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【感想】ブラッシュアップライフ 変わらないモノの大切さ

ドラマ“ブラッシュアップライフ”をHuluにて鑑賞し、完走した。

途中で止まっているドラマやアニメがたくさんある中、一気見してしまった。
主人公グループの年代が自分とほぼドンピシャであり「今見ることに意味がある」ことを強く私に認識させたのと、やっぱり偏にこのドラマ自体がいい意味での「軽さ」も併せ持っていて非常に見やすかったこともある。
※パートナーがリアルタイムで鑑賞済みだったため、パートナーを気にせず自分の好きなタイミングで鑑賞できたことも大きい。2人で見ている作品は、同時視聴できるタイミングが限られ、結果なかなか進まない。

感想としては、「めちゃめちゃ面白い」。
時には声を出して笑い、時には心をグッとさせながら、とても楽しい鑑賞タイムを過ごした。

ある目的を持って人生を何度も周回する女性を、基本ラインはコメディとして追いながら描くこのドラマ。メッセージ性を前面に押し出すでもなく、しかし軽妙快活に描かれる彼女たちの人生は私たちの心にじんわりと「何か」を残してくれる。
それはノスタルジーでも、憧憬でも、感動でも。
恐らく人によって違うだろうが、とにかく「何か」。その人が過ごしてきた人生や生活によって、残るモノはきっと異なる。でも、その「何か」は大なり小なりきっとポジティブなモノではあるはずだ。

そんなことを思わせる、良いドラマであった。

まず、キャラクターがいい。
どの登場人物も実在感を持ってそこに「いる」。友人同士でのああいう掛け合いは、幼少期・子供時代・学生時代・大人になってから、どこかの描写で必ず刺さる。ハッとしてクスッとさせる。
そして私のような、大人になってから疎遠になった幼馴染ばかりのような人間に、地元で遊ぶということをほとんどしてこなかった人間に、「古くからの友人」の憧憬を抱かせるし、彼らと繋がりを持ち続ける人生であったらという夢想を引き起こす。そしてそうでない人には強烈なノスタルジーと喜び、共感を味わわせるだろう。
主人公たちを「33歳独身」として、あまり色々背負わせない塩梅も絶妙だ。これが後々、周回を重ねる上で良い感じに効いてくる。

そしてもちろんそのキャラクターを演じる演者がいい。
登場人物に実在感を与え、この作品を傑作たらしめている要素にこれは外せない。これだけの役者陣をそろえた時点で勝ちだ。このドラマの設定や仕組みに没入できたのは彼女たちの演技があってこそだ。

とにかく安藤サクラだ。「同じ人間ではあるが違う人生を積み重ねていることによる微妙な差異」の演じ分けが抜群すぎる。
特にすごいのは三周目のテレビ局社員のとき。市役所職員・薬局勤めの薬剤師という比較的穏やかな職務だったこれまでの周回とは劇的に違う多忙職種に従事しているときの、喋り方や表情の作り方、歩き方、動作、周囲とのコミュニケーションの取り方ややつれ具合などのちょっとした違い。
「性格ずいぶん違うな・変わったな」まではいかない。「こういう職業・人生だと若干こうなるんだ、あーちんは」と見てるこちらに自然にそう思わせるその演技力。
そして四周目・五周目では、テレビ局時代で培った対人スキルをいかんなく発揮しているその自然さ。さりげない「積み重ね」の妙味。
映画にせよドラマにせよ、「安藤サクラが出ているなら」と名前だけでその作品に惹きつけるその魅力をいかんなく発揮している。

