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《SOBASO ORIGINAL SOBA ALE》物語 その1【世界遺産・伊豆韮山反射のそばで】

蕎麦宗の夜営業《navigazione》のスタッフ佑介(実弟)の友人に稲村君という若者がいる。彼は世界遺産韮山反射炉の側にある《蔵屋鳴沢》という、茶業からスタートして現在は土産物屋とレストランを主体とした会社の御曹司で、いずれは社長を継ぐであろう人物でもあり、今はその一部門の反射炉ビヤブルワリーを率いている。普段、夜は*いずっぱこの伊豆長岡駅前にあるビールスタンドに立っていて、その反射炉ビヤというクラフトビールを売っている。

反射炉ビヤは、1994年に酒税法が改定されことによって、小規模事業者でもビール市場に参入できるようになって創業されたマイクロブルワリーである。地ビールブームが巻き起こったその頃より続き、今尚、右肩上がりにあるクラフトビール界にその名を知られる人気ブランドでもある。2021年1月には、とある品評会で代表品『早雲』が銀賞(つまり日本で2番!)を受賞している。他にも小ロットの様々なフレーバービールが人気を博し、ベアードビールに次いで伊豆を代表するブルワリーに成長している。

日頃あんまり酒を飲まない自分と異なり、弟・佑介は好奇心旺盛に三島の《Bar倉田》やその反射炉ビヤスタンドに足繁く通い、酒にまつわることやその他色々な方面の情報を集めており、その話の一つに稲村君が役所に物申した件を聞いた。話の大筋はこうである。…いざ韮山反射炉が長崎軍艦島や富岡製糸場など組み合わさって『明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼・造船・石炭産業』として世界文化遺産に登録された際、地元伊豆の国には喜びと共に嘲笑が沸き起こった。世界遺産というにはあまりに小さく、そして身近過ぎるその歴史遺産に尊敬の念を抱く人々などいないからである。実際、自分ですら「世界遺産ね〜?」と首を傾げたのが事実だ。2015年に店を二週間以上休んで夫婦で旅したイタリアにて、ローマ・フィレンツェ・ベネツィア・アルヴェロヴェッロ…etcといった世界遺産を目の当たりにしたあの光景を思い起こすと、日本のそれのスケールはあまりに限定的である。そして反射炉は銀玉鉄砲で西武警察ごっこをしたり、かくれんぼや缶蹴りに興じた子供時代の遊び場所でしかない。

しかしである。伊豆の国市役所世界遺産推進課はその市民の論調そのままに、反射炉を自虐的に売り込もうとしたことに対して稲村君は意を唱えた。せっかく選ばれた世界遺産である。幕末は動乱期の郷土韮山の偉人・江川太郎左衛門英龍が欧米列強から日本を守るべく、先見の明を持ってこの地に作り上げたこの歴史的建造物に対し、誇りと尊敬を持ってその価値を世に広めるべきではないのか…。

僕はこの話を聞いた時に、ほんの少し自分を恥じるとともに、思わず唸った。世界遺産に選ばれたことで、おそらく多数の観光客が訪れるであろう郷土が、自虐ネタで半分笑い種になるよりも、誇り高く歴史を語れる方が良いのは同感だからだ。この韮山反射炉というランドマークを目指して全国・全世界から人々が来訪し、地元の観光や経済に影響を与える。そのスケール感を想像すると、とっても嬉しくそして楽しくなった。郷里に錦を。誰しもがいずれは一度は思い描くことだ。

それ以来、僕も、弟と同様に伊豆長岡駅前の反射炉ビヤスタンドに脚を運ぶようになり、稲村君とも話すようになった。そこで紹介されて知り合ったのが、反射炉ビヤの醸造長である若きカリスマ・山田君である。つづく

*いずっぱこ…伊豆箱根鉄道のことを地元民は愛称としてこう呼ぶ

#蕎麦宗 #反射炉ビヤ #世界遺産 #江川太郎左衛門  #幕末 #誇り #イタリア


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