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【感想】オッドタクシー あっという間にユニバースに引き込まれた

月一更新も途絶え、それなりにコンテンツの摂取もしてはいるがなかなかnoteは書けず…
ただ記録は残しておきたいのでX(旧Twitter)の方には都度都度短文投稿を重ねていっている。

そんな私だが久々にnoteに手を伸ばしたのは、Amazonプライム・ビデオにて鑑賞した“オッドタクシー”が余りにも面白過ぎたゆえである。

以前から評判が良いことは漏れ聞いており、頭の中の「いつか観たい」リストにはストックされていた作品を今回ようやく観た。

正に「何となく気が向いたから」程度のスタートだったが、観終わった後に調べてみたらこの世界観を下地としたスピンオフ的漫画が連載中、かつその実写ドラマが4月から放映されるというユニバースを広げる展開が改めてスタートしているとのことで、期せずして非常に良いタイミングであった。
しかも主演は“不適切にもほどがある”で最近知った、かつ惚れ込んだ河合優実さん。

このアニメ、というか作品を「喰らって」しまった以上、このドラマは見逃せない、ということで、アニメ版視聴以降も、できる範囲でオッドタクシー関連のコンテンツを嗜んでいる。

今回は「アニメ」「オーディオドラマ」「漫画版」をざっくり自分の中で総括したい。


アニメ「オッドタクシー」

Amazonプライム・ビデオにて視聴。
評判の高さは聞き及んでいたが、その内容が「一見ポップで可愛らしいビジュアルなのに中身はきっちりサスペンス」というモノだったため、ある程度は身構えて臨んだ。
今思えば事前知識はここまで程度のレベルで非常に幸運だった。1話から割ときっちり不穏な気配は漂うので、当初の身構えが視聴の楽しさを損なわせることもなく。

動物たちが擬人化されたポップなビジュアル。それでいて世界観は完全に現代日本。地名や街並みもそのまま。そして彼らの営みは時に軽妙、時に陰惨。そのギャップが目を引く。
このビジュアルにはとある“秘密”があるのだが、ただその“秘密”以上に、この動物擬人化ビジュアルが、展開のキツさや粗をうまく覆い隠している。
具体的には「悲惨(主に柿花周り)な部分はマイルドに、稚拙(主に強盗計画周り)部分は流せる程度に」といった具合に、観ているこっちが勝手にチューニングしてしまう絶妙な絵作り。
どちらもそのまま人間でやったら、場面によってはエグさと安っぽさが際立ち面白さや没入感を減らしてしまっていたはずだ。

そういったビジュアル的な下地を得たうえで、全体として構成が素晴らしかった。
「女子高生行方不明事件」を最初の縦軸として、「何か秘密がありそうな小戸川」を中心にそれぞれ広がり絡み合っていく人間関係。
その広がりが「10億円強奪計画」という新たな縦軸を浮かび上がらせ、話のメインはそちらに行きつつ「行方不明事件」との細い糸も断ち切らせない。
むしろ強奪計画が進む中で、この行方不明事件の驚くべき顛末が、濃く、くっきりと浮かび上がる。

多くの登場人物が腹に一物抱え、それぞれの思惑で動きながら、意外なところで繋がっていく。
ともすれば話があっちこっちにいってややこしいことになりそうなのに、視聴中に混乱はなく、伏線や前振りはきっちりと機能して飽きさせない。
よくよく考えれば大変に複雑な状況と話なのにそうとは感じさせず、視聴中は「とてもキレイなあみだくじ」を俯瞰で観ているような気がしてくる。これがまた気持ちよく、心地よく、素晴らしい視聴体験であり、この構成力というか、まとめ力には舌を巻いた。

なにより、こういった“群像劇モノ”って、「あの人とあの人が繋がっている」「あの人は実はこんな人だった」「この出来事の裏ではこんなことがあった」という“意外な事実をただひたすら羅列し説明するだけ”、ということに終始しがちで、というよりそれを説明することが作品そのものの目的みたいなことになりがちで、最終的に「ふーん、で?」しか残らない場合があったりするが(“エイ〇リルフー〇ズ”とか“キサ〇ギ”とか…この脚本家は割りと好きではあるんだけど)この作品はそうはならない。

それは偏に「群像劇のための群像劇」ではなく、「女子高生行方不明事件」と「10億円強奪事件」、そして「小戸川の秘密と精神的な成長」という軸が最後までブレず、群像劇そのものはそれらを話として面白く描き切るための手段として活用できているからだと思う。