まりりんを演じる水川あさみも良い。
三周目までは優秀な同級生として毎回ちらっとだけ登場する彼女がついに四周目で本格参戦するが、彼女自身の「一周目」が描かれる際の「後付け感・付け足し感」の無さがすごい。彼女がいない3人組を我々は既に見ているのに、その3人組は完璧なバランスだと思っていたのに、彼女を見た後だと何か物足りなく感じる部分が確かにある。その自然さ、溶け込み具合。水川あさみだからこそだろう。
そして本来のポテンシャルは「中の下」で高校ではあっさりギャルになるような性格だった彼女の、ちょっと図々しくて空気が読めないところが、旧友であり新たな仲間であるあーちんを得てさりげなく発揮されているところも面白い(バイキングでお茶3杯持ってきてたり、ガストで一人でハンバーグもりもり食べてたり、毎回帰り際にトイレ行ったり)。

木南晴夏と夏帆の「変わらなさ」も欠かせない。
人生を周回していない彼女たちは麻美や真里が積み重ねていく中「変わってはいけない」。人生を周回している登場人物たちに挟まれての「常に一周目」感はなかなか難儀であったと思うが、そこはやはり見事。
辛辣なことを言ったり面白いことや上手いことを言おうとしつつ根は割と常識人で周りを見ているみーぽん、ボキャブラリーがそこまででもなく、週に比べると若干口数は少ないが、実は一番天然かつやべー奴ななっち。
掛け合いの巧みさ、絶妙な間で以っての会話劇。この物語の登場人物に最も実在感を与えてくれているのは、間違いなく彼女たちがいてこそであると思う。

基本的に同級生役の演者は年代も合わせて欲しいと見ながら感じることの多い私であるが、今回は逆に人生を周回していることによって生じるちょっとした「差」が、演者の年齢をバラつかせたことでうまく活きたと思う。特に水川あさみはそれが功を奏している。(夏帆だけさすがにちょっと若すぎるなと気になるところはないではなかったが、なっちのキャラクター性でギリギリ覆われたかな、というところ)

そして上記メインキャラクター達を支える脇役たちはもちろん、絶対外せないのが彼女らの子供・学生時代を演じた「子役たち」。
特にあーちんの幼稚園時代を演じた子が白眉だが、他の子どもたちも劣らない。幼稚園時代から中学・高校時代の演者まで、よくぞここまで揃えたものである。この子たちを見ていると日本のドラマの役者陣は安泰だなと思わざるを得ない。

そしてもちろん、脚本・演出がいい。
視聴者の心の流れや反応を恐らく完璧に予想して組み立てられている。
「ここでこうなるとこうじゃないかなあ」と思う部分が完璧なタイミングでお出しされるのだ。それは視聴者であるこちらの予想が当たったというよりは、そう思わせられるよう脚本や演出で巧みに誘導された結果である気がしていて、ニヤつくバカリズム氏が薄く見えて鼻につくこともないではないが、素直に感服するしかない。

そしてあまりこの言葉は使いたくないが、「伏線」がうまいことスパイスとして効いている。
「盛れる」「イオン」「飛行機事故」など、けっこう分かりやすい前振りで“勘のいい視聴者”を「はいはいなるほどね」と思わせ、周回の中で細かい回収は都度都度行って“その辺ちゃんと拾える視聴者”を「お、ここでこれが繋がるか」と満足させ、その実バカリズムの世界観故に一見ただのコメディ要素かと思われる中に本当の伏線を巧妙に紛れ込ませている。
「宇野真里ちゃんって人生二周目説あったよね」は麻美の今後における前振りでしかないと思っていたところに現れる水川あさみにはまんまと驚かされた。三浦透子演じる河口さんのファインプレーとそれに連なる(散々連呼して関わってきた)「不倫」というキーワードの活かし方は鮮やかすぎて鳥肌が立った。この辺りも完全にバカリズム氏の掌で転がされている。

