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【感想】M-1グランプリ2023決勝

2024年一発目のエントリーとなるが、実質的には2023年12月アップくらいの気持ちであるので新年のあいさつは別記事にて。

敗者復活戦感想はこちら

一組一組の感想は私なんざが上げる必要はほぼないと思っているので全体感として。

とにかく令和ロマン凄すぎない?に尽きるというところである。
第一回大会の中川家以来のトップバッター優勝は本当に見事、最後に宣言していたように本当に来年以降も出て歴史を作っていってほしい。

最終決戦3組は全く文句なしで、最終決戦のクオリティは個人的には2005、2016に匹敵する「どの組も面白い」と思える状況であった。(とはいえさや香の見せ算は優勝できるとは思っていなかったが)
最後の令和ロマンとヤーレンズが交互に出てくる審査結果、及びM-1史上初の最後の一人まで優勝が確定しないという事態の大盛り上がりはきっと今後も語られるし私自身も忘れないだろう。
ここだけでもリアルタイムで見ることが出来て嬉しく思う。

とはいえ、この「トップバッター令和ロマン」が良くも悪くも大会全体を狂わせたのかもしれないな、という思いはある。
というより今回は笑神籤が悪さをしすぎている。

X(Twitter)でもポストしたが、ファーストラウンド自体は近年稀にみる不発の大会だったと思う。

トップバッター令和ロマンが空気を作り持っていったことで“基準”を狂わせ、ともすればここから点数がどんどんインフレしてしまうのではないか、とも思わせたところでシシガシラが(申し訳ないが)思い切りやらかしてしまった。
令和ロマンが決勝としてぶち上げた場で、事実として準決勝で落ちている決勝のレベルに達していない漫才が披露されたことで、空気と雰囲気が思いっきり下がってしまった。
自己紹介としては相応しかったかもしれないが、決勝2番手としては明らかに場を盛り下げたことは否定できないだろう。
この出順でこうなってしまうのであれば、よっぽどナイチンゲールダンスやトム・ブラウンの方が相応しかった。

続いてがさや香だったことも差し引きマイナスだったように思う。
さすがさや香、重い空気の中でやりきってくれたが、引っ張られてしまったゆえか恐らく連鎖してうねるはずの部分が単発になってしまっていたり、新山さんの声量や怒鳴りが必要以上に大きすぎて、笑いより少し引いてしまう場面があったように私は感じた。
それ故に私は、彼らの最終決戦進出には納得だが「一位通過」は少々ピンとこない。テレビを通して見る限りでは令和ロマンより下であったと思っている。「重い空気を若干上向けさせた」という部分で必要以上に点数が高く出た気がする。
ここで、全体の起爆剤になりうるコンビが盛り下がった空気をちょっと温めなおすことに消費されてしまったこと、更に詳しくは後述するが、ここで彼らが一位に座ってしまったことが、結果的に全体としてかなり致命的だったように思う。

笑神籤の悪さはまだまだ続いて、4・5番手のカベポスターやマユリカといった最終決戦進出や普通に優勝も狙える実力者たちも、さや香同様、重い空気をちょっと立て直すだけに終わってしまったことが惜しい。
6番手のヤーレンズでようやく爆発が起きたと私は感じた。
キャラは千鳥・手数はNON STYLE・コントの雰囲気としてはサンドウィッチマン、とひとつひとつの目新しさは余りないのに、全体としては面白く、新鮮で、飽きない。突っ込みの出井さんの間とテンポも好きだ。
順番運も含めて、私はヤーレンズがファーストラウンド一位である。

ただ、ここでヤーレンズが2位に入り令和ロマンが3位になったことと、大会前から期待値の高かった「強い」コンビがほぼ出尽くしている状態であることが、大会としては更にあまりよくない方向に進んでしまった、と思う。