中にはお笑いコンビ・ホモサピエンスや小戸川を付け狙う田中など、メイン縦軸に明確には携わらないメンツもいるが、彼らの存在が世界観に厚みを与え、各話のクリフハンガーとしても機能する。

田中といえば、30分丸々彼の物語となる4話が構成のターニングポイントとしてとてもよかった。

1〜3話はミステリー・サスペンス・群像劇の種まきが主な求心力となり、当然魅力的ではあるのだが、3話時点でそれぞれの糸が少しずつ束ねられるとともに、若干その求心力が弱まる。要は少々の中弛みが発生するのだ。
この感じで13話まで引っ張られるのかなー?と一瞬不安に思うところで、この4話が差し込まれる。

ここでメインとは違う「田中」という軸が生まれ、物語に新たな展開を生み出し、そして5話以降各キャラクター達が一斉に“深み”へ一歩踏み出し、束ねられた糸達はまた広がっていき、ストーリーは加速する。

当の田中は全体の軸とはちょっと別のラインで大暴れしつつ、最後に“ジョーカー”としての役割を大いに全うする。
序盤ではあるがちょうどいいところに差し込まれた4話が、全体の起爆剤として大きく機能している。ここでまんまと視聴が止まらなくなる。

小戸川のある秘密に関しては1話の段階からしっかり目に布石は打たれていたため、早い段階で「恐らくそうだろう」という予測は立てていた。
そしてそれは案の定最終話で明かされるわけだが、しかしだからと言って「オチに先に気付いちゃった」という残念な気持ちにはならない。
それはやはり「10億円強奪」と「女子高生行方不明」という軸が強度を保っていたからだし、「小戸川の秘密」が明かされるだけに留まらず、それ自体が彼の精神的前進というキャラクターとストーリーの発展にしっかり寄与したからだろう。

更に言えば、「小戸川の秘密」をある程度匂わせておくことが「女子高生行方不明」の方をうまいこと覆い隠し、10話から明かされラストで結実する“驚愕”の度合いを大きくする役割さえあったと、観終わった後は思う。

ラスト、全てが丸く収まったかのような大団円的雰囲気で明かされるある“真相”。
色々な解決を経てゆるい雰囲気になりかけていた視聴者を「そうだ、この作品は元々こういう不穏な雰囲気のある作品だった」と冷や水ぶっかけて引き戻す“オチ”。
リアルタイムでは賛否両論ありそうだなとは思ったし、私自身も「えー…これで終わるのかあ」と直後は感じたりもしたが、しかしよくよく考えれば本放送に置いてこれ以上相応しい終わりはないのかもしれない。

というのも、この作品におけるキャラクター達、ひいてはこの作品そのものが“実は”の積み重ねで出来ていたように思うからだ。

牧歌的なビジュアルに見えて“実は”骨太なクライムサスペンス、美人看護士が“実は”ヤクザと交際している、ヤクザのボスは“実は”見返りを求めない慈善事業もおこなっている、“実は”アイドルと交際しているお笑い芸人、“実は”盗聴行為をこっそりおこなっている飲み屋の女将、周りからは馬鹿にされているのに“実は”地頭のいい警察官そして“実は”アレで36歳、粗暴な見た目に反して“実は”頭が切れたり、“実は”ITに強い奴もいるチンピラヤクザ、逆にスーツでバシッと決めつつ“実は”育ちの悲惨さは作中随一なインテリヤクザ、ミステリーキッスたちはいわずもがな。
(裏表がなく本当にただただ良い人だったのは、小戸川宅の大家さんと剛力くらいだったのではないだろうか)

そういった“実は”が最も強い、結実したキャラクターが彼女で、そんな彼女が最後を締める。

ある意味では軸のブレていない、非常に筋の通った終わり方なのかもしれない。

オーディオドラマ

毎週、アニメ放映後に配信されていた(らしい)オーディオドラマ。
各話の後日談や繋ぎ的な、オッドタクシーを象徴する“会話劇”にきっちりフォーカスした内容である。

本編観る限りでは特にいる意味のないように感じられる長嶋聡はここで活躍していたんか!という驚きと共に聴いてみた。
そもそも私がこのドラマの存在を知ったのが本編を全て視聴した後なので、一応「全てを知っている」上でのまとめ聴きとなったのだが…

これがなかなかすごかった。ズシンときた。

何が伏線で、前振りで、裏がある会話なのか、リアルタイムで聴いていた視聴者はなかなかの考察しがいで振り回されまくったのではないだろうか。
実際にあまり意味を持たない話が挟み込まれているのもニクイ。

全体としてネタバレにならないギリギリのラインをしっかり保っていると思うが、2.5話・11.10話は完結前にしては踏み込み過ぎな気もする。リアルタイム勢はどういう読み取り方だったのかこれまた非常に気になる。