それでいて、展開に鈍重さが無い。設定や説明を見せつけすぎず、常に語り口や進行がスマートなのだ。上記で挙げた河口さんの件も不倫にまつわる諸々も、別に後から回収せずとも単品として上質に面白い。
最終的には大きな目標が出来たとはいえ、ここまでの四周の人生だってけっしてただの前振りではない。「最後の展開に持っていくためだけのこれまで」では決してない。一つ一つをかけがえのない素晴らしい人生としてきちんと描いていると感じた。あーちんにとっての「五周目」がたまたま最後の周回で、そして彼女にとっても満足のいく人生であっただけ、というスタンスは崩れない。

こういったタイムリープ物としてありがちな「生まれてくる子供」「付き合ってきた恋人などの恋愛関係」「違う行動によるバタフライエフェクト(過去の行動で間接的に救ってきた命はどうなるか)」といった、まともに扱うとそれらがメインとなって一周一周を重くしがちな要素たちも、しっかり触れつつも軽妙に、スマートにクリアしていく。
死ぬときも、まりりんのこれまでを振り返るときも、四周目の葬式も、必要以上に愁嘆場にはしない。麻美が周回目的の自殺に走ったりもしない(これ、下手な脚本家だったら絶対やってる)。あくまで軽く、サラッと。それでも、それだからこそ心に残るシーンが出来上がる。

一周目で5年以上付き合った元カレは怠惰なダメ人間だったが、自分と付き合っていない二周目においては年商10億の起業家となっており、元々それだけのポテンシャルを持っていたことが発覚する(そして2ヶ月付き合っただけの三周目では1億減って年商9億となっている)。
四周目で発見した未知の細菌類は、自分がいない五周目でも別の人間が発見している(しかも、自分が関わっている時よりもっと早く)。
一周目で仕事の愚痴を言い合うだけだった同僚たちは、自分がいない周回では恋バナでポジティブに盛り上がっている。
社会人として職場で再開した幼馴染は、(悪意はないが)結婚していることを教えてくれていなかった。

社会というのは得てして自分がいなくても問題なく回っていくし、自分がいないと成り立たない人間関係なんてものもそうそう無い。そういった要素を、それに連なる寂しさを含め毒っ気を交えて突っついてくる。笑えるが、でも笑いながらも観ているこっちの心も何かに思い当たりちょっとチクッとする。

この辺りの描写や語り口が本当にうまいのだ。さりげなく、軽く、さっぱりと、分かりやすく、何度も出てくる描写やセリフは印象に残し、それでいて飽きが来ない。複雑であるはずのタイムリープ物の描写がしっかり積み重なっていく。これは、ただただ単純にすごい。すごすぎる。天才の所業と言ってしまって差し支えない。

そして色々な描写が所々でしっかり提示されることで、「それでも仲良し4人組においてはまりりんとあーちんの代わりはいない」という事実がくっきりと浮かび上がるのだ。

そう、(まりりんの)一周目における仲良し4人組は、まりりんが欠けると3人組に、あーちんが欠けると2人組になる。代わりが入ることは決してない。れなちゃんやごんちゃんやぺーたんが加わることはないのだ。

そして細かいところであるが「4人組が出来上がる周回のとき、麻美も真里も寿命が長くなる」という事実が私はとても好きだ。
(まりりんにとっての)一周目、なっちとみーぽんが35歳で飛行機事故で亡くなるという悲劇はありつつ、まりりんは62歳まで生きたと彼女の口から語れたし、その時点であーちんはまだ生きていたらしい。
その後、4人組が出来上がらない周回においては飛行機事故は継続し、残った2人も事故による早死にの運命は避けられない。往々にして飛行機事故より前に麻美と真里は亡くなっている。
そして最後の周回がどうなったかは言わずもがなだ。

