社会学とは何か?(2)…『社会学講義』(橋爪大三郎他)読書ノート

 前回は、橋爪大三郎の「社会学とは何か」という問いへの論をまとめました。

 今回は『社会学講義』第6章 社会調査論から、佐藤郁也の社会学 - 特に彼が社会学にアプローチする手法である「フィールドワーク」についてまとめ、私の意見を述べていきたいと思います。

★佐藤にとっての「社会学の定義」

 前回に倣って、佐藤が社会学をどのように定義しているのかから確認しましょう。彼は、「”社会学とは何か”という問いは、簡単に定義できるものではない。なので、”社会学者は何をしている人なのか”について考えることから始める」とことわってから論を展開します。

この、「領域それ自体の概念が曖昧なため、『〇〇するものを××という概念とする』と定義することを、操作的定義(Operational definition)、もしくは概念の操作化、と呼びます。(大谷 et al. 2013, p.76)
【例1】「学力の高さ=学力テストの点数で測るものである」、と定義する
 (学力という曖昧な概念を、学力テストの点数という数値で可視化) 
【例2】「絶対的貧困=1日1.75ドル以下で生活している人」と定義する
 (貧困という曖昧な概念を、収入という数値で可視化)
【佐藤】「社会学=社会学者がやっていることを含む領域」と定義した

これにより、曖昧な概念を調査することが可能になります。また、その定義自体が正しいのか確認することを通して、概念自体を再考することにもつながります。

 その上で、社会学者がしていること―――つまり、社会学者が社会を考えるために用いている分析手法を分類し、その中の1つである、彼が用いている「フィールドワーク」という手法について説明しています。

★「フィールドワーク」とは何か?

 突然ですが、皆さんは「フィールドワーク」という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?
 外へ出て歩いて見ること?”未開”の地で暮らしてみること?小中高で「フィールドワーク」と称して、校外をぶらついた後、振り返りシートやレポートを書いた、という人も多いのではないでしょうか。
 私は社会学を学ぶ前は、「フィールドワーク」=「とりあえず外へ出る」というイメージを持っていました。というか、座学で詰め込み中心の教育は良くない!もっとアクティブなラーニングを!…みたいな表面的な教育改革心だけが反映された授業がフィールドワーク…と捉えていました。
 それでは、佐藤の分類の仕方を見てみましょう。

★社会学者の分析手法を分類!

 まず、社会学者は大きく分けて「理論を中心に研究する人」と「調査を中心に研究する人」に分けられます。前者は、これまで蓄積されてきた理論を補強したり反対したり、複数の理論を組み合わせて独自の理論を作ったり…と、文献を中心とした研究をします。理論は普遍性を志向しているものの、時代が変われば現実に即さなくなることもあります(マルクスの理論が典型例ですね)。それを修正したり補完したりするのが「理論を中心にする人」の手法です。
 一方、「調査を中心にする人」は、大きく分けて2つの手法を持っています。1つは、サーベイ(Survey)。もう1つが、フィールドワーク(Fieldwork)です。
 サーベイは、最も身近な例でいうとアンケート調査です(なお、アンケート調査という言葉は学問のタームでは使わず、調査票調査というのが正しいです)。たくさんのアンケート回答を統計的に分析し、数値で答えを出すことが多く、「量的調査」と呼ばれるものは概ねこれを指します。
 それに対しフィールドワークは、インタビュー調査や参与観察(自分が調べようとするフィールドに長く身を置いて、起居を共にすることで対象を体感する)を通して、その結果を「エスノグラフィー」にまとめます。というか、まとめたものをエスノグラフィーと呼びます。「質的調査」は概ねこれを指します。
 佐藤は、サーベイとフィールドワークの相違点は「調査できるサンプルの大きさと項目数」だと指摘しています。サーベイが大量の人にアンケートをお願いして調査した人の量(=サンプル)を多くするのが得意なのに対し、フィールドワークは手間が膨大のためサンプルは少ないものの、調査できる項目(対象についての知識量)を多くするのが得意であるということです。
 また、フィールドワークの長所について、以下のように述べています。

”〈どの問題に目をつけたらいいのか〉(中略)という問題設定や情報源の確定という点に関して言えば、遠隔感受のサーベイだけでは対象に密着したフィールワークにはとても太刀打ちできない”

 少し、学問の手法としての「フィールドワーク」の理解が深まりましたか?

★社会心理学はというと…??

 私は大学で社会学専攻に所属しておりますが、主な領域は「社会心理学」です。さて、社会心理学とは何かというと…。心理学との違いをまとめてみました。

●心理学=人間1人の心身の中で起きている認知・反応の過程を研究する
【例】〈テーマ〉人間は物事をどのように記憶するのか?
   〈手法〉被験者を個室に招き入れて記憶テストをしてもらう
●社会心理学=人間同士の相互作用の中で、個人or集団の中で起きている認知・反応の過程を研究する
【例】〈テーマ〉ディスカッションする時に、リーダーの存在がある・なしで、結論の出方が変化するのか?
   〈手法〉被験者を相互作用の中に置き(=実験)、様子を観察したり、実験後にインタビューしたりアンケートに答えてもらったりする

 社会心理学が用いる手法は、佐藤の分類でいうとおそらく、「理論を中心にする人」と「サーベイを用いる人」の中間でしょうか。私の研究室はゲーミングシミュレーションを手法として用いることが多いのですが、論文を書くときは「問題意識⇒社会心理学の既存の理論に当てはめる⇒問題意識をゲーミングの世界に反映させる⇒実験を行う⇒分析・考察する」の流れで行います。分析・考察のステップでは、被験者1人1人に深くインタビューするよりも、調査票調査を行ったり、短めのインタビューを行ったりすることが多いように思います。もちろん、1人1人に深くインタビューを行い、その結果を社会心理学の理論で説明する方法で研究している人もいますが。

★社会学の手法は多彩!

 よく、「社会学は汎用性が高い」「なんでもかんでも社会学にできる」という言葉を聞きます(どこで聞くかというと、社会学部/専攻に進もうか悩んでいる人に、社会学部/専攻に所属している人が、社会学を選ぶように”説得”している場面です)。この「汎用性の高さ」というイメージは、手法の多彩さにあるのではないかと私は思います。

 さて、今回は佐藤郁也の「社会学とは何か」についてまとめてみました。読んで下さった皆さんにとって、社会学が身近な存在になる一助となれたら嬉しいです。最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

★引用・参考文献

橋爪大三郎/大澤真幸ほか(2016)『社会学講義』, ちくま新書
大谷信介ほか(2013)『新・社会調査へのアプローチ』, ミネルヴァ書房

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