最後の13.13話は本編最終回の最後のシーンの補完であると同時に、もはや純粋なるホラーである。明かされるタエ子さんの意外な行動も吹っ飛ばされる。

長嶋聡とタエ子さんがどうなったのか、これは本編を観ても分からず非常にもやもやするし大変に気になる。
ただその「あいつらどうなったんだ?」も含めて、全てひっくるめて上質な“ホラー”としてこのオーディオドラマは完結する。

こちらも含め、この時点での“オッドタクシー”はある意味で「後味の悪い」作品として終結する。

漫画版「オッドタクシー」

本編からのオーディオドラマで半ば放心していた中、アニメをコミカライズした漫画版の存在も知る。
こちらも評判が高く、また“マンガワン”アプリで溜まっているポイントの消費及び少額の課金で全話読む算段がついたので早速読破した。

まず特筆すべきところとしては「原作(アニメ)に非常に忠実」という点で、ストーリーラインや構成などは完全にアニメ通り。不要な再構成や変な端折り方もなく、逆にちょっとした補完シーンもあり、セリフはきちんとそのままで、アニメを丸々再見したのと同じ満足感を得られた。
これは「もう一度最初から観たくなる」仕掛けを施しているこの作品のコミカライズとしては大変に適切で、もう一度観たいけどその時間はなかなか取れない私みたいな者には大変助かった。
この漫画を読むことで、二階堂と山本の会話の本当の意味合いを始めとした、セリフに込められたちょっとした伏線を改めて拾い出し「2週目の面白さ」を堪能できた。

特に改めて認識できたのは「ドブの恐ろしさ」。
初登場時点での彼の持っている情報量と内容を読んでいるこちらも把握できていることと、絵の迫力で、彼の驚くべき程の頭の切れ具合や先回り具合を感じることが出来、そこから転じて“悪辣さ”がより明確に伝わってくる。
この漫画を読むことで、ようやくドブが一貫して小戸川にとっては“敵”であり、物語全体の“ラスボス”であるとしっかりと認識できた。
引いては、田中の果たした役割もよりハッキリと明確になった(彼がいなかったら物語はドブの一人勝ちだったわけだ)。

もちろんただアニメの焼き直しではなく(それだったらジブリとかで昔よく出ていたフィルムコミックでいいわけで)「漫画としての良さ」もしっかりあるのが素晴らしいところ。

まず単純に画力が高く、「動」のシーンの迫力はアニメを上回っている(まぁアニメは敢えてそこに注力していないわけではあるが)。
「コマ」で演出が出来るため、重要なシーンは大コマの「トメ」できちんと決まりアニメより印象に残りやすい場面もある。
序盤からどことなく白川さんのやさぐれ感や二階堂の「何かある」感も表現されていて、“画”としての強みをきちんと生かしている。

「じゃあ逆にマンガだけでいいじゃん」というと当然そんなこともなく。
会話におけるテンポや間はやはりアニメの方が楽しめるし、この作品の魅力は本職じゃないキャストも含めての「声」が大変に大きいと思っている。BGMの有無も大きな差だ(特に白川さんのカポエイラ周りは絶対にアニメで観た方が良い)。
また、漫画として「画力」「迫力」を長所として挙げたが、これが「擬人化された動物たちによって軽減するエグさや粗」及び「ほんわかした絵面に対しての内容のギャップ」といった、この作品を構成する非常に重要な要素を逆にスポイルしてしまっている部分がある。

総じて、漫画・アニメとも非常に良い相互互換関係となっているコンテンツだと思う。

やはり本流はアニメである以上「アニメ→漫画」という順番での摂取をお勧めしたい。

終わりに

久々にしっかりコンテンツ全体に、現在進行形でのめりこんでいる作品であった。スピンオフと実写ドラマ化の存在を知れたことが大きいと思っている。

今後の予定としては、映画版の“オッドタクシー イン・ザ・ウッズ”、スピンオフ舞台“オッドタクシー 金剛石は傷つかない”(これがなんとU-NEXTで配信されているのである)を鑑賞、前後はしそうだが新たな展開となっている現行連載中の漫画“RoOT / ルート オブ オッドタクシー”を読み、4月から放映されるドラマ“RoOT / ルート”に臨みたい(恐らく本放送には色々と間に合わないのでこっちは録画後追いになりそうだが)。

※実は映画版自体は先日視聴を終えたが、こちらの感想は他コンテンツと合わせ追って。

今年の上半期はこの作品で相当に彩られそうである。

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