というのは、恐らくだがここから審査員の審査基準に「令和ロマンを落とすに足るか否か」が、無意識下にでも入ってきてしまったと思うのだ。
同時に観客・視聴者にさえそういった見方が伝播した。
特に真空ジェシカ以降のコンビ陣は、「ネタが変化球気味」・「早い段階で“令和ロマンの方が良いな”と思わせてしまい観客の心が離れてしまった」「実際にクオリティ的にもそこまで達していない」という様々な要因が重なり、観客を爆発させることもできず、審査員の点数も令和ロマンを落とさないことを前提に必要以上に低く付けられるようになってしまった、というのが私の“考察・分析”である。

その煽りをモロに喰らったのは正に上に挙げた真空ジェシカで、塙氏と松本氏で意見は分かれたとはいえ、大吉先生は点数的にも高く評価しており、今年こそ最終決戦に進んでもらいたかったという思いはやはり強いし、それにたるネタのクオリティであったと思う。
そういう意味ではヤーレンズ・令和ロマン・さや香の順で、真空ジェシカかさや香か、というラインであればもしかしたら結果は違っていたかもしれないし、少なくとも真空ジェシカは最低でも4位には間違いなく入っていただろう。
それくらい意識的にか無意識的にか、ヤーレンズ終了以降の点数は必要以上に低くなっていたのは間違いないのではないか。

その後のダンビラムーチョ・くらげ・モグライダーに関しては、私のようなライトなM-1ファンからすればネタそのものに言えることは特にない。

やはり「歌ネタ」はM-1には向いていないし、私的にも特に見ていて面白いとは思わない。また、同じようなネタの段積み(大吉先生のくらげ評)もよっぽどの裏切りや展開が無い限りは尻すぼみになるだけである。

ただ、今回特に不発であったコンビたちを見るに、何点か、私的に「M-1グランプリ」の流れ的には「こうなっているのではないか」という部分はあった。

まず、これは審査表で塙さんも言っていたくらげで特に感じたのだが、決勝の場においてはコンビの特性や各キャラクターなどが「周知されていない」という状況であるということが忘れられていないかと思う。
これは準決勝の審査員も含めてである。

準決勝の客層は、そこにいる時点でかなりのお笑いファン、反して決勝の観客や視聴者はもっとライトだ。
故に、準決勝で受けたネタがそのまま決勝で受けるとは全くもって限らない。準決勝審査員も出場コンビ本人もそこが抜けていると思う。

ものすごいざっくり言えば、今の時代においては“「坊主頭でアロハシャツを着た渋い顔のオジサン」が「31アイスクリームの種類やコスメやサンリオのキャラに詳しいこと」それ自体は笑いにならない”のである。
別にそれ自体は殊更笑いにして囃し立てることではないのだ。だって、おかしいことではないのだから。いいじゃないか、そんな人がいたって。
31やコスメやサンリオに詳しいオジサンを外から見てクスクス笑う感性は、特に若い層には既にない。変じゃない、そのくらいは普通に受け入れられる世の中だ。
つまりくらげのネタは、「くらげの渡辺さんの人となりを既にある程度知っている」という前提が無いと受けないし、決勝のあの舞台でやるならその前提をまず作るべきだったと思う。(他の一般常識を知らないとか、逆に男の世界的なモノを知らないもしくはめちゃくちゃ詳しいのに…とか)
それが無い状態であのネタが始まると、31やコスメの羅列は飽くまで「振り」「溜め」でしかなく、この羅列が終わったところでなにがしかの突っ込みや裏切りでドンと来るだろう、と思いながら私は見ていたのにそれがなくて全く入り込めなかった。

これはダンビラムーチョも同じで、よく知らない人たちが急に歌い出しところでそれは「振り」にしかならず、それそのもので笑いが起きない。

準決勝を見ている人たちとはそこの前提が違う。
「仕組み」で笑えるほど“ニン”が浸透していないし、「M-1決勝」という舞台においてさえ見ている側はそこまでの受け入れ態勢が出来ていない。要は、「見方」が分からない。