これがなんというか、とてもイイ。細かいところでテーマに対しての一貫性があって好感が持てるし、何より4人組の関係性の良さや絆がより補強される。

色々な要素が絡み合っていくにせよ最終的な帰結は「変わらないモノの大切さ」「友情の尊さ・掛け替えのなさ」。これは1話・2話での一周目・二周目となんら変わらない。

あの4人組が40過ぎて全員浮いた話もなく実家暮らしであることに違和感を覚えないかというと、そりゃ覚える。
だがだからといってそこに何か理由を付けたり別の方向に広げる必要はない。彼女たちがそれを選びそれでいいなら、いいのである。そう思わせる力がこのドラマにはある。
各周回ごとにテーマを変えて、恋愛や家族愛、サスペンスやミステリー要素を入れることだって出来たはずだ。でもそれはしない。「友情物」一本勝負。それを描くことにおいては、浅野忠信だって必要ない。
だからこそこの作品は面白く、素晴らしく、私は登場人物たちへの強い憧憬を持たずにはいられない。

ここからは余談であるが、細かいところを考えるのも楽しかったりする。
システム的に人生周回している人って結構いるのでは?とか、それぞれの人生における徳の高さ設定とか。

例えば来世は「その周回で積んだ徳」、周回回数は「一周目で積んだ徳」によって決まる。
麻美は五周がラスト、真里は六周がラストで、河口さんは九周目が確認できているが彼女の場合はこれが最後とは限らない。
河口さんは一周目の人生に不満がなく、基本的には周回を重ねても同じ人生をなぞる形で繰り返しており、何度も経験できるほど本人の満足度が高い人生が、2人より恐らく圧倒的に徳が高いものになっているという事実に、本人のキャラ性もあって妙なおかしみを感じる。
更に一周目においてはあーちんよりまりりんの方が徳を積んでいるということも面白い。割と無難に悪いこともせず生きていたあーちんと高校時代はまぁまぁギャルで徳を積んでなさそうなまりりん。差は大人になってからの職業であろうか。保育士としてのまりりんは徳を積み上げていったのか。
それでいて来世はあーちんがオオアリクイ、まりりんがそのオオアリクイに捕食される白アリである。(河口さんはアオサギ)
なんとなーくバカリズムの人生観が反映されている気がする。(最終的に鳩に落ち着く辺り、鳥に結構高い評価を与えている感じもする)

………

最後にまた改めての総括となるが、「ブラッシュアップライフ」はキャスト・演出・脚本、全てが混然一体となった素晴らしいドラマである。
このドラマの登場人物たちと同世代で良かった。30代の今観ることが出来て良かった。

自分がもし人生を周回するとしたら。
結婚し子供がいる私は、今の家族と出会わない人生は考えられない。きっと河口さんのように同じ人生をなぞることになるだろう。
だがその過程における友人関係はどうなるか。
高校は同じところになりそうだけど、人間関係もうちょっと頑張りたい。大学や就職でより上を目指すことはきっとできるはずだが、浪人して入った大学での、今でも付き合いのある友人たちとの出会いを自分は無かったことに出来るだろうか。

なんてことを薄っすらと考える。

憧憬・望郷・感動。

このドラマは色々なモノを与えてくれる。良い意味で軽く、口当たりが良く、何度でも見返したくなる。あーちん・みーぽん・なっち・まりりん達にに何度でも会いたくなる。
作劇上、軽いノリで人生を繰り返す登場人物たちに合わせるように、このドラマは軽いノリで見返すことが出来る。
これもドラマスタッフが狙った効果であるなら、大成功である。

………

基本的にはリアルタイムでドラマを追うことは難しいため、話題になったものやパートナーの感想を聞いて後から摘まむスタイルである。
アンナチュラル”や“大豆田とわ子と三人の元夫”などもそのスタイルで視聴し感動と感銘を受けた。
SNSなどでリアルタイムで追うことの楽しさがなくなったり思わぬネタバレを拾う可能性がある反面、私自身ネタバレにそこまで目くじらを立てるタイプではない上にそもそもSNSで他者と交流をすることもないため、これからもこの考えで後追いサクサクでドラマ視聴をし、完全に今更なタイミングで感想noteを挙げていくスタイルでいこうと思う。

次は何を観ようかな。

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