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”おやき”を食べに信州へ①〜長野県千曲市姨捨駅〜姨捨棚田。

秋の日射しの中、キンモクセイの香りを嗅いでいたら、突然”おやき”が食べたくなりました。あの香りには、稲刈りの終わった田んぼの風景と密接に繋がるような、何かを感じます。そして、関東から近い広大な田園風景と言えば信州。信州と言えば“おやき”へとイメージはふくらむわけで。
この時期、日向ぼっこをしながら“おやき”を食べるほどシアワセなことは無いかもしれない。そうだ、信州へ行こう。ちょうど予定の空いた数日間、長野県までクルマを走らせることにしました。
到着してみると、信州も秋晴れ。さっそく、焼きたての”おやき”を手に、気持ちの良いベンチを探して善光寺の周りを歩き回り、翌日、松本市まで移動する途中でこの駅に立ち寄りました。この駅、「日本三大車窓」の風景で知られています。そして行ってみると、そこには想像以上の絶景。三大車窓の実力に驚いたので、まずはこの駅の話から始めることにします。

ナビには姨捨駅と入力。長野市内から一時間ほど。

それにしても日本全国、郊外の幹線道路の景色はどこも同じですね。長野市の郊外を走る国道18号にも大きな看板が立ち並び、退屈な風景が続く。と思いきや、途中、川中島の古戦場があったりして、かろうじて信州のプライドが守られている。
この古戦場にも寄ってみたいけれど、その日はそのまま目的地へ。間もなくJR篠ノ井線の駅名が現れ始め、やがてナビは聖高原方面に右折を促す。いずれ狭い峠道に入るのかと思いきや、意外に広い道のまま駅に到着。
えぇっと、クルマを停める場所は? と、クルマを下りて探してみたところ、来た道を少し戻ったところに「姨捨駅無料駐車場」があった。長野市方面から来ると左手にあります。

やって来ました姨捨駅。何となく、今は亡き原宿駅の木造駅舎を思い起こさせる。2010年に、開業当時の駅舎が復元されたとのこと。思えば怖い駅名ですよね。駅の中にお婆さんがひとりでいたら怖いだろうな、と思いましたが、誰もいないので安心しました。
駐車場側から駅を見ると、スイッチバック(急勾配のため、斜面を行ったり来たりジグザグに登る)の名残の線路が残されていました。今も向こうから来た電車が、そのまま向こうに引き返して行きます。

駅は無人駅でした。とは言え、かつての駅事務室は残されており、今は地元の人たちの「くつろぎの駅」として、開放されている(この日は閉まっていましたが)。入場券は不要、との表示。それでは遠慮なく、お邪魔いたします。
おっと、跨線橋を渡ろうとしたら、遠くから踏切の音。僕が無人駅に行くと、なぜかすぐに電車が入ってくることが多い。「撮り鉄運」があるのかもしれない。

階段を昇っていたら、ちょうど各駅停車が向こうからやって来ました。この電車も、来た方向に出て行きます。なお、特急に乗ってしまうと別の線路を通るので、このホームを見ることができません。

そして跨線橋の階段を下りる。できるだけ風景は見ないようにしよう。あの有名なベンチに座ってから、初めて見ることにするのです。

そして、ご対面。

おやきを買ってきてよかった。まだ温かいし。おやきとは、こういう景色を眺めながら食べるためにあるのではないだろうか。

景色がいいので、ベンチはホームではなくて外を向いているのです。

そして振り返る。

うわ! どうですか、この眺め! 真ん中を流れる千曲川。その川沿いに開けた長野盆地を丸ごと見ることができます。ちなみに、さっきまでいた善光寺はこの写真の左奥に見えるはず。
続いて、視線を右に移すとこの通り。手前には、「田毎の月」で知られる姨捨の棚田群も見えます。
ホームには、このような案内図がありました。上の写真と見比べてください。
さすが、日本三大車窓の実力を知りました。ちなみに日本三大車窓の残りは、北海道、根室本線の旧狩勝峠(現在は廃線で、「狩勝ぽっぽの道」とされている)、九州、肥薩線の「矢岳」だそうです。

さてと、ひととおり興奮が鎮まったところで、この景色を眺めながら”おやき”を食べて、ポットに用意してきた緑茶を飲んでいるうちに(こういう地味な旅には、緑茶が合うんです。しかし、わざわざお湯を持ってきて淹れたりもしない。ペットボトルなんてもってのほか。ポットの中で少し味が変わってしまったような緑茶こそが、秋の旅気分なのです)、一時間も過ごしてしまった。一日中いても飽きないだろうけど、そろそろこの場を後にしようかな、と。

駅の階段もよき。景色を見せるためなのかどうか、透明なアクリル板なのです。
あの駅名表示、緑のラインがスイッチバックを強調している。
駐車場を出たところに、この案内。ちょっと寄ってみるかな、と。

ところが、この棚田が広くて美しくて、また一時間近く過ごすことになるのだった。

日本景観遺産の棚田も、かつては耕作放棄が進んでいた。

姨捨駅の駐車場からカーブをふたつほど曲がったところに地域の観光案内施設があり、広い駐車場があった。向かいには黄葉が始まったイチョウの木。そして、この棚田の歴史を物語るお寺がある。

このイチョウの木の向こうに、寺へ下りて行く階段がある。
階段の入り口には、姨捨伝説の由来。なるほど。結局お婆さんは捨てられずに済んだわけだ、よかった。

斜面を利用した境内。階段を下りて行けば、いろいろと見るべきものが多いと思われるけれど、秋の日射しはだいぶ西に傾いている。先を急いだ方がいいかな。

そして、ここは月の名所とも言われている。最近になって、千曲市が地域おこしで言い出したわけではなく、昔から、伝説に残るくらいに月の名所とされていたようだ。
駅から急な下りの農道を1kmほど下りたところに、「棚田入り口」の表示があった。それに従って進むと、きれいに整備された駐車場。下りて、角を曲がると、何とまぁ、実に広い棚田が広がっていた。

「田毎(たごと)の月」という言葉は、棚田の枕詞と言ってもいいくらいに多くの棚田で使われる言葉だけど、ここが発祥なのかもしれない。
ここまで言われると、もう一度、満月の夜に来たくなるというもの。
棚田を少し登って、姨捨駅を見上げてみました。

ご存じの通り、僕も岡山県美作市の棚田にはたびたび出かける。耕作放棄地になっていた広大な棚田の再生活動を、ほんの少しだけ手伝っているからだけど、ここの広さもかなりのもの。

分厚い畦に逆光が当たると、何かの遺跡のようにも見える。

稲刈りを終えた田んぼの片付けに来ていた方に聞いてみると、この棚田もかつては耕作放棄地が広がっていたものの、オーナー制度も導入しながら再生を進めているとのこと。もともと耕作を続けていた地元の方に加え、現在、80名ほどのオーナーの方々がおり、150枚ほどの田んぼを担当しているという。もちろんオーナーの皆さんも農作業に出てくる。東京から来る人が、いちばん多いとのこと。
日本全国、山での困りごとは変わらないんですね。それにしてもこの棚田、こんなに広いのに、雑草がきれいに刈られてます。

駅、長楽寺、棚田の位置関係。なお、駅から日本遺産センターの駐車場も近いです。
観光客向けの施設も整っているので、棚田入門にはとても良い環境だと思います。
ここにはまた来よう。と思いながら、姨捨駅周辺を後にするのでした。

ということで、有名な観光地ではなくても発見は多いもの。こうして、自分だけのお気に入りの場所を探し出すのも、広〜い信州の楽しみ方かもしれませんね。







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