キャラクターやネタがそこまで浸透していない中、直前に「年齢」だけ煽りVで周知されたことで大滑りに繋がったアキナとは、逆説的ではあるが根っこの問題は同じである。
(アレは40歳越えが「好きなん?」って……というノイズが強まってしまい、直前に「見方」が分からなくなった)

「決勝初出場」で「仕組み系漫才」で「大受け(優勝)」までいったコンビで印象的なのは2005ブラックマヨネーズ・2018霜降り明星・2019ミルクボーイがあるが、彼らの漫才にはしっかり人間性が乗っかっていて、かつ早い段階で「見方」が分かったという点が大きく異なる。2018トム・ブラウンも同様である。

大きな不発にはなっていないがマユリカも同様の問題は抱えているように思っていて、阪本さん・中谷さん両者のキャラクターや立ち居振る舞いがもう少し知られていればもっと面白かったように思う。逆に言えば彼らはこの一年で露出は増えるだろうし、そうなると来年もっと強いだろう。

この辺りをうまく利用できた最たる例はマヂカルラブリーで、2017は「見方」が分からず大滑り、その後彼らのコンビ性や人間性が浸透していったことが、2020での史上初の「返り咲き優勝」に繋がったとみている。
(2005-2006チュートリアル・2020-2021錦鯉・2020飛んで2022のウエストランドも同じ流れだと思っている)

その点で言えば今年のモグライダーはかなり有利だったはずだが、こちらも順番に泣かされた。
また、ともしげさんが世に充分に浸透していたことで「らしさ」が出しきれていないことが伝わってしまい、2021の方が「見やすかった」というのも皮肉なところである。

前提の食い違いとしてもう一つ思うのは、これはシシガシラや敗者復活、さらにM-1関係ないネタ番組などでも思うのだが、
「最近はコンプライアンスでそういうことは言っちゃいけないんだよ」という言説さえ一昔前のモノで古臭い
ということがある。
「時代が変わったから、ルールが変わったから、言っちゃいけない」ではない。「元々言うべきことではなかった」のである。少なくとも若い層の前提はそうなのだ、これが浸透しているのだ。(良くも悪くも)
「言っちゃいけない」のニュアンスが違うのだ。

故に、シシガシラの敗者復活は受けたし決勝は受けなかったのだ。

単に「今はルールでそういう言い方はダメなんだよ」と言われても、そこの前提からして“違う”ので、むしろその言動自体が「古臭い考え方の人によるボケ」にさえ思えてしまう。
そんな中でそこに特にツッコミが入らないで、言葉で「ハゲは許されている」と言われても、ただ戸惑いが続くだけで笑っていいものなのかどうか分からない。
ただ、シシガシラの敗者復活ネタは「言っちゃいけないことはあるけど本人の立ち振る舞いによっては笑えてしまう」という、上記の決勝ネタの言説を正に体現していて、素晴らしかった。
なかなか言葉で言い表すのが難しいが、2022のウエストランド優勝と併せてみると、「たぶん、きっと、そう」なのだ。

総じて今回のM-1グランプリ決勝、全体としては

・笑神籤が悪さしすぎ
・準決勝と決勝での“前提”の大いなる食い違い
・最終決戦及び結果発表は史上最高クラス

であった。

なんというか、順番って見る側からしても本当に大事なんだなと改めて思わされた。
「2022」のウエストランドはコンビとしてそこの順番をうまいこと利用できたし、全体としては「2019」は本当に奇跡のような大会だったなと再度気付く。
「自分の順番」だけではなく「全体の流れ」というのがとても重要で、令和ロマンはそこも含め事前準備が完璧で、逆にヤーレンズはそれらに左右されないネタ構成なんだったんだと思う。

改めて2023も大変楽しめた。

2024も今からとても楽しみである。


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