテストであればバツを食らうものでも、新たな思索の道を切り拓くことにつながる点で可能性を秘めているということ)について触れます。第3章からは平野が「スローリーディング」を実践して文学を読み、速読では味わえない、熟読・精読するからこそ味わえる深みを辿るプロセスが書かれており、この本のテーマである「読書は量から質へ!」への理解を深めることができます。

★スローリーディングのメリットとは?

① 本から得られたことを、長く自分の血肉にできる
└読了して終わり!ではなく、そこから自分の意見を作ったり、認知に取り入れたりすることで、自分のものにできる
└ためらいなく、他人と共有することができる(うろ覚えではできない)
② 読書の時間を、本の中の情報ではなく、自分自身と向き合う時間にできる
└小説を読み、単に起承転結をなぞるだけでは味気なさすぎる
☞情景に感じ入り、人物に感情移入し、自分を本の中に投影してその世界を楽しむ(=自分と向き合う)
③ 1冊を深く知ることで、その1冊を支える何冊もの本と出会える
└小説なら著者に影響を与えた作家、学術書なら引用・参考文献、1つの本をさっさと素通りせずに読み込むことで、新たな本とも出会えるし、それを理解するための道にもなる
④ コミュニケーション力の向上につながる
└相手の意見を受け止め、理解する力が向上する

★実践におけるTips!(第3章から学んだこと)

●小説内で人物が疑問を呈したら要注意!
☞作者が、読者が抱くであろう問いに答えようとしている場面かも
☞ということはここに作者の主張が凝縮されている可能性が高い

●形容詞・形容動詞に注目
☞その修飾語でなければならない理由がある

●小説の読解に正解はないし、自分のスタンスが時を越えて変わっていい
☞国語のテストであれば、出題者の意図に沿う必要があるが読書はそうではない
☞作者の意図と違う読み方をする(=誤読する)ことで新しく生まれるものもある

★読んでみての感想

●速読とスローリーディングは、本のジャンルや読む目的で使い分けが必要
☞速読にも大きなメリットがある。1回で下読みをして構造を理解し、その上で何度も重ね読みすることで、効率的に理解を定着させることができる。
☞ゆっくり読むことで文章のリズム感が失われることもまたある。先の内容を忘れてしまうこともある。文章の前後を繋げて、構造を素早く把握するためには、スローリーディングでは頭に入ってこない可能性もある。

●小説の楽しみ方として「要約を知ってから細部に目を凝らす」というやり方もアリ
☞平野曰く、小説はプロットだけでなく細部(=ノイズ)があるからこそ楽しめる。それならば、「まず骨子をつかんで、その後細部に目を凝らす」ために、あっちゃんのYouTube大学を聞いたりflierを読んだりした後に、原著の文学を実際に読む…という手法は理にかなっているのでは?

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