見出し画像

『ジハードとテロリズム』読書ノート

【感想】イスラム教とムスリムの特徴を地政学的観点や宗教的特徴から捉えている。アルカーイダやテロリストの行動の理由や動機を、単なる組織の来歴や、イスラム教の解説→ジハードの解説→テロリズム、といった一連の説明を叙述するだけではなく、もっとムスリムに寄り添った説明がされていた。習俗や根底にある考え方を知ることが出来たので、個人的にかなりの良書だと思う。

★イスラム教徒による4つのテロの形態
①イスラーム領域を侵害されたことへの抵抗
②イスラーム文化を破壊されたことへの抵抗
③イスラーム教徒と他民族との差別への抵抗
④イスラーム教自体の冒涜への抵抗

★イスラム社会は、構造上テロが起こりやすい環境
・政治形態は、ほぼ部族社会。政権トップの出身地や血縁から多くの高官が輩出されている。
・欧米諸国の先進技術の基礎は、イスラーム諸学由来のものが多い(十字軍で持っていかれた)→西洋の繁栄の基礎はイスラーム起源なのに、今はイスラームが従属的立場に置かれている→アラブから西洋に留学したもの達はそれを目の当たりにして、西洋をすごいと思うのと同時に憎み、イスラームの偉大さを改めて知り、我々が過去の偉大な時代を経験するためには敬虔深くなければいけないと考えるようになる→信心を深くしていく。

★イスラームの教育法
「信仰=暗記=教育」
・ハディースやコーランを暗記することが重要
・暗記の範囲をはずれたら権威者に指示を仰ぐ
→暗記をすることが中心のため、自分の頭で考える力が衰えてしまい、権威者の言うことを頭に叩き込めた人が優秀…ということになってしまう。

★スンニ派とシーア派
・シーア派には、イジュティハードという「人間による判断」を差し込める余地が残されており、厳格なスンニ派からすればけしからんという話になる。
・元々シーア派はペルシャ人が核となっており、スンニ派を信じるアラブ人への一種のレジスタンスとしてペルシャ人に普及した。

★アラブの風土と考え方の連関(全てが正しいと鵜呑みにはできないものの面白い分析)
・必要なものを必要なだけ作るため、質を上げる努力をしない。売る側は持てる者なので買う側より偉い感じ。
・基本生活環境が厳しいので、歴史を思い描く時、日本のように周期として捉えず、良かった時の思い出が強烈に点として残っている。線の歴史が描けない。
→だから、過去〜現在という歴史の流れではなく、ムハンマドの時代・○○の時代・今、というように、ぶつ切りで歴史が並んでいる。そのため、「あの時代は良かった」というノリで一瞬にして古代へ意識を馳せてしまう。

★ムスリムにとっての寄付
・寄付は一方通行で、使い道を気にしない。与えること自体が功徳に繋がるという考え方

⇔日本の場合、何に使われているか知って寄付したり、不適切な使われ方をしていたら寄付を打ち切る


その他
・イスラームで利子を取ってはいけない理由は、「ユダヤ教徒と同じことをしては行けない」という意味合いがある。ヒジュラの際にユダヤ教徒がムスリムを迫害したことに由来する。

・トルコのイスラム教がフレキシブルなことについて、スーフィズム(神秘主義)があり瞑想を行うから色々考えるんだろう、みたいに書かれていたが『コーヒーが廻り、世界史が廻る』のスーフィーはもっと禁欲的で、そんな世俗的なことを柔軟に考える人々なのだろうか……と疑問に思